42.-2 13 people With cabaret club (キャバクラとの13人) 中編
1
広場でアーウェン=リンデールと名乗るアールヴの民とやらに出会った。アールヴ…森の妖精と呼ばれる種族でエルフという名の方が私たちには馴染み深い。人間と違いとても長寿の彼女から聞いた事実を確かめる為に私は1人バスに乗りこんだ。
彼女は私に「異世界行きのバスにお乗りなさい!」と告げた。
バスは私が運転していたものと違い…大きさはそう園児たちが乗っていた幼稚園バスの様なマイクロサイズだった。
車内に客は私1人。
車体の中央にある出入り口からバスに乗り込んで1番後ろの席に座った。
運転手はずっと前を向いていて顔が見えない、彼?…あるきは彼女?が人間かそうで無いのかさえ判断が出来なかったがアーウェン=リンデールの話では人間と言う種族は巨人世界には居ないということなので恐らくこの運転手も人間では無いのだろう。
それは予測がつくが…では何故移動手段がマイクロバスなのか?そんな疑問を抱く間もなくバスは異世界と呼ばれる元の世界…日本へと辿り着いた。時間にしてほんの数十秒。
スマホの画面は、2024年9月17日の丁度正午を表示してはいた。
このスマホの画面に表示されている時間が正しければ今日は娘の8歳の誕生日当日だということだ。
バスを降りると目の前のマイクロバスは走り去り瞬時に光に包まれて消えた。
私は1人取り残され、ここがどこだか確認をする。もし日本で無かったり、日本ではあっても辺ぴな場所だったりしたらどうしよう?
3日前に出発した際の所持金はサイフに千円札が5枚と1万円札1枚、小銭入れには564円が入っているのみだった。2泊の出張という事で普段よりも多い所持金ではあるがこれから何があるかわからない。
幸い周りの景色には見覚えがあった。多少見慣れない建物もあちらこちらに見られたが、私は一刻も早く帰りたい一心でそんなことは気にもしなかった。ここからなら自宅まで歩いても1時間もかからないという事が何より嬉しかった。
気付けば私は一目散に自宅の方向へと無我夢中で走り出していた。
雫
響
2
数時間前、アーウェン=リンデールから聞き出した情報を元に私は巨大蟻都市の街の一角にあるとされる異世界行きの旅行会社なるものを見つけ出した。
一刻も早く元の世界へと戻りたいという私のわがままに堂島先生をはじめ、まだ高校生の月斗くんと梶くんは快く賛同してくれた。
自分たちも元の世界に戻りたいだろうに……
「お子さんの誕生日!間に合えば良いですね!」月斗くんはそう言って私を快く送り出してくれた。
私はお客様を安全に目的地まで送り、そして安全に帰路へとつくという仕事を放棄した事になる。
家に帰るまで走り続ける間にその事がずっとぐるぐると私の頭の中を巡っていた。
「必ず3日で帰って来ます!」そう彼らに約束をした。
その約束だけは守らなければ…
華
愛
3
私は妻と娘に一刻も早く会いたい一心で家路へと急ぎ、普段では考えられないほど軽やかに走り続けていた。距離にして約5キロほどの道のりだが不思議と息が上がらない。30代の半ばを過ぎて20キロ以上増えた体重が私の動きを鈍くしていた。
だが今はそんな物とは無縁の様に実に軽やかだ。
徒歩で1時間はある距離を息を切らす事なくずっと走り続けていた。途中娘の通う小学校の前を通り過ぎる。
時計をみると12時25分。この時間だと娘は午前中の授業を終え給食を食べてるのだろうか?
小学校の校門の前を通り過ぎ門を一つ曲がるとすぐに自宅マンションにたどり着く。
8年前に娘が生まれた時に新築30年ローンで購入したマンション。
約3日ぶりの我が家への帰宅に心が躍る。
私は不安になりながらもオートロックのセンサーに自分の持っている鍵をかざす。
するとエントランスの扉が開いた。
「よし!」
私はついそう呟いていた。
戸数30のこじんまりとした6階建てのマンションの2階へと階段を一気に駆け上がり玄関ドアにプルトップの鍵を上下2箇所に差し込んだ。
そして玄関ドアをゆっくりと開ける。
「ただいま!」と声を掛けてみた。
中から返事は無い。
この時間だと妻は仕事に出ているだろうか?
私は靴を脱ぎ、そして恐る恐るリビングへと向かう。
そこには3日前に出発した時と変わらない部屋を想像していた私に強い衝撃を与えた。
「………」
リビングにあるダイニングテーブルの後ろの壁際に置かれているはずの娘の勉強机はそこには無かった。
昨年、娘が小学校に通う前に家具店で購入し、私が組み立てた白い木製の勉強机の代わりに妻が結婚した時に嫁入り道具として実家から持って来た洋服ダンスが置かれていた。
そしてその天板の上には私の写真と妻の御両親の写真が並べて飾られていた。
私は咄嗟にテーブルの上に置いてあったカレンダーに目をやる。
2054年……と書かれていた。
「2054年…2054年だって?」思わず口から出た言葉と背中から首筋、そして毛穴という毛穴から汗が吹き出した。
テレビのスイッチを入れるとワイドショーをしていた。
知らない人物が司会を務めている。
「誰だ?」と声を漏らす。
しばらくすると画面には見覚えのある姿が写し出されていた。
享年10万90歳……
閣下の訃報を告げていた。
萌
寧々
4
「エッ、閣下が亡くなったんですか?10万年も生きておられて90歳で?」月斗が運転手の三原の書いたレポートを読んでそう質問をした。
「うん、日本に到着した当日のニュースだったのでよく覚えてるよ」そう言って三原は遠くを見つめている。
「それから30年…三原さんは日本で暮らしたんですよね?」
「うん、そうなんだ…信じられないかも知れないけど…」そう語る三原の姿は3日前に巨人世界に到着した時の姿のままだった。ずんぐりとした体型に青いブレザーの制服に2箇所、違和感のある白いポケット。
「て言うことは三原さんって今、実年齢は79歳?って事ですよね?」
「そうなるね…」
三原 蔵人49歳。
彼は3日前に単身、異世界行きのバスに乗り日本へと戻った。そこで体験した事を皆に伝える為にレポートを綴り、その1日目の出来事に閣下の事がレポートされていた。……正直…いる?コレ?と思った。
「10万年…あと1000年とか2000年とか行けそうなんですけどね…」高校生の月斗にとって閣下がどういう人物…ていうか悪魔なのか詳しくは知らなかったが、同じく10万年生きているというアーウェン=リンデールの事を聞いて人や生き物の寿命について考えさせらた。
もし自分がこれだけの年月を過ごすとすればどんな気持ちなのだろうか?仮に親しい人や愛する人たちも自身と同様に同じ年月を過ごせたとして、あまりにも長い時間に対して一体どんなモチベーションを保てば良いのだろう?アールヴの民のアーウェン=リンデールが語った、これは呪いと罰の両方だと言った意味。
寿命があるからこそ人は生の大切さを感じるのでは無いのだろうか?月斗はちょっとアホだがアホなりにそう感じた。
実際、寿命が無い事の弊害として生物の進化が促進されないという点がある。不老不死は人類の夢ではあるが必ずしもそれが人類の繁栄へとは繋がらないといわれる所以だ。
寿命の長さが決まるのは、心臓の鼓動の回数が関係すると言われている。小動物ほど1分間に心臓は激しく鼓動するのに対して象などの身体の大きな生き物はゆっくりと鼓動を繰り返す。肉体の老化に関してはテロメアが関係していてそれが一定の長さ以下になると細胞は死んでしまうという。アールヴの民はこのテロメアの長さが異様に長いのだろうか?知らんけど。
「三原さん、続き…読ませてもらっても良いですか?」月斗はそう三原に言うと分厚いレポートのページを再びめくりはじめた。
(てか何故かアナログなんだよな…)と月斗は思った。
5
2054年7月14日。レポートの日付にはそう記されていた。この日、三原 蔵人は巨人世界の最果て巨大蟻都市の一角にある旅行会社を訪れ異世界行きのバスに乗った。巨人世界と異世界と呼ばれる日本とでは、時間の流れが大きく違う。
巨人世界で3日間を過ごして日本に戻った三原は、30年もの年月が流れていた事実を否応無しに体験した。
※
ガチャリ、鍵を回す音がした。扉がゆっくりと開くと
「誰?」と言う言葉が聞こえた。私はテレビのリモコンを片手にリビングから玄関へと向かい「ただいま!私だ!」とその声の主に答えた。買い物袋を手に持った女性が私の顔をジッと見つめる。年の頃なら30代半ばのその女性は私が会いたかった妻では無かった。彼女の後ろに隠れて3、4歳の男の子の姿が見える。
「???」
「チナちゃん?千夏?」私は恐る恐るその女性に向かってそう声をかけた。
「⁉︎⁉︎⁉︎」
私は続け様に何度も「チナちゃん?チナちゃん?」と呼び続けた。
「ママだあれ?」スカートを掴みながら男の子が女性に声をかける。
「………」ママと呼ばれたその女性は怪訝そうに私の顔をジッと見つめていた。時間にしてほんの数秒といったところが随分と長く感じられ、やがて彼女の口から
「パパ?」と言う言葉が発せられた。
月
麗
6
京都の合宿所へ向かう前の夜、小学2年の娘、千夏と些細な喧嘩をした。娘の食後のデザートにと妻が買っていた皮ごと食べられるブドウが原因だったようで食事が終わった後、水洗いをして皿に盛り付けられた、一粒を頂戴と娘に言ったところ、自分の半分食べたモノを2粒私に渡して来た。普段なら軽くツッコミを入れて返すところをあの日は何故か虫の居所が悪かったのか、男の更年期なのか?それに少々腹をたててしまい態度に出てしまった。
結局、仲直りをしないまま、翌朝まだ娘と妻が寝室で寝ている間に家を出た。
普段なら一緒にお風呂に入って学校であった出来事や、娘の自作の歌などを聞いたりする事もなく1人寝床に着いた。
こういった日常の何気ない時間がとても幸せだった事に気付いた。
灯
梓




