第61話:ゾプナ
「ゾプナ・・・だって?」
「竜二君!」「竜二様、お気づきに?」
今まで意識を失っていた竜二がノアに支えられて、半身を起こしながらそう呟いた。タウの束縛に抵抗しんがら俺は竜二に聞き返す。すると、竜二は「昔にも似たようなことがあったらしいけど・・・」と前置きをしてから話はじめた。
「ある町に二人の男女がいて、男は兵隊で戦場にいってばかりでほとんど町にいなかった。そして、その女は経緯はしらないけど男のことが好きだったらしい」
「それって、片想いってこと?」
香奈の質問に神妙に頷く竜二。目で続きを促す。
「ある日、男が久しぶりに帰ってきたと聞いて女は大急ぎで見に行った。でも、そこには傷だらけの体に包帯を巻きまくった男の姿があった。男は戦況は一進一退で、もっと力があればとか色々言ってたらしい。それを聞いた女はこう思ったそうだよ。彼の役に立ちたい、守れる力があればって・・」
「愛してたのね・・・その男の人を」
香奈は心の中で自分がもしその女ならそう思うだろうと思った。香奈の言葉を竜二は軽く鼻で笑って「愛・・・ねぇ・・・まぁいいや」と更なる続きを話し始めた。
「その女が彼のために何ができるか悩んでいたところに、一人の仮面を付けた男が現れ、女の心を読むようにこういったらしい。「力が欲しいか?」と」
「それでその人はどうしたの?」
「そりゃ、最初は仮面の男を怪しんだよ?けどね、結局男への想いが仮面の男の怪しさに勝った、と言ったらわかるよね?」
ちっ、何だそいつは!?人の想いを何だと・・!!
俺は心の中でその仮面の男への怒りが大きくなっていくのがわかった。竜二は二、三度咳き込んでから、
「その時、女に渡されたのがポータルと呼ばれる、まぁ、見た目普通の小刀。そして、その小刀に潜まされていたのが、人の愛を糧に成長するゾプナだ」
ということは、さっき麻耶が持っていた小刀がポータル?
竜二以外の全員が俺と同じことを思ったようだった。タウはもともと知ってた感じがするが。竜二の話が終了したと見るやタウが急に口を開いた。
「そこの男が言った通りだよ。そして、成長したゾプナがアレってわけ」
その視線のさきには、先ほどからこちら(正確には、タウ?)の様子を窺っているゾプナ。突然タウが俺に抱きつく力を強くした。
「さっ、昔話も聞いたし。もう、満足でしょ?行こ?」
それを見たゾプナが突然、叫びを上げこちらに走ってきて、タウの首を自慢の前足で掴んで俺から無理やり引き剥がした。走ってきたのはわかったが、いつの間にタウの首を掴んだのか見えなかった。
「誠!!」
開放された俺を見て、香奈が叫ぶ。その声にタウを地面に押さえつけていたゾプナが香奈の方に向かった。先ほどのタウへの攻撃から避けるのは無理と悟ったのか、ティアが香奈の前に出た。俺は、折れたサイゼットを投げつけると同時に叫ぶ。
「やめろ、麻耶!!目を覚ませ!!」
「っ・・・・・?」
次に来るべき衝撃が来ず、おそるおそる目を開けた。そこには、ティアの少し手前で前足を上げた姿勢で固まっているゾプナだった。ゾプナは、俺の方を見ていた。他のみんなもなぜ止まったのか分からないようだった。そこで俺はふと思った。
もしかして、まだ麻耶の意識はあるのではないか・・?
もしそうなら、助かる方法があるのではないか。俺の中ではそんな考えも芽生えてきていた。意識がある可能性があるとはいえ、ゾプナをあまり刺激しないように慎重に近づき始めた、そんな時だった。
ブシュゥ!!
そんな何かが切れて血が吹き出すような音がしたと思った瞬間、俺の目の前にゾプナの尻尾が落ちてきた。ゾプナが突然のことに悲痛の叫び声を上げる。俺はゾプナの向こう今しがた尻尾を切ったであろう人物を見た。そいつは怒りの形相で、憎憎しげにこういった。
「あんまり調子に乗るなよ・・・!寄生生物ごときがよぉ!!」
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