第66話:降参しよーよー
ずいぶん間が開いてしまいました。すいません。
「はっ、そんなことできるのか?」
タウを正面に見据えたまま、挑発するように言う。もちろん、表情はまだ何か隠しているかのように余裕ぶって。タウは俺の表情通りに受け取ったのか、
「へぇ・・・まだ何かあるの?てっきり、もう満身創痍だと思ってたのに・・・」
気づいたか・・・いや、この感じからしてまだか。静かに冷や汗が流れる。鼓動が早まるなか、必死に打開策を考える。が、何も思い浮かばずただタウを見るだけ。しばらく、全く動きをみせない俺にあきれるような素振りを見せながらタウが近づいてくる。その手には夢で砕いたナイフ。
「なぁんだ、結局ハッタリだったんだ。アデルって中々嘘がうまいね。でも---」
俺の目の前まで来たタウがナイフを静かに振り上げられ、そして
「嘘はだめだよ」
言葉と同時に振り下ろされる。刃先があと数センチのところまできた瞬間、タウの背後から突然
「もらった!!」
勝利を確信したような叫びとともに、いつの間にか回復していた竜二がタウに襲い掛かった。俺とタウが驚愕に目を開く。しかし、タウの表情はすぐに落胆の色に変わる。
「残念だけど、バレバレだよ」
タウの振り返りざまの裏拳が竜二の右頬にヒットし、近くの木々をなぎ倒しながら竜二を吹き飛ばした。衝撃が収まっても竜二は立ち上がってこなかった。タウは詰まらなさそうにそちらを一瞥したが、すぐに視線を元に戻したがそこに俺の姿はなかった。竜二が作ったこの隙を見逃さず、少し回復した魔力で瞬時にタウのより少し短いナイフを作り、そのまま反撃を警戒しながら攻撃。ナイフがタウの胸に刺さる直前にタウの体が半円を描くように動き、両手で俺の腕を掴み右ひざ蹴りを放った。バキッ、そんな音と共に俺の腕が折れる。
「うぐあぁぁっ!!!」
「あらら、こっちもざぁ~んねん♪」
言うや否や折れた腕をひっぱられ、間髪いれずに顔面を殴り飛ばされる。
「ぐふぅ!」
数メートル飛ばされ、地面をゴロゴロと転がって止まる。向こうからは、タウが悠然と歩いてくる。すぐに起き上がろうと思ったが力が入らずできなかった。そして、這い蹲ることしかできない俺をタウが見下ろす格好になった。その顔はとても嬉しそうだ。
「いい格好だね、アデル。そろそろ謝っちゃえば?」
勝利を確信している笑み。確かに今の俺ではタウには勝てないだろう。しかし、それでも返す言葉はこうだ。
「はっ、もっと面白い冗談は言えないのか?」
「・・・まだお仕置きが足りないみたいだね」
タウはいい加減降伏する様子のない俺に苛立ち始めたようだ。その苛立ちをぶつける様に俺の腹を思いっきり蹴った。ガードする事すら出来ない俺はそのまま先ほどよりも飛ばされ、香奈達の数メートル横を通り抜けて木にぶつかってようやく止まった。
「ねぇ、もういいじゃん。降参しよーよー」
声は2,3メートル先からする。俺を蹴ると同時に一緒に移動してきた様だった。かなりのダメージがある中、目を開けると右の視界が真っ赤に染まっていた。ゆっくりと視線を上げると当然タウがいた。そのタウを見る俺の目が徐々に驚愕に見開かれていく。タウに己が武器を受け止められて、身動きの取れない二人の従者の姿があったからだ。
「ティア!ノア!何やってる!?お前らには------」
香奈と雅人を守れと言ったはずだ。そう言おうとした俺の言葉はティアに遮られた。
「ご命令に背いた事をお許しください!しかし、もう我慢できません!」
続いてノアが叫ぶ。
「お逃げください!アデル様!」
「馬鹿!お前達をおいて----」
「これは亡き王妃をお守り出来なかった、我々の意地であり、使命!さぁ、お早く!!」
叫ぶと同時にさらに武器に力を込める。しかし、相変わらず動かない。それどころか大きな破壊音と共に砕かれた。唖然とする二人に心底ウンザリしたかのような表情のタウが裏拳を食らわす。
「ぐふっ!?」
「がっ!?」
二人は対照的に飛んでいった。
「はぁ・・・弱いくせに、ウザ。何なの、アレ?」
「貴っ様ぁ・・・!」
自分の中で黒い何かが大きくなっていく気がした。