第49話:ティアの特訓
「もぉ~、動きが直線的になってるよ!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・・・・きゅーーけぇーーーーーい!!」
その言葉と共に俺はその場に座り込んだ。開始直後のアレから体が完璧にビビってしまって、どうしても動きが鈍い。いつものように技に切れがなく、ティアのいいように遊ばれていただけだった。「あぁ~!!」といって、地面に仰向けに寝転がった。すると、真上にどこかに行ったはずのティアの顔があった。そして、俺の顔の真上で飲み物が入ったコップから手を放した。
「おぉ~!?!?」
間一髪、何とかキャッチ。中身を顔面にぶちまけることはなかった。それを見ていたティアは、露骨に残念そうな顔をした。
「あぶないなぁ~」
「倒れた人を起こすには、頭に水をかけたほうがいいって、お兄ちゃんが」
そう言いながらティアは、訓練場の入り口の方を見た。そこには、いつの間にか飲み物の入った入れ物をもった誠の姿があった。そして、その後ろには「それは私が持ちますからぁ~!」と、半泣きになったメイドの姿も・・・・。
「苦労しているようだな、雅人」
「あのさ・・誠、一つ聞いて良いかな?」
「何だ?」
「まさかとは思うけど、ティアちゃんの相手を俺に押し付けただけじゃないよね?」
こいつ!?。図星を隠すために俺は一生懸命表情を作って、雅人に向き直った。
「俺がそんなことをするわけがないだろう?」
「そうかなぁ?」
「俺はな、おま「お兄ちゃぁぁん!」
「おごあっ!」
ある意味では、ナイスなタイミングだった。もう少しで雅人の疑惑が確信に変わるところだったからな。でも、痛い。抱きつくにしても、もう少し他のやり方があるだろうに。雅人は、はじめは呆気に取られた顔をしていたが、今は「ホンと仲がいいねぇ」などと笑っている。人の気も知らずに・・・。
「疲れたろうから、もう少し休むといい」
「うん、そうするよ」
そして、雅人は地面に寝転がってすぐに寝息が聞こえてきた。それほどまでに、疲れていたんだろうな。雅人が寝たのを確認してから、俺はティアに向き直った。今の時点で聞いておかないといけないことがあるのだ。
「雅人は寝たし・・・なぁ、ティア」
「ん?なぁに、お兄ちゃん」
「本音のところ、雅人の成長具合はどうだ?伸びるか?」
すると、ティアは例の仕事バージョンの恐い顔つきになった。そして、その鋭い眼光で寝ている雅人を一瞥してから、俺の顔を見た。そして、一言。
「だめです」
「・・・・そうか。でも、今までよくやってこれたと思わないか?」
俺が雅人を少し弁護すると、ティアは考え込むように俯いて、恐る恐るな感じで上げた。
「確かに、よくやってこれたと思います・・・ですが、これからの戦いに彼が参加することは推奨できません・・・」
「確かに・・・それは、俺も感じてる。だけど、素直に城で待ってられるかなぁ」
「いざとなれば、縄で縛り付けたり魔法で「ティア」
俺が一言、名前を呼ぶとティアはビクッと一瞬震えた。そして、俺を見る目は、少し涙目になってしまった。これには、反省せざるを得ない。
「前にも言ったろう?あいつらは、俺の大切な人たちなんだ。だから、できるだけ手荒なことはしたくない。分かるな?」
「・・・はい」
べつに強く叱りつけたわけではないのだが、ティアはすっかり落ち込んでしまった。俺は取り合えずティアの頭を撫でながら、一言。
「まっ、当然のことだが、お前のことだって大切な人だぞ」
すると、さっきまでの落ち込んだ顔はどこえやら、満面の笑顔になって「うん!」と、元気よく返事をしてより一層強く俺に抱きついた。
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