第55話:彼女が恋した瞬間
(無事に帰ってきて・・・・・・)
それが彼女の願いだった。彼女は今一人の彼に恋をしていた。彼と彼女の出会いは、ごく普通の出会いだった---------
「神宮さん、悪いんだけどこのゴミ捨ててきてくれない?」
神宮麻耶、それが私の名前。私は、委員長をやっていて今は委員会が終わったばかり。資料の片付けをしていると生徒会長がそんなことを言ってきました。特に断る理由もなかったので、私はゴミ箱を持って焼却炉に向かいました。
時はすでに夕暮れ時で、空は一面朱色。すでにゴミは捨て終わり教室に帰ろうと思った時に突然頭上から、
「にゃぁ~・・・」
と、か細い子猫の声が聞こえてきました。すると、降りられなくなったのでしょう。毛並みの整った一匹の子猫がいました。私はすぐに周りを見回して、人を探しました。しかし、みんな帰宅や部活動、それにここは元々人通りが多い場所ではありませんから、誰も見当たりませんでした。私はもう一度子猫を見上げ、決意しました。
「待っててね、今助けるから・・」
あまり良いことではありませんが、私は運動があまり得意ではありませんでした。それでも私は助けを求める子猫のために頑張りました。そして、今子猫まであと少しのところまできています。でも、問題がありました。乗っている枝が少し細くてとてもこれ以上進めません。猫はどうしてこんなところにいるのでしょう、と疑問に思います。
「さぁ、もう大丈夫だから・・・ね?こっちへ」
私の呼び声に反応したのか、子猫がゆっくりとこちらへ向かって来ます。その時でした。バキッと何かが折れる音がしました。それはもちろん私がしがみ付いている枝です。無意識のうちに子猫側に体重をかけていたからかもしれません。
「えっ・・・きゃぁっ!!」
地面からの高さはそこまでありませんが、運動能力の劣っている私にとっては死を覚悟するのに十分な高さでした--------しかし、落下の痛みが来ませんでした。私は恐る恐る目を開けました。すると、
「うぅ・・・・」
「っ!?」
真下から人のうめき声が聞こえました。どうやら誰かの上に落ちてしまったようです。私はすぐに飛びのいて、謝罪をしました。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
その人が起き上がりました。そのときになってようやく私は気づきました。その人の右手には私が助けようとした子猫がしっかりと受け止められていたのです。私の視線が子猫にいっていることに気づいたのでしょう。彼はその子猫を私に渡しながら、こう言いました。
「えぇ~っと・・・怪我はなかった神宮さん?」
「はっはいっ!ありがとうございました。新井君こそ怪我は?・・」
私は下敷きになってしまった彼の方が心配だった。私の質問に彼----新井誠は、はにかみながらこう言いました。
「はは、大丈夫、大丈夫。元気だけが俺の取り得だから。神宮さんも知ってるでしょ、あの香奈のスパルタ」
「はい。でも、一様保健室に行ったほうが・・・」
私のせいで彼があとから大変なことになったら、悲しかったので保健室に行くことを勧めたときだった。こちらに近づいてくる声がありました。
「こらぁーーー!誠ぉ、どこに隠れてるの。でてきなさい!」
先ほど会話に出てきた彼の幼馴染で同じ風紀委員の一ノ瀬香奈さんの声でした。その声を聞いた瞬間、彼は慌てて、
「やべっ、香奈のやつがこっちにくる。じゃっ、俺逃げるから。神宮さん、俺はいなかったことにしておいて」
そういって、私が口を開く前に猛ダッシュでどこかへ行ってしまいました。遅れて、香奈さんがやってきました。
「麻耶ちゃん?こんなところで・・・いや、誠見なかった?」
彼はどうやら仕事をサボっていたようでした。香奈さんの怒気で分かりました。私はさっき彼に言われたことを守りました。
「いえ、こちらには・・・」
「そっ、んじゃ私はあいつを捕まえなくちゃいけないから。またね!」
そして、香奈さんは別の方に向かっていきました。私は彼が走っていった方をしばらくの間見つめていました。多分、このときから私は彼のことが-----
「魔王の子のことが心配?」
「っ!?」
誰かに声をかけられた瞬間、私の意識は現実に引き戻されました。私の様子を見て、その人物は少し笑った後、こう言いました。
「君の想い人の役に立てる力が欲しくない?」
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