39.そして父(ちち)になる 後編。make little progress (挿絵あり)
読んでいただいてありがとうございます。
いよいよ今回が3部作の最終回です。
少し長いですが是非最後のイラストまでお楽しみください。
39.そして父になる 後編。make little progress
1
前回までのあらすじ。
無一文で飲食や買い物をした月斗たちメンバーは、地下のアリの巣内にある巨大蟻都市の商店を牛耳る、金木猫商会に捕りおさえられた。
見た目は可愛いが金の亡者の金木猫商会、社長及び幹部達は手っ取り早く金を稼がせる為、月斗達に夜の街でホストやキャバ嬢として働かせようと目論ろむ。
ホストとして黒服を身に纏った月斗たちは、子どもの姿のままではキャバ嬢として働けないと言われ大人へと成長した三国 心愛と出会う。
再会も束の間、心愛、京華、千里はすぐさま駆けつけたネコ達に捕らえられてしまう。
見た目はただの棒切れに葉っぱの付いた魔法的愛玩具という悪魔のアイテム。
「なりきり変身棒」によって幼稚園児だった三国 心愛は魔法的少女へと姿を変えた。
更にその魔法的愛玩具の魔の手は月斗達にも忍び寄る。
心愛同様、魔法的愛玩具と呼ばれるこのアイテムの呪いによって悪魔の様な考えを余儀なくされた月斗たち。
争う術もなく悪魔の思考を抱いたまま彼らは魔法的愛玩具を使用してしまった。
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「―――――ってニャンかカッコよく解説してるけど、勝手に使って大惨事ニャ!」
白いネコの人に説教をされている7人。
「いい加減そのお揃いの髪型辞めるニャ!見分けがつかニャいにゃ!年を取ると若い子の顔がみぃーんなおんなじに見えるニャ!」
部屋の中には月斗の髪型をした千里と千里の髪型をした千里以外がいた。
「何ニャこの説明?」
「大体、前髪パッツンは相当自分に自信がないとしちゃダメな髪型ニャ!」
「大体、なりきり変身棒でどうなるつもりだったニャ?」
「ああ、それは皆私になりたかったに違いない。」
「その通りですわ、皆、お姉さまになりたかったに違いありませんわ!」
「甘いわね!私には父になる!って言う強い思考が届いて来たわ!」
部屋の外から声がした。
ドアが開いて中へ人が入って来た。
さっきのピンクと黒い髪の派手な衣装の心愛だった。
(って誰?)
5人の男たちの思考が一斉に流れ出る。
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2
「なりたい自分になれる?そんな事が?」
そう言ったのは運転手の三原 蔵人だった。
小太りのずんぐりした体型で青い帽子と青い制服を着ている。
目の前にいる青いネコの人がさっき出て行った社長と呼ばれるネコの人の代わりにやって来て部屋にいた梶と三原に1本の葉っぱのついた木の棒の説明をしていた。
「そんな夢の様な道具が?」
「そうなのニャ。このなりきり変身棒を使えばそんな事が可能なのニャ!」
「すごい!すごいですよ三原さん!」
「ああ!」
2人は興奮気味にネコの人が手にする道具に食いついた。
「コレがあったらアレが出来る!」
主語も述語も無い言葉を三原が呟く。
「で?私たちにどうしろ…と?」
するとその言葉を待ってましたとばかりに青いネコの人が
「実験台になって欲しいのニャ!」
「実験台⁈」
「使ってみた感想が聞きたいのニャ!」
「今、実験台の事をモニターって言ってませんでしたか?モニターっていうと聞こえはいいですけど」
梶の言葉を無視して三原は青いネコの人の差し出した道具を食い入る様に眺める。
「ほんとに何にでも?」
ネコの人が少し目線を外す。
間が空いて
「……ニャンにでも…なれるニャ!」
「誤魔化されている気がします。」
「わかったニャ!ホントのこと言うニャ!ソウゾウリョクが大いに関係してるニャ!」
「想像力?」
「想像と創造の両方ニャ!」
「想像と創造!」
「その両方が深く関係してるニャ!」
「なるほど。うってつけかも知れませんよ!僕がこの世界に来てずっと思い描いていた異世界転生なるものがどういうものか皆に示してみせますよ!」
「私は…そうだな。私にもなりたいものが確かにあるな!…いや、戻りたい…と言った方がいいかも。」
「決まりだニャ!」
青いネコの人はそう言って「くるりんパ!」と呪文を唱えた。
すると2人の姿がみるみる変化をする。
「梶くん!その姿は!それが君のなりたいものなのか⁈」
梶にとってなりたいモノ。
「梶くん!梶くんの目はどうしてそんなに大きくなったんだ?」
「エエ、いつも寝てるのって言われる程、細い目なので大きな目を!自分ではわからないですけど大きくなってます?」
「目玉が今にも飛び出しそうなくらい大きいよ!ところで梶くんの髪の毛はどうしてそんなにとんがってるんだい?」
「天然パーマが嫌いでストレートにトンガってみたいからです!トンガってますか?」
「トンガりすぎて刺さると痛そうだよ!」
細い目と髪の毛がコンプレックスだった梶はそれを変えた。
「みんなが異世界の事なめてるんで震えあがる様な魔王をイメージしてみたんですが!」
梶が自分の手を眺めて見る。
黒く細長い鉤爪のついた手はまさに魔王の様相をしていた。
「すごい、この手の感じ!魔王っぽい!」
梶は自分の手を眺める。
「三原さん!どうですか?魔王っぽいですか?」
さっきまでの制服と違いヘビメタの様な衣装に変わっている。
背も伸びた。と言うよりだいぶデカイ。
「確かに!でも魔王っていうより七福神の中の人……なんかコンプレックスを克服してCOMPLEXの人みたいになってるけど⁈」
「COMPLEXの人???顔がどうなってるかわかりませんけどコンプレックスなんてのはとっくに克服出来てるはずですよ!そう言う三原さんこそ、めちゃくちゃスマートな体型で髪の毛も茶髪だし若くなってるじゃないですか!」
「本当かい?」
「エエ!カッコいいですよ。」
部屋には鏡が無くお互いがお互いの姿しか見えない。
「鏡は?鏡は無いですか?」
三原がネコの人にたずねる。
「鏡なら衣装室にあるのニャ!でも生憎、今、社長たちが使用中ニャ!」
「…………」
「それよりそろそろ、アリの女王のところに納品に行く時間ニャ……でも人手が足りないニャ!ネコの手も借りたいニャ!」
めっちゃ青いネコの人がチラチラ、三原たちを見てくる。
手伝って欲しそうだ。
堂島海里とネコの社長は出て行ったきり部屋に戻って来ない。
残された2人は特にする事も無かったし、変身棒で変身した姿を人に見せたかったのもあったのでアリの女王のところへの納品を引き受けた。
「淡路先輩の事も気になりますしね」
「淡路先輩?」
「エエ」
梶は三原に淡路 駿の特徴を話した。
「ああ、あの前髪を隠した昔のアニメの主人公みたいな彼か!」
そんな会話をしながら2人は部屋を出てアリの女王へ納品する品物のところへと向かう青いネコの後をついて行った。
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3
結局、音響担当のキリギリスの人の楽器は千里と心愛のお陰で材料が揃った。
会場内にあるDIY作業台というところであっと言う間に完成してしまう。
その後、続編の「アナとアリの女王2」は即上映された。
観客は泉 穂波たった1人だった。
一緒に見ていた生徒たちや、バスの運転手の人もまさかこんなにすぐに作業が終わり、上映が再開されるとは思って無かったのだろう。
心愛以外の子どもたちも働きアリたちに遊んでもらって楽しそうだった。
子どもたちの事は働きアリたちに任せておいて大丈夫だろう。
何故、幼稚園教諭の穂波が子どもたちを放っておいても大丈夫という考えになったのか?
一つは、働きアリたちと楽しそうに遊んでいる子どもたちに安心したこと。
働きアリたちは子育てに慣れているのか子どもたちの扱いも上手だった。
それにこの世界についてから緊張と疲れが溜まり1人の時間が欲しかったこととアクション映画を見た後の様な、ややトリップ気味に興奮していた事が要因となっていた。
これまでの事とさっき見た続編の内容を忘れない様に早く日課である日記に書き込みたかったのも理由の一つだった。
穂波は、会場を出て広場に停めてある幼稚園バスに向かう。
いつも持ち歩いている日記はカバンの中にしまっていてカバンはマイクロバスの中だった。
広場にはさっきのキリギリスが演奏を披露していたり、街中でずっとマッチをともしている幼女の姿も見かけた。
赤い頭巾の女性がリンゴを通りかかる人たちに配っていた。
ティッシュ配りの様なノリで…
人……というにはあまりにも人っぽくない。
御伽噺から抜け出した様な小人の姿なんかも見かけた。
穂波もリンゴを受け取りマイクロバスへと急ぐ。
幼稚園バスに辿り着き、車内に置いてあるバックから黒い表紙のB5サイズの日記を取り出すとさっき見た映画の内容を忘れないうちに勢いよく書き込んだ。
日記には堂島 海里の名前が真っ先に書き込まれる。
「それにしても、堂島先生の生徒たちを想う姿や勇敢に1人で奥へと進んでいくシーンが堪らなく素敵だったわ!」
そして穂波のその時の感想などを書きつづった。
「堂島先生のあのセリフや行動、絶対に死ぬ人が言うものばかりだったわ…アレに帰ったら結婚するんだ!なんて言ってたらカンペキね……」
「結婚か……」
穂波は26才。
結婚適齢期というものにはまだ遠い。
しかし、この先、出会いというものが無かったらと考えるとそうもいっていられないという焦りも若干あった。
それはともかく。
無事、アリの女王たちのもとへ辿りついてからの展開については
「内容は完全に成人向けだったので千里ちゃんも心愛ちゃんもどうせ見れなかったわよね……あとで説明してあげよう」
そういって黒い日記を眺めた。
「もっと可愛いのにすればよかったかな?表紙もだいぶ傷んでるし、DAIARY note の文字も消えかけてる……」
子どもたちの様子が気になって急いで駆け足で会場に戻る。
途中の角に差し掛かった時、誰かにぶつかった。
考え事をしながら走っていたせいか全く人の気配を感じなかった。
ぶつかった拍子にはじき飛ばされた穂波はその場に尻もちをついた。
「ご!ゴメンなさい!」
穂波はそう言って相手に会釈をしてその場を立ち去る。
その時、手にしていた黒い日記を落としたのも気づかずに。
日記のそばにリンゴが転がっていた。
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4
『もうこんな時間か…』
アリの女王ロボのコクピット内のメーターを見た女王アリが呟く。
毎日、決まった時間に金木猫商会からお取り寄せグルメが届く様になっていた。
『お取り寄せグルメリストに今日は珍しい果物って書いてたので楽しみだ。』
『人が来るのでアンタたちもいつまでも裸じゃ無くて服を着なさい。』
……………
女王アリ2の思念が伝わって来ない。
『なるほど、擬態に魔力を使いすぎて思念波が使えない様だ。ちょうどいい、コレを使ってみよう。』
そう言うとアリの女王1は魔法的愛玩具を手にする。
出入り業者の金木猫商会から実験台として送られて来た道具。
『何でもイメージした姿に変身出来るということだ……が』
そういって女王アリ1は「なりきり変身棒」を眺める。
『せっかくなので女王様らしい姿とそれを守る騎士の様な姿に変身させてやろう!』
くるりんパ!
駿と女王2の2人が衣装を纏う。
駿の衣装は白を基調とし肩から何やらトゲの様なモノが飛び出している。
女王2はというと、対照的に黒いゴスロリ風の衣装で明るい髪色のツインテールにも合っている。
駿はその姿を見てまた
「京華!と呟いた。」
「デスノ…キョウカ…デスノ。」
駿の思考を読み取り、女王2が言葉を練習する。
思念波での会話が出来ない以上、コミュニケーション手段としての会話は重要だ。
「デスノ…ステキ…デスノ。」
声帯を通して言葉を発する事に慣れていない為、カタコトの会話が続く。
「……My baby will be born soon. アカチャン ワタシノ ウマレル。マイ ベイビー ウィル ビー」
『赤ちゃん…か。』
擬態している我が娘の表情がとても幸せそうだ。
アリの女王1はその表情が子どもを授かった事の喜びに満ちた表情であると感じた。
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5
「急ぐニャーーーー!ギリギリニャーーーーー!」
そう言って青いネコは台車を押す2人を急かす。
「梶くん!その翼で飛んだり出来ないの?」
変身した梶の背中には羽がある。
「ですよね?でもめっちゃ肩に力を入れてみてるんですけどピクリとも動かないです!」
早足で台車を押しながら会話をしていた。
路地の角を曲がるとき、先を走っていた青いネコの人が立ち止まる。
「こんなとこにも落ちてたニャ。」
そう言って落ちてるリンゴを拾い上げ台車に積んでる袋の中にそれを入れる。
ネコが拾い上げたリンゴのそばに落ちていた黒いノートを三原は拾いあげた。
表紙の文字がかすれている。
「D……note」
「英語?この世界の文字じゃない…」
三原は中が気になりページをめくってみた。
最後に書き込まれたページに名前と文章が書き込まれている。
(堂島 海里。32歳、頭から粘液をかぶり死亡)
(死亡?)
「何してるニャ?早く!!!時間がナイにゃ!」
ノートの中身が気になりながらも三原はそれを台車の袋にしまう。
三原は一緒に台車を押す梶の異様な姿を見ても誰も気にも留めていないことも気になっていた。
(こんな姿で街中を歩いてたらみんなに注目されそうなものなのに…まさか私にしか見えてないのか?)
ネコの人に急かされるまま女王アリの元へと急いだ。
アリの女王のいる塔の前に到着し大きな扉が開く。
高い天井の奥にもう一つ扉があり、その前にアリの衛兵がいた。
衛兵は青いネコに敬礼をして中へと招き入れる。
「アリャー。エライ格好になってますニャあ!女王アリロボ。」
「ロボ⁈」
三原がその言葉に驚く。
「巨大女王アリロボにゃ!」
事情を知ってる梶がウンウンとうなずく。
上半身だけとなった女王アリロボの背中の方に回り込みモニターの様なところを覗き込む。
「あの大きなアリが女王じゃなくてロボットだったってことかい?」
三原がそう聞き返した。
「そうニャ」
青いネコはそう一言だけ応えると目の前のボタンを押す。
すると女王アリロボの背中が割れて中へと入った。
「こんなところに入り口が!」
梶が驚いていると
「勝手口ニャ!」
「勝手口?じゃあ正面玄関ってどこに?」
それには応えず青いネコは2人に台車を中へ入れる様に指示をし奥へと進んだ。
「おおお!」
中に入った三原が声を上げる。
操縦席内には無数のメーター類が一面に張り巡らされている。
「すっ!すごい!銀河超特急の機関室みたいだ!機械のカラダをタダでもらえる星に行けそうな!」
三原はそう言うと、操縦室一面に張り巡らされた計器類を舐め回す様に見て回った。
「たいへんお待たせしたのニャ!」
青いネコは女王アリ1に挨拶をし台車に積んでいる荷物を取り出した。
その時に、いつもは女王アリ1しかいない操縦室に人がいるのに気付いた。
見知らぬ2人。
「はじめましてなのニャ」
梶は淡路 駿の姿を見て驚いた。
「エッ?淡路先輩!その姿どうしたんです?」
三原もそれに気づく。
「エっ!先輩なの?なんかサイボーグみたいなんですけど?いや最初バスで見たときからサイボーグかな?って思ってたけど、その姿、機械のカラダを手に入れたの?タダで!」
三原はそういうと目の前の淡路 駿を興味深くながめる。
梶は駿の隣に立っている人物にさらに驚いた。
髪の毛の色は違うが同学年の天道 京華だ。
しかもお腹が大きい。
妊娠している様だ。
同時に駿も梶の姿を見て驚いていた。
「怖っ!誰?」
小さな声だが目の前にいる梶に怖っ!誰?と言うのが聞こえた。
「天道が何故ここに?それにそのお腹」
梶の問いに対して
「……My baby will be born soon. アカチャン ワタシノ ウマレル。ビー マイ ベイビー ビー マイ ベイベー ビー マイ ベイベー」
「be my baby!やはり梶くんの事か⁈」
三原は魔王になると言って変身した梶 大作の姿を改めて確かめて見た。
「これでギターでも持ってたらまさしくbe my baby!」
「チガ…ウ。my baby will be…デスノ」
「bee? 蜂? bee my baby! 私の子どもは蜂です?」
「チガ…イ…マスノ」
「なんかカタコトなのと語尾がすごい聞き取り難いですの!」
三原が悪態をつく。
「で?そのお腹の子の父親は?」
「コレガ…夫…デスノ…夫」
「コレがおっと!デスノート?」
(デスノート。やはりコレがか?)
三原はさっき拾った黒いノートを見つめる。
「やっぱり!!このノートの持ち主は君か!」
そう言って黒いノートを差し出した。
「ナンデスノ…シラナイ…デスノ…」
全員がノートの所有者ぽかった……
「チガ…ウ。オナカノコノちち…コレがチチデスノ」
「父?お父さん?もしかしてそこのサイボーグ!じゃなくて淡路くんの子ども?」
「ソウデスノ」
「妊娠させたの?」
「エエ、さっき僕らが女王アリと対面した時に目の前で交尾をしてたみたいです!」
「交尾?目の前で?一体どんなプレー?さっきの映画のアリの女王2ってそんな内容なの?」
三原が興奮している。
「ナマデナカニデスノ」
「生で⁈中に⁈淡路くん、その年で父になる覚悟を?すっ!すごいね!出していいのは産ませる覚悟のある者だけなのに…」
to be continued in LOST EDEN (失楽園)
読んでいただいてありがとうございます。
三原が最後に言ったセリフの「出していいのは…」すみません。下品な表現で……
コレは小説家レイモンド・チャンドラーの小説『大いなる眠り』内で主人公フィリップ・マーロウのセリフ。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるものだけだ。
」
日本でも有名アニメでの主人公が言ったセリフですね。
次回、失楽園は聖書で有名なシーン。アダムとイブが禁断の実を食べて神様の怒りをかい、エデンを追放されるところです。禁断の実は諸説ありますがリンゴの木だという説。次回、リンゴとデスノートに間違われた日記、そしてなりきり変身棒の葉っぱがどの様に物語に関わってくるのか?お楽しみに。




