43.-2 falsehood in APRIL (4月は僕の嘘) 中編
1
2025年9月13日
驚く事に私たちが巨人世界に迷い込んだ翌年にも同様に失踪事件が発生していた。
黒いワゴン車に乗っていた20代から30代の若い男女4人がその日消息を絶った。
彼らも私たち同様、天王山トンネル内で行方がわからなくなりこの年から天王山トンネルの登り線左ルートが全面通行止となる。
世間への表向きは大規模改修と言う名目だったが、事実上の閉鎖だった。これによりここは再び渋滞の多い区間となった。
件の失踪事件について警察が懸命な捜査を繰り返したが依然手掛かりは得られない。
ところがその3年後、事態は急変する。
2028年9月13日。
その日、滋賀県大津市北部に位置する近江舞子中浜水泳場で、身元不明の20代の全裸の男女4人が発見される。
湖西バイパス「南小松」ランプから数分とアクセスに便利なここはバーベキューやキャンプ場としても人気があり7月と8月の海水浴シーズンには、多くの人で賑わっている。
9月に入りオフシーズンとなったこの場所で彼らは発見されたのだ。
記憶の無い男女4人。
詳細は伏せられたがこのことはSNSやネットニュースでも様々な憶測が飛び交った。
やがて彼らの身元が3年前に行方不明となった男女4人と判明し世間を大いに賑わした。彼らはその日忽然と消え、丁度3年後にこの世界へと帰還した。
姿形も消息をたった日と同じまま、衣類や乗っていたワゴン以外はまるで時間が止まったかの様に。
20代、30代だった彼らにとっては3年という月日は大して風貌に変化は無かっただろうが。
この事件は彼らの行方不明だった3年と云う期間から、のちに「千と96にちの神隠し」と呼ばれる。
2014年、2024年、といった10年周期から翌年の2025年のいずれも9月13日に発生したこの事件との関わりを調べる為、警察はもちろん専門家や学者などが大挙してこの件に関わった。
前述の2件の失踪事件。
彼らの帰還が何らかの手がかりになるかも知れないと云う事で彼らはその後、研究機関に保護という名目で長い間、監視をされる。
だが手掛かりとなるはずの彼らの記憶は行方不明期間中の3年間がすっぽりと抜けていた。
行方不明になる前に乗っていたであろう黒いワゴンも未だに見つかっていない。
報道では渡辺橋 享、失踪当時32歳。
黒いワゴンの所有者であり4人のうちの年長者。
そして、渡辺橋と同級生の大江橋 健作、31歳、既婚者。
そして黒のワゴン車に同乗していたのが肥後橋 夢24歳とその後輩の中之島 操の4名。
※
「…………」
レポートに目を通していた月斗が手を止め運転手の三原に向かってこう言った。
「三原さん!この人達の苗字って…渡辺さんと大江さん、肥後さんで良くないですか?」
「………」
「全国の…薫子さんや桜子さんには悪いですけど…薫さん、桜さんで良くないですか?」
「………」
月斗はそう呟くと少し考えた様に…
「尚更、この3人…渡辺さん、大江さん、肥後さんで良くないですか?てかここまで橋が続くなら中之島さんじゃなくて良くないですか?」
「まぁ、私もこの4人の名前を知った時、月斗くんと全くおんなじ事を思ったよ…いやそこは淀屋橋やろがい!って…ね」と運転手の三原が答えた。
「ですよね…」月斗はそう云うとまた少し考えた様に言葉を飲み込み、
やがて
「この見つかってない黒いワゴンって…ヴェルファイアって車種ですか?」
「ん?」思わぬ月斗の質問に三原は言葉をのみこんだ。
「見つかったんです…三原さんが元の世界に戻った次の日に…」
「⁉︎⁉︎⁉︎」
「何だって?」
「三原さんが1人で元の世界に戻った後に色んな事があって…」月斗はそう云うと広場の先を指さした。
2
「なっ!」
驚きのあまり三原は年甲斐もなく声を上げた。
見た目は50代だが実年齢は80歳になろうかという彼だが無理も無い。
驚きの声を上げた三原の目線の先には余りにも変わり果てた姿の自分が運転していたバスが停車していた。
三原にとっては実に30年ぶりの再会ではある。
いや、停車と言えるかどうかも怪しい。
何しろソレはタイヤが地面に接してなどいなかった。
むしろ直立しているという表現の方が正しい。
「あの?月斗くん?コレって私の会社の観光バスなのかな?」
「エエ…観光バスっていうか…むしろ観光ロボですね!」
「⁉︎むしろ観光ロボって何?」
「まぁ…色々あってバスを改造する事になりまして…」
「勝手に?」
「いやむしろ三原さんが戻って来るって誰も思ってなかったので、ま…いっか!みたいなノリで…」
「ノリで⁉︎」三原は変わり果てたバスを見上げる。
よく見ると車体のあちらこちらに色々な部品がガチャガチャと備わっている。
「改造っていうか魔改造されてるよね?」
「ネコの人もノリノリでした!」
「ネコの人絡みなの?」
「ネコの人絡みです」
三原のこの見た目も金木ネコ商会なる商人の扱っていた「魔法的愛玩具という道具の効果である為、あの種族の持つ不思議な道具には何でもアリ感はある。
「あの上の方に乗っかってる黒いのって例の見つかったっていうワゴン?」
「ですねー、ちょうど観光ロボの顔みたいになってるでしょ!」
「ちょうど顔みたいになってるよ!もう!さらにガチャガチャ色々取り付けられててガン○ムみたいになっちゃってるよ!」
「嫌いじゃないですよね?」
「………」
「三原さんくらいの年齢の方たちにとっては幾つになってもガンダ○、ガン○ム!っていう世代だって聞いてます!」
「偏見ッ!…でも無いか…確かに私は大好きなんだけど…」そう言って三原はマジマジと変わり果てた姿の観光バスを見上げた。
「黒いガンダ○だとティターンズ仕様じゃん…」
「巨人?そうなんです!この観光バスロボは巨人に対抗する為の物なんです!」
「巨人に対抗?巨人が現れたの?」
「エエ!そうなんです」
「でもこんなにずんぐりむっくりな感じで大丈夫なの?」
観光バスロボと呼ばれるその姿は元のバスの原型をゴテゴテと色んな物がボディーにくっついていて余りにも不恰好だった。
「ネコの人曰く…パージするニャ!って言ってましたけど…」
「パージ!おお!パージするんだ!」
「⁉︎⁉︎⁉︎なんなんですか?パージって?」
「エッ?パージ知らないの?変形、合体、パージと言えば男のロマンなんだよ?」
「しますよ!変形、合体!」
「するの?変形、合体も?」
「エエ!」
「すごい!すごい!すごい!すごい!男のロマンが詰まってるじゃないか!」
三原のテンションとはうって変わって月斗は冷静だった。
「動くのかな?」
「一応…」
「運転席…いや操縦席へはどうやって?」
三原はあえて操縦席と言い直す。
「ここから上がれます」
月斗はそういって観光バスロボの後ろにまわりこむ。
観光バスロボの背中?と言うよりも屋根にあたる部分に梯子が立てかけてあった。どうやらこれを登って操縦席に行く様だ。
「こういうとこちゃんとして欲しいなぁ」三原はつい愚痴をこぼす。
梯子を上り切るとちょうどロボの首のあたりに差し掛かった。
2人の目の前に黒いワゴンの後部が現れる。
「ALPHARD」という文字が見えた。
「月斗くん!ヴェルファイアじゃなくてアルファードだったみたいだね…」




