第63話:麻耶、死す
「ま・・・・麻耶ぁーーーーーーー!!!!!」
香奈たちも口々に麻耶の名を叫ぶ。みんな目の前で起こったことが信じられないようだった。当たり前だ、俺だってそうなのだから。
麻耶がやられたのもそうだが、何よりもタウのあの変わりようは何だ!?ふざけてる。
俺は心の中で激しく叫びながら、倒れている麻耶まで駆け寄って抱き起こしてすぐに治癒魔法を使いながらさらに名を呼ぶ。
「麻耶っ、麻耶っ!!しっかりしろ!死ぬんじゃない!!」
すると、麻耶は弱弱しく目を開ける。その目が俺を捕らえた瞬間麻耶は嬉しそうに微笑んだが、すぐに悲痛の表情が表れる。そして、静かに口を開いて言葉を紡いだ。
「ごめ・・・んな・・さい」
「えっ・・・?」
普段の自分から考えるとありえない、ずいぶんと間の抜けた返事だった。そのくらい意外で、意味が分からなかった。麻耶は何も謝るようなことはしていない。逆に助けてもらって、体が動かず何もできなかった俺が謝るべきなのに。それでも、麻耶はゆっくりと俺に謝り続ける。
「麻耶・・どうしたんだ?」
「助け・・たかったのに、逆にめい・わく、かけ・・て」
そう言って麻耶は震える手で折れた小刀を見せた。それを見た瞬間、焦っていたのが急に落ち着いた感じがした。
「それはどうしたんだ?」
俺の質問に麻耶は最後の力を振り絞るように語りだす。俺がブグパツーロに行っていたとき、一人で庭にいるときにいきなり見知らぬ男が現れて、力をあげるといわれたこと。断ろうと思ったが口車に乗ってしまったことを。これを聞いた俺は今一番やってはいけないであろうことをしてしまった。麻耶の気持ちを考えずに怒鳴ってしまったのだ。
「馬鹿っ!!何でそんなことしたんだ!?」
麻耶は俺が怒るのが分かっていたのか、あまり驚いていないようだった。俺は次に何を言おうとして止まった。いつの間にか麻耶の目に涙が見え始めていたからだ。
「ごめんな・・さい。でも、どうしてもあなたの力になりたかった・・」
「俺の・・・?」
「ずっと、好きだったの・・」
麻耶の手がゆっくりと伸びてきて俺の頬に触れる。麻耶は次の言葉を喋ろうとして吐血した。息も少しずつ荒れてきていた。口の端から血が垂れながら、ゆっくりと口を動かす。
「だから・・・どうしても私を見て欲しかった・・・もう近くにいるだけじゃ嫌・・なの・・・!」
麻耶の心に抑えられていた叫びが溢れる。普段こういうことに疎いはずの俺は、ようやく今まで麻耶が俺のことを見ていた理由に気づいた。全てを悟った俺を見て、麻耶は微かに微笑んだ。そして、
「ねぇ・・誠君。最後にお願いが・・あるの」
「馬鹿・・・最後とかいうなよ・・・!」
麻耶の命がもう長くないことは会話を重ねるごとに下がっていく体温でわかっていた。いや、胸を貫かれた時点で心の奥では分かっていた。でも、理解することを頭が嫌がっていたのだ。
麻耶は静かに首を振って、「自分のことはわかってるから」と言って優しく微笑んだ。
「さい・・ごに、思いっきり抱きしめて欲しいの・・・」
願いを口にする麻耶の目は、じょじょに光が失われていた。俺は静かに、そして優しく麻耶を抱きしめて頭を撫でながら耳元で囁いた。
「ちゃ、んと、麻耶のことは見てた。けど、麻耶の気持ちに気づいて上げられなくてごめんな?」
麻耶の目が驚きに見開かれ、じょじょに笑顔に変わって、そして、
「あり・・・がとう。さよう・・な・・ら」
俺の頬にあった麻耶の手が力なく下がって、地面に落ちた。俺はさっきまでよりも強くしっかりと麻耶の体を抱きしめた。涙が地面に吸い込まれていっていた。麻耶の体を抱きしめたまま、天に向かって叫ぶ。
「麻耶・・・麻耶あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」