第60話:麻耶
何だ・・これは?一体、何が起こってるっていうのだ?この場にいる誰しもがそう思ったはずだ。そして、少しでも状況を把握しようとしていく中、小刀の侵食がされに進んでいく。
「あっ、ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
右腕を押えてうずくまる麻耶の悲痛な叫びが響く。その声を聞いて今頃のように自分の体が動いた。
「麻耶っ!!」
「あああぁぁぁ!!」
右腕が何かに引っ張られるようにして上に向けられ、反射的に体が止まる。そして、掲げられた腕を見て麻耶にかける言葉を失った。目の前の麻耶の右腕、それはすでに人の腕ではなかった。それは、
「鳥?・・・・にしても」
普通の鳥の足にしては、大きすぎた。小刀は足の爪の一つになったのか、見た目には分からなくなってしまっていた。そして、この間にも侵食は肩まで進んでいた。止まった体が再び動き出し、俺は急いで麻耶の下へと向かったが、
「だめっ!」
麻耶の制止は少し遅かった。俺の手は麻耶までほんの手前まで来ていた。その腕が
バシィィィ!
「っ!?」
麻耶の右腕が勢いよく弾いた。そのスピードはさっきの麻耶たちの戦いか、それ以上だった。
ちっ、右腕はすでに麻耶の意思ではどうにもならないのか・・・こうなったら・・
俺はサイゼットを上段に構えて、
「麻耶、すまない・・・・!?」
右腕を切り落とすために振り下ろしたサイゼットが、その右腕に止められ、そして、
バキィィィィィン!!
「なっ・・・・・!?」
盛大な音を立ててサイゼットが折られてしまった。サイゼットは俺の魔力を結晶化させて作った物だ。自分の魔力が最強だなどとふざけたことを言うつもりはないが、それでもこんな簡単に折れることはない出来だった。俺が呆気に取られている間に右腕が目の前に来ていた。もちろん、今の俺に避けることはできず弾き飛ばされてしまった。
「ぐっ!」
「誠君っ!?」
俺の声と麻耶の声が重なった。俺は体にうまく力が入らず、サイゼットの残った棒の部分を支えにしてかろうじて立つことができた。麻耶はそんな俺の姿を涙でいっぱいにした目で見ていた。
くそ、たった一撃でここまでとは・・・
麻耶は侵食の進む右腕を押えながら、悲痛な叫びを上げ続けた。
「どうして、どうして!?ただ力になりたかったのに、守りたかったのに!!その彼をどうして傷つけるの!?」
「麻耶・・」
その叫びはなぜか心に響いた。俺はゆっくりと悲しみに打ちひしがれる麻耶に手を伸ばした。その伸ばした手の手首を後からハグするような形で掴んだやつがいた。俺はてっきり香奈だと思って、後に目を向けた。そこには、
「タウッ!お前・・・!?」
「さぁ、一緒に行こう?アデル」
「おま・・こんなときになにを?」
「あの女はもうダメだよ。アレはゾプナといって、人の愛を糧に成長する寄生生物・・・・もう助からないよ」
そう言ってタウは麻耶を一瞥した。その表情は俺には見えなかったが、麻耶にこういっていた。
あっははは、これでアデルは私のモノ。ざぁ~んねんでしたぁ~
麻耶の目が驚きに見開かれる。そして、ふつふつと心の中で何かが燃え出した。
誠君に・・・あなたなんかが触れないで下さい!!
その麻耶の心の叫びに呼応するように鳥の足の甲あたりにある目が見開かれた。それと同時に侵食の根が麻耶の体を覆い尽くした。そして、殻の中から現れた黒い生き物。
「グリフォン・・・・?」
鷲の上半身と翼、ライオンと思しき下半身。体の色は真っ黒。まさに伝説上の生き物だった。そして、ゾプナは大きな産声を上げる。それはまるで麻耶の心の叫びを代弁しているようだった。
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