第51話:試合前日
この間のからまた早くも一週間が経とうとしていた。雅人は勉強のほうはからっきしなのに、ティアの教えることは覚えるのが早かった(もちろん、誤差有)。俺的には、そろそろノアとやらせてみても良いころあいだと思うのだが・・・・。そんなことを考えているとコンコンと控えめな音とともにティアの声がした。俺はちょうどいいと思って、入室を許可した。入ってきたティアの顔にはいつも雰囲気はなく、仕事のときや本気を出すときのような顔だった。
「どうした、ティア?」
「は。実は、雅人様とノア隊長の戦闘のことなのですが・・」
「そろそろやるのか?」
「はい。予定では明日の正午近くからです」
「そうか。雅人はどうだ?」
「始めたころとは比較にならない・・とまではいきませんが、中々の仕上がりだと思います」
まぁ、ティアがこう言うのだからそれなりの戦果は期待できるだろう。雅人に勝ってほしいとは思うが、万が一ノアが負けたら俺はティアの言うことを聞かないといけないからな。まぁ、いくらティアでもそれなりの常識があるのだから無茶な要求はしない・・・・はず。
黙り込んだ俺のことを不審に思ったのか、ティアが「あの・・・アデル様?」と恐る恐るな感じで聞いてきた。俺は急いで話に戻った。
「あ・・あぁ、そうか。ノアはそのことを知っているのか?」
「はい。先ほどお伝えしたところ、快く了承をいただきました」
「わかった。明日が楽しみだな・・」
そして、また考え込むそぶりを見せるとティアが頬を軽く朱にそめて、少し上目遣いで
「あ・・・あの、ア・・お兄ちゃん。約束・・・ちゃんと覚えてる?」
「うっ・・・あぁ、もちろん。忘れるわけがないだろう」
「ちゃんと守ってね♪」
「任せろ」
「それじゃぁねぇ~」
そして、元気に鼻歌+スキップでティアは俺の部屋から出て行った。俺は「ふぅ・・・」と椅子に深く腰掛けた。それから3分くらい経ってからだろうか、コンコンとまたしても控えめなノック。聞こえてきた声はノアだった。入室を断る理由はなかったので、許可。
「とうとう明日だな、ノア。お前の調子は?」
「極めて良好です。明日の試合に問題はないでしょう」
「そうか・・。それでどうした?何かあったのか?」
「・・・明日の試合のことです」
「どうした?」
体の調子は悪くない。なら、何も問題はないのではないか?俺はそう目でノアに問いかけた。すると、ノアはゆっくりと首を横に振ってこう言った。
「明日の試合・・・私は負けるべきなのでしょうか?」
「!?」
こいつは突然何を言い出したのかと思った。負けるべきか?だと?俺はすぐにノアを問いただした。すると、少しずつ語りだした。
「私は雅人様の特訓をずっと見ていました。彼は、ティア隊長の厳しい指導に歯を食いしばって付いていっておられました。初め、私はすぐに諦めるだろうと思っていたのですが、そうはなりませんでした。それどころか、日が経つにつれて雅人様は楽しそうなお顔をするようになったのです。そんな雅人様が今まで積み上げてきたものを壊してしまっていいのでしょうか・・・・」
ノアはとても悲しそうな顔をしている。が、そんなことは今知ったこっちゃない。俺はノアが言い終わるとほぼ同時にノアの胸倉をつかんで壁に押さえつけた。ノアは突然のことに驚いているようだったが、それも無視する。
「壊す・・・だと?はっ!|本当にそんなことができる(・・・・・・・・・・・・)と?」
「・・・・はい。もし、私に負けたら今までの努力は何だったのかと絶望してしまいます」
「だろうな。だが、だからこそ人は努力するのではないのか?」
「っ!?・・・・・そうかもしれません」
ノアは何かに気づいたのか反論しなくなった。俺は胸倉からてを離して、改めてノアの目を見た。
「まっ、せいぜい雅人に負けないように明日は頑張るんだな」
「はい・・・・!」
ノアは少し微笑んだが、まだ少し考えてる様子で部屋から出て行った。
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