第53話:決着
先に仕掛けたのは、雅人だった。ティアに叩き込まれた体術を駆使して、今までの倍以上の速さでノアに接近。と、同時に、ロングカリバですばやく突きを繰り出した。ノアは初め、雅人の速さに驚いたが、すぐに口の端を吊り上げると、自身の武器のサーベルで雅人の突きを突きで返した。
「なっ!?」
雅人は目の前の光景が信じられなかった。止められたのだ。ノアの力と雅人のを比べたら、ノアの方が圧倒的に上だ。しかし、そんなこと雅人は百も承知だった、が、雅人は自分の攻撃に自信を持っていた。だからこそ、目の前のことが信じられなかった。
「どうしました?そんなにこれが珍しいですか?」
ノアは確かに雅人の攻撃を止めた。このこと自体は大したことではない。が、止め方が普通とは違った。お互いの刃の先端同士で止めているのだ。ちょっとでもずれていれば必ずどちらかが傷つくはずの攻撃。それをいとも簡単に止めるノアの力量に雅人は愕然とした。その様子を見てノアはもう一度、口の端を吊り上げて、あろうことか反撃をせずに雅人と距離を取った。
「次はこっちからですかね?」
投げかけられる疑問と同時にノアは踏み込んできた。そして、
「百万の衝撃剣」
「くっ!?」
ノアから放たれるいくつもの突き攻撃。いつもより力を抑えているとはいえ、それでも雅人に取っては、弾くので精一杯。ましてや、この中をかいくぐって反撃なんてできるわけがなかった。
「くはっ!」
とうとうロングカリバが弾き飛ばされてしまった。と、同時にノアの攻撃も沈黙した。雅人は、ノアの動きを警戒しながら、左のショートカリバを右手で逆手に持ち替えた。その持ち方を見てノアは、
「ティア隊長のマネですか?」
そう、雅人の持ち方はティアの忍者のクナイの持ち方と一緒なのだ。ノアの質問に対し、雅人は、
「俺、さっきので疲れたんですよ」
「?・・なら、降参しますか?」
ノアは雅人の言っていることの意味が分からなかった。が、多分降参だろうと思った。しかし、雅人の返答はまたしてもノアにとって意味不明なものだった。
「いえ、終わらせます」
ー・-・-・-・-・-・-
「ねぇ、雅人君本当に大丈夫なの?」
隣に座っている香奈が心配そうに聞いてきた。俺は「ん~・」と、軽く唸ってから、
「大丈夫なのか?ティア」
と、アリシアの隣にいたティアに受け流した。流された当の本人は意外と真剣に見ていたようで、アリシアに肩を叩かれるまで気づかなかった。我に返ったティアは、
「はっ、はいっ!もちろん大丈夫です!」
と、かなり焦っていたが、まぁ、言うとおり大丈夫だろうとは、思う。一様、雅人の師匠は優秀だから。と、ここで訓練場に眼を向け直すと、クナイ持ちをした雅人がノアに向かって急に走り出していた。
ー・-・-・-・-・-
終わらせる。そう宣言した瞬間雅人が走り出した。ノアは雅人の言った意味が気になったが、焦らずに動きを観察した。最初は、特攻かと思ったが雅人に限ってそんなことはないだろうと、すぐに考えを消した。どんな技が来るにしろ、終わらせると言ったのだからこちらもそのつもりで行こうと思った。だから、先ほどよりも強いインパルスミリオンを使った。それに対して雅人は、
「幻覚幻影・・」
回避行動を取らずにそのまま突っ込んだ。そして、サーベルが雅人の肩に刺さった。
「何が・・っ!?」
したかったのですか?と聞こうとしてら、肩を貫かれた雅人が霧のようにサァーっと消えた。そして、
「はぁ・・はぁ・・・俺の勝ちですか?」
声は後から聞こえ、ノアの首筋にはショートカリバが添えられていた。ノアは、サーベルを下ろした。
「そうですね」
こうして、雅人とノアの試合は雅人の勝利に終わった。
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