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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

薬術の魔女関連

婚約破棄をお願いされましたが、多分無駄ですよ。

作者: 月乃宮 夜見


 婚約破棄モノを書いてみようと思ったらこうなりました。


 どーしてこうなった。


「エクサエラ・オルトース。お前との婚約は破棄する。いいな」


 一方的に告げられた事実に、ただ私は目を瞬かせました。


 私の目前で気怠げに椅子に腰掛ける方はルシフル・シャヘル・ラムドラコ様です。

 ややこしい名ですがシャヘル・ラムドラコの部分が名字でございます。

 なんとこのお方、王弟でございます。ですが法律により継承権をお持ちでない。おまけに()()()()()()()()()()()()()()()な上、なまじっか賢いので柔らかく言うと孤高なお方でした。

 はっきり申し上げますと人望がなく、旨みもないので擦り寄る者も居ない孤独に愛された御方です。


 久々に執務室へ呼び出されたかと思えば、まさかの婚約破棄の通告とは。


 ちなみこの方、双子でして。髪色と顔つきの少々異なる弟君がいらっしゃいます。

 弟君はミハイル・シャレム・ラムドラコ様ですが、既にこの御方には親衛隊やら擦り寄る貴族やらがわんさかと湧いておりますね。真逆です。


 そして私は軽く手を挙げ、発言したい旨を示しました。

 継承権がないとはいえ王弟閣下ですので、発言するにも一々許可をとる必要があるのです。面倒ですね。


「なんだ。言いたいことがあるなら言ってみろ」


 許可を下すのも面倒だと言わんばかりの態度です。ですが、この執務室は王族を守る為にも『許可が下りない限り王族以外は発言できないように』と規則の術式が掛かっているので許可がなければ会話ができません。

 許可の手形があれば話は別なのですが。

 あるいは、呼び出す部屋を変えて頂ければ。


「この婚約は、国王陛下と王弟閣下直々の指名でございます。ゆえに、貴方様の一存では難しいのでは」


 ちなみにこの時に告げた『王弟閣下』は、ルシエル様の兄上であらせられるアサエル様です。名前以下が少々ややこしいので今回は割愛致します。


「お前のような不吉な家と婚姻などできるか」


 普段通りに進言すれば、ルシフル様は端正なお顔を歪めて吐き捨てました。


 実のところ、私はカニスという不毛な土地で育っただけの侯爵令嬢ですし。高貴なる王弟様であらせられるルシエル様は侯爵家では物足りない様ですね。

 カニスの土地にはサーベラス侯爵家とガールムス侯爵家、我がオルトース侯爵家程度しか貴族家はありませんけれど。


 それとも、カニスの土地の八割が墓地や墓石の採掘場で他孤児院と火葬場しか無いのがお嫌なのかしら。


 ……通常なら嫌かもしれませんね。私はすっかり慣れていたのでうっかりしていました。テヘペロです。


「墓場しか無い、あの土地に住まないならば良いのですか?」


 手を挙げて許可を得てから、再び私は発言をします。


 故郷の地を酷い言いようですが、それが事実ですし観光地も特に無いので他に言いようがないのです。


「……どうせ俺が婚姻した後は新たに土地を貰い受ける。婚姻先の家の土地等どうでも良い」


 随分な物言いですわね。相手によっては国際問題に発展しそうな発言です。ですが、『カニスの(あの)土地に住みたくない』という理由でない事は理解いたしました。


「お前の家は墓守りだろう。誰が()()()()()()()の血を入れたいと思う?」


 ははあ、なるほど。我が家というか血筋にご不満があると。


 しかし。墓守りはカニス大公爵家の役割であり、我が家と他侯爵家の役割は()()()()()()なのですが。


 もしやご存じでない?


 色々思うことはありますが、話が進まなくなるのでというか発言の許可が下りていないので黙っておきます。


「そうだ。その上、魔獣を喰らうというではないか。あんなものを喰いたがる奴らの気が知れない」


 ……それも大公爵様の事でございますね。大喰らいなので食費を浮かす為に土地に入り込む魔獣は大抵数時間後にはお腹の中だとか。


 私達の侯爵家は普通の食事をしていますが? 拒絶反応や消化の問題で、魔獣を食せる者はある意味で選ばれた者なのです。

 宮廷魔術師はほぼ例外なく食べさせられておりますが。やや哀れです。


 しかし。知識が偏っておりませんか。……いえ、なんというか、ルシエル様らしからぬ短絡的な返答でございますね。何故でしょうか。


「それに、お前と居ると何故か気分が落ち着かん」


 いつまで経っても私が首を縦に振らないからか、少し焦れた様子で言いました。

 割と本音に近い話かもしれません。

 緊張してしまう、と。……ふむ。


「恋愛や愛情由縁のものではない。それにお前は機械的過ぎる。もう少し面白い女になってから出直してこい」


 うーわ。なんて酷い。

 しかし自覚はありました。

 だってこの一連の流れすべて、私の表情筋はぴくりともしていませんからね。


 面白い女とはなんでしょうか。

 恋愛物語で登場する主人公のような、よく笑いよく動き、心の優しく、ほころぶ花のような(たお)やかで可愛らしい女性でしょうか。よくわかりません。


「ともかく。俺はお前との婚約を破棄したい」


 雑に再び言われました。


「それだけだ。もう帰れ」


 左様でございますか。

 つまり、私が嫌だから婚約破棄したかった様です。なんとなくショック。


 まあ、私は貴方の見張り役なので離れやしないのですが。


×


 ……そんな昔話があったのです。


 私はルシエル様の言う『面白い女』になれたかは分かりません。ですが、彼が側にいてくれるだけで十分だと思うのです。


 結局、私とルシエル様の婚約は破棄されませんでした。数十年経った今もまだ、婚約中です。

 別に私自身に強い結婚願望は無いので構わないのですが、アサエル王弟閣下やミハイル様、私の家族は微妙な顔をしています。


 それから。


 とある日、天地がひっくり返りました。


 簡単にいうとルシエル様は罰当たりな事に世界の破壊をしたわけです。


 ほーう?

 見張りのないところで自由を謳歌したかったのですね。そして『自分が王になれない世界』を破壊したかったと。


 その上、なんだかよくない()につけ込まれてますし。

 ……私という婚約者(おんな)が居ながら他に(うつつ)を抜かすとは。


「(何故だか、心がもやもやします)」


 胸に手を当て、ほぅ、と溜息を吐きます。


 我ながら豊かな胸部に育ったと思います。しかしこれでルシエル様を籠絡できたかといえばそうでもないのです。

 私を見るたびに顔をしかめて背けるのです。


 ……流石に泣いてもいいですか?


×


 最終的に、罰当たりなルシエル様は国家反逆罪とか何かで捕縛されました。

 まーそうなりますよ。


 そして、とある土地に一生幽閉されることになりました。

 斬首にならなかっただけ優しいです。

 というか、簡単にいえば私の家に幽閉でした。私が当主になったので、実質私のものですね。


 対応が酷いのに、悪い事をしたのに、『あの男でいいのか』と、皆さんはおっしゃいました。

 それでも、私はいいのです。『彼以外はあり得ない』と、心の底から思ったのですから。


「これからは、ずぅっと一緒ですね」


 そう笑いかけると、ルシエル様も笑ってくれました。



『薬術の魔女の結婚事情』と同様の世界観です。


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