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統一後の世界  作者: 恵美乃海
3/7

3 後継者たちの点描

 その言動によって、世の多くの人々をおのれの熱狂的崇拝者とした藤田寛幸。


 だが、身近にいた兄の秀一にとっては、一緒にいて楽しい相手ではなかった。

 ある考え方に凝り固まり、おのれの正しさを信じ、結局は同じことばかりを繰り返し語る。

 そんな人間の相手をすることが楽しい訳がない。


 寛幸が、あの種の思想、信念を持つに至ったのは、父、智治の影響であったろう。

 秀一、寛幸がまだ幼かった頃から、しばしば父は、現代の世界が持つ諸問題を語り、それを歴史的にみてどのように解釈するべきかを指摘した。

 そして、人としていかに生きるか、どのような価値観を持って人生を送るべきかも語った。


 寛幸の精神の基調をなす考え方は、父の語ったことのそのままであったとも言い得る。

 が、智治は、複眼的な思考もなせる男であった。

 自分が理想と考える世界の実現も、理想と考える生き方の難しさも充分に弁えていた。

 現実に対処する能力も優れていた。


 女性にも特に関心を持つことも無かった寛幸が、初めて恋愛感情を持った相手が、加藤愛美だった。

 その時、寛幸は22歳。

 既に

 謙受会会長として、人々に望ましい生き方を説き、

 静穏中庸党代表として、人々を政治的に率い、

 そして政務委員長として、独裁的な権力を揮っていた

(後者ふたつについては、名目的にはという注釈が必要であろう)。


 加藤愛美は8歳年上。2番目の子供が生まれて間もない人妻だった。


 二人が出会ったのは、独裁者と、注目を集めていた美貌の科学者との対談であった。

 寛幸は、会うやいなやこの女性に魅せられ、おのれの妻にするべき人と思い定めた。


 数年後、加藤愛美の離婚が成立し、加藤愛美は、寛幸の妻となった。ふたりの間に子供はできなかった。


 寛幸の加藤愛美に対する想いを知ったとき、秀一の頭をよぎったのは、アレクサンドロス大王と、ナポレオンのことだった。


 アレクサンドロスは、7歳程度年上で、子供もいた敵将メムノンの妻バルシネを愛し、側室とした。


 ナポレオンは、7歳年上で、子供がふたりいた未亡人ジョセフィーヌを妻とした。


 ー 歴史的にみても隔絶した独裁者たちの女性の趣味は、見事なほどに一致しているな


 秀一はそう思った。


 が、愛美がアレクサンドロスの愛したバルシネ。ナポレオンの愛したジョセフィーヌと決定的に異なっていることがあった。


 それは愛美という女性が、優れた政治的能力を有していたということである。


 愛美を見るとき、秀一の頭に思い浮かぶのは、世界の歴史において、その政治的能力により傑出した存在であった東洋史、西洋史における両巨頭。

 唐の武則天(則天武后)。ロシアの女帝エカテリーナであった。


 寛幸は、一途に愛美を愛していた。

 が、愛美は果たしてどうだったのだろう。

 あの種の男性を、愛美のような女性が愛することができるのだろうか。


 秀一はある時、そのことを愛美に問うた。

 愛美は静かに微笑み、何も語らなかった。


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