43.-3 falsehood in APRIL (4月は僕の嘘) 後編
1
パージは男のロマンとはよく言ったものだ。
三原の世代では巨大ロボットが変形や合体するのは当たり前だった。
更にパージなどしようものなら賞賛に値した。
パージとは主に戦闘中に余分な重量の装備などを捨てて軽量化し機動性を高める為に行われる。
ヤボったい感じのフル装備で動きが鈍かったロボットや戦闘機などが「パージ」する事によって驚くべくスタイリッシュ且つ高機動に動き回り、それまで劣勢だった展開や甘く見られていた相手を軽く圧倒する、実に胸熱展開だ。
しかし三原の期待とは裏腹に魔改造されたその機体は実に残念仕様だった。
「何やってんの?ネコの人⁉︎」温厚そうな三原が激怒していた。
無理も無い、戦闘中の「パージ」とは武装を一気に外す事に意味がある。
「モタモタモタモタ……って着替えか?老人の着替えか?」三原の苛立ちが増す。
三原が操縦席と呼んだ黒のアルファードの運転席に取り付けられた「パージ」と書いてあるボタンを押すと「観光バスロボ」はゆっくりと肩を回す。
しばらくして「観光バスロボ」は蒸気機関車の車輪が動く様な音を発して、ゆったりとした動作で両腕を上に上げノビをするとおもむろに腕を動かしてゴテゴテと取り付けられた装備を丁寧に取り外しはじめた。
更にはソレらを綺麗に並べて地面に置くという行為を繰り返す。
「やられるわ!こうしてる間に敵にボッコボコにされるわ!」
「観光バスロボ」は 一気に武装を解除するどころかわざわざ武装を丁寧に外して防御力を弱めながらゆっくりとした動作を尚も繰り返した。
操縦席内に取り付けられたモニターにゲージがある。
10%…20%…30%。恐らくこのメモリが100%になるとパージ完了なのだろう。
………
50%になるのに約30分経過する。
「長っ!って昔のパソコンのゲームのロードか⁉︎」三原のツッコミが操縦席内に虚しくこだまする。
家庭用ゲーム機が登場する以前…いやそれ以降もROMカセットやフロッピーディスクが主流となるまではパソコンにゲームをロードする方法としてカセットテープが用いられていた。
今どきの高校生、月斗はカセットテープ自体を知らない。
カセットテープとは主に音楽用で三原の若い頃はよく深夜ラジオなどを録音しては何度も何度も繰り返し聞いていた。中にはお気に入りの曲を何度も繰り返し聴く為に巻き戻しすぎてテープ自体がノビノビになってしまう事も多々あった。
今では到底考えられないが…
ゲームのデータが入ったテープを専用のデッキにいれパソコンとケーブルで繋いでロードをする。
すると「ピー、ギー、ギッ、ピー、ガッ、ギー」といった音を発しながらテープのデータがパソコンにロードされるのをひたすら待つ。実に気の長いことだがその当時はそれが当たり前だった。
2
操縦席で喚いている三原に「知らんがな!」と思いながら月斗は静かに三原のレポートに目を通していた。
「よく大人の人で車とかにこだわりがある人っているじゃ無いですか…」と分厚いレポートを手に月斗は三原に話しかけた。
「…」
「あれってすごくどうでも良くって…僕はまだ運転免許すら無いので自分の車が欲しいとかそんなの分かりませんけど…父親の車に乗る時にいつも感じてた事があるんです」
「お父さん?」三原がそう答えると
「父は…多分、三原さんと同年代なんだと思います」
「確か…46だったかな?」
「若いね…」
「いえ、でも見た目だいぶオッサンで…髪の毛もだいぶ来かかってましたし…」
「確かに来てたね…」と三原が答えると
「⁉︎…父に?…父にあったんですか?」
「うん」
「そうですか…」
「月斗くんだけじゃないよ…私は出来るだけ他の生徒さん達のご両親に会うようにしたんだ」
「キャバクラ通いだけしてたわけじゃ無いんですね」
「……」
「いいです…そのこともこの日記に?」
「うん…書かせてもらってるよ、月斗くんが知りたければ是非読んで欲しい!」
「そうですか…」
しばらく間が空いた後、月斗が再び話し始める。
「外観はどうでもいいってのは…そんな父が自慢する車も中に乗ってたら何にも気にならなくて…結局、父の自己満足でしか無かったんだと…」
「でも、乗り心地とかも含めてずいぶん違うだろう?」
「……その辺は…あんまりわかりません」
「僕らの世代は…なんて言うか、車が一つのステータスみたいなもので、いい車に乗るのがある種の憧れだったんだ」
「いい車に乗ってると女の子を誘いやすいでしょ!」
「その辺がわからないです…」
「月斗くんって前は…ていうかみんなの前では自分のことを「オレ」って言ってたよね?…でも今、私の前では「僕」だ…」
「エエ、そうですけどそれが…?」
「いや…昔、得意先の社長が…昔ね、OA機器の販売の営業をしてたんだけど…OA機器ってわかる?」
「アダルト…的なやつですか?」
「違うよ!それはAV機器だろうけどAV機器自体もエロくないけどね!…OAってオフィスオートメーション機器って意味でコピー機とかパソコンとかって事だけどね」
「……」
「で…その得意先の社長…多分当時社長は70歳くらいだと思うけど…もしかしたらもっと若かったかも…だけど髪の毛が真っ白で…ホラ、サボテンでお爺さんって名前のサボテンあるでしょ?」
「あるでしょって!知りませんけど…」
「あるんだけどそれにそっくりで…その頃の年の人には珍しく背が高くて細長いくて白髪がゆるりと天然パーマの!」
「それで?それでその社長がどうしたんですか?」
「そう…その社長がある日、普段は自分のことを私…という社長がその時だけご自身のことを「オレ」って言ったんだよ!」
「……」
「その事を思い出した」
「……」
「エッ?それだけですか?」
「うん…それだけ…年を取るとね…何となく何でも無いことをふと思い出してしまうんだ」
「そんなもんなんですか…」
そう言うと月斗はまたレポートに目を通した。
レポートにはこう記されている。
※
2036年7月にこれまで活動を休止していた富士山が活動を再開し噴火をした。
「エッ!富士山が?」
文字を目で追っていた月斗が思わず声を漏らす。
その声に三原が神妙な面持ちで頷く。
溶岩流が近隣地域に流れ込み、火山灰が空を覆い尽くした。
噴火の被害により都市機能が麻痺をし、周辺地域のみならず首都圏の機能も混乱をきたした。
この被害により1都市集中型のこれまでの体制が見直され各地に省庁が分散される様になった。
更に人的作業を軽減する為、各分野にAIの導入が加速度的に推し進められ、2045年に技術的特異点を迎える一因となる。
※
2056年、噴火から20年にあたるこの年、各地でセレモニーが執り行われた。
そこからのAIの進化は目まぐるしく、現在では人類の永遠のテーマである不老不死ですら人の機械化によって夢物語では無くなっていった。
かつては脳細胞を超える情報演算能力をそなえたコンピュータやAIは存在し得ないといわれていたが、2030年を越えたあたりからこれまでのスーパーコンピュータを遥かに上回る量子コンピュータが主流となり出した。
この技術的特異点を迎えた2045年を境に人類の予想を遥かに上回る高度な技術革新がAIによって生み出され、自立型AIを搭載した乗り物はもちろん、自ら希望して機械体へ個人の人格をダウンロードする者たちも現れた。
この技術によって人類は肉体の死をのがれ機械体への換装により実質的に不老不死を手に入れた。
ただ人間の死の定義が曖昧になり、人間は進化を辞めた。
義体と呼ばれる機械体への人格のダウンロード。
それにより人間は老化による肉体の死を超越した事となる。
私の概念が変わってしまった。
人に魂なるものがあるとすれば、肉体の死が訪れてもそれを新しい肉体へと移し替えを繰り返す。
通常、義体は高価な事と人格情報のダウンロードが困難な為、何体も義体を所有する事は無かったが一部の富裕層に至っては洋服感覚で義体を取り替える者たちもいた。
義体の故障や劣化による交換の祭にこの人格のダウンロードが繰り返されたがやがて本来の人格や人としてのアイデンティティが損なわれる事となる。
人の魂や精神が繰り返されるダウンロードによって支障をきたす様になったのだ。
やがてこの人格破損はAIによる関与が大きな要因であると提唱する団体が現れた。
肉体の機械化を望まず人としてそのまま生身の身体のまま死を迎えることを提言する組織が「ナチュラル」と名付けられた。
「ナチュラル」と機械化した人類、AIが幾度となく対立をし世界の至る所でテロ活動が頻発した。
日本も例外では無かった。
※
2064年4月1日。
14歳年下の私の妻が77歳で他界した。
女性の方が平均寿命も長いうえ年の離れた妻の方が私よりも先に逝くとは思いもしなかった。
妻も「ナチュラル」だった。
出生率は世界規模で低下し2080年代には10歳未満の子どもの割合が1万人に1人という数字を記録した。
人類の半数以上が機械化によるサイボーグ化を果たすと生身の身体をもつ貧困な者たちは弾圧を余儀なくされる事となるメカニカルハラスメント(メカハラ)が横行した。
一方で宇宙進出を担う民間企業の中には無償で機械の体を被験者に提供し、サイボーグ化した労働者を宇宙探索要員とするプロジェクトも推し進められた。
SDP(Space development plan)宇宙開発計画である。
私もそのプロジェクトに参加し、タダで機械の体を手に入れたうちの1人だ。
3
「エッ?三原さんのその身体って…機械なんですか?」分厚いレポートの冊子を手にしながら月斗が目の前のずんぐりとした体型の三原に目を向ける。
3日前、魔法的愛玩具の効果によって若返る前の小太りでずんぐりとした体型と青い制服に白い両ポケットのジャケットに身を包んだ三原の見た目は機械の様にはまるで見えなかった。
いやある意味…未来から来た青いネコっぽく見えなくも無いが…
ここ巨人世界で6日過ごしたという事で日本では60年経っている事になる。それにしてもAIの発展は予想出来てはいたがサイボーグやロボットなどがこうも人間そっくりになるものなのだろうか?
「三原さんは未来から来た人型ロボット?って事ですか?」月斗はそう言いながら目の前のずんぐり体型の青い制服姿のオッサンを見つめる。
計算で言えば3日前49歳だった三原は日本で30年過ごし肉体的には79歳という事になる。こちらで3日ということは更に30年プラスして戸籍上は109歳。
「あまりにも変化が無さすぎて見た目じゃ判断出来無いですね…」
「……魔法的愛玩具のおかげかな…アレが無ければ79歳の姿で巨人世界に戻って来ることになっていた…むしろ、それすらも忘れていたかも知れない。」
「ボケ老人になっててもおかしく無いですもんね…」
「そうだね…それより…すごく気になってる事があるんだけど月斗君!」やや食い気味に三原が月斗の言葉を遮った。
「どっちかって言うと月斗君の…その姿の方がすごいんですけど…って!それ前見えてんの?」
三原にとっては30年前、アールヴの民と呼ばれるエルフのアーウィン=リンデールがしていた黒い布の目隠しを目の前の赤髪の少年がしていた。
真ん中には目玉の様な模様が描かれている。さらに身に纏っている服装はというと巨大ロボットに乗り込めばすぐにでも自在に動かせそうないでたちだった。
「ああ、そっか!三原さんは知らないんでしたね!3日前…三原さんにとっては30年前って事になるのか…三原さんが一人で日本に帰った後なんですけど」
「…なんかゴメン!」三原がバツが悪そうに答える。
「
「その代わり沢山使えそうな物を日本から持って来たから!」そう言うと三原はおもむろに青いジャケットの白いポケットに手を入れ何かを取り出した。
「⁉︎⁉︎⁉︎何ですか?一体こんなモノどうやってポッケに?」
「この異次元ポケットのおかげさ!」
「異次元ポケット⁉︎」めっちゃドヤ顔の三原。
「うん、ボクの魔法だよ!ボクはこのポケットに何でもしまえていつでも取り出せるんだ!倉庫みたいに!いや…蔵かな?蔵人だから!」
「三原さんの魔法?てか三原さん自分の事、ボクって言ってましたっけ?確か一人称は私だったはず?まるで未来から来た青いネコ型ロボットみたいです…そっか…未来から来た青い人型ロボットか!」そう言って月斗はマジマジと三原を眺める。
「その魔法があれば…やれるかも知れない…」
月斗はそう言うと三原をジッと見つめた。
…が黒いマスクをしていてどこを見てるのかは分からなかった。
「ゴメン!それ嘘だから…ただで機械の身体を手に入れた件…」
「って嘘かい!」
月斗は三原の分厚いレポートを地面に叩きつけた。
「4月のところはボクの嘘なんだ…」
※
「ゴメン、4月だけは嘘だけどまた続きを気が向いたら読んで欲しい…で?月斗くんその姿は一体?」
「ああ…そうでした…この巨大蟻都市のある街から発生した旧型パロマウィルスの蔓延防止の観点から…」
「旧型⁉︎旧型パロマウィルス⁉︎」三原が食いつく。
「エエ、旧型が猛威をふるい蔓延防止の観点からマスクの着用が義務づけられていて…」
「旧型?旧型ならワクチンとか魔法とかで何とかなるんじゃ無いの?」もっともな疑問を三原が月斗に返す。
「そうなんですけど…何でも旧型の恐ろしいところはコレ迄の魔法の概念やワクチンの効果が得られないところにあるらしくて…」
「それって新型って言わない?」
「よくわかんないです!てか、三原さんもコレどうぞ!」そう言って月斗がマスク?を三原に渡す。
三原はそれを受け取ると早速付けてみた…
「エッと、マスクって口じゃ無いんだ!こんな感じなんだ!月斗くんのとは随分違うけど…」
「エエ、何しろこのウィルスは人の目を介して感染するみたいで…」
「目?」
「目です」
「めばちこみたいに?」
「めばちこ?が何かわかりませんけどそうですね!マスクも色々とオシャレになってきて布製のものから樹脂製や鉄製のモノまであるんですよ!」
「鉄製?鉄製って!」
「ああ、鉄製だとこんな感じです!」といって月斗はスマホの画面を三原に見せる。
画面には中世の騎士を彷彿させるマスクが映っていた。
4月は僕の嘘 完




