29. 「Is it cre resource?」(クリリソの事か?)
その不思議な怪我や体力を一気に回復する白い液体は誰が名付けたのかいつの間にか「センズRe」と呼ぶことにしたらしい。
梶曰く、ロールプレイングゲームや異世界では回復魔法と言うものがあって、それを使うと一瞬で怪我や体力の回復が出来たりする様だ。
ゲームやアニメを見ない月斗は随分と驚いて
「スゲェー、スゲェーっ」と連呼していた。
回復魔法が使えない初期の冒険者などは「ポーション」と呼ばれる大概瓶詰めされている液体や薬草が必須アイテムだと言うことだった。
じゃあ「ポーション」って事で良く無い?と月斗は思ったみたいだが陸がやたらと「センズRe」と呼ぶことにこだわっていた。
多分このネーミングは陸の仕業だろう。
名前の事はともかく、月斗達一行にとって、この先どんな危険が待ち受けてるかもわからないので奥に進む前に出来るだけこの「センズRe」と名付けられた液体を確保したいと考えた。
都合の良いことに一行が抜けて来たアナの壁の上部にたっぷりとソレは付着している。
恐らく堂島海里の額にべっとりと垂れて来たモノだろうとすぐにわかった。
何か水筒の様な容器に入れて持ち運ぼうと思ったが生憎、カバンや水筒などもバスに置いて来たままだった。
ここは最初のトンネルよりもやや広い場所となっていて更に奥に行くほど広くなっている様だ。
目が慣れて来たせいでもあるが若干明るい。
白い液体を入れられる何か容器の代わりになる様な物は無いか月斗の作る炎の明かりを頼りに探してみると実に都合良く豆粒くらいのまぁるいカプセルみたいなものが偶然見つかった。
いわゆるガチャガチャと呼ばれるカプセルトイのカプセルの様な形状をしていて真ん中で2つに分かれる。
色と形と大きさは大豆に似ていた。
うまい具合に中は空っぽでそこに白い液体を詰めてみる。
不思議と物凄くしっくりとくる。
更にそれをたまたま梶が持っていた小さな巾着状の小銭入れに入れてみた。
不思議と物凄くしっくりとくる。
中には幾らか小銭が入っていたがこの世界では必要無いだろうと陸に無理やり取り出された。
残念ながら豆粒くらいのまぁるいカプセルはその場に、3つしか見つからなかったので3粒の「センズRe」が梶の小さな布製の巾着袋の中に入れられた。
「数に限りがあるので大事に使おう。」
一行の中で魔法が使えない(能力がまだ分からない)梶にソレを持たせた。
「この中だと僕が1番足手まといになりそうなので月斗先輩が持ってた方が…」
と梶は言ったが
「お前が持っててくれ!誰かが怪我をしたりピンチになったらそれを投げて渡してくれ!頼んだぞ」
と陸に言われたので快く引き受けた。
日向月斗の火球、堂島海里の海水鉄砲、本庄陸の土を操る能力、淡路駿の高速移動、道修空太の飛行能力。
梶 大作以外のメンバーの魔法は開花?している。
本庄陸にいたっては当初自分の足元の土が盛り上がるだけというような使えない魔法に思えたがかなりのレベルアップを果たしていた。
唯一、この中で梶だけがまだ魔法が使えていない。
異世界転生モノのライトノベルやアニメなどを好み、当初この状況を色々と解説していたが思い描いていた感じと随分違いややガッカリしている様にも思える。
異世界転生者に与えられるチート能力やエルフやドワーフといったファンタジー感も全く無い、おまけに自分以外のメンバーがそれぞれショボい魔法ながらもだんだんと使える能力になって来ているのに対して少し焦りもあった。
そんな中で半ば強引ながらも回復系のアイテムの管理?を任された事に少なからず存在意義を見いだせそうだった。
そうだ今、自分が出来る事をしっかりやろう。
そう考える事にした。
今ココは巨大な女王アリの体内だ。
ここまでの道筋を人間の女性の身体で例えるなら、膣口から一行は侵入を果たし坑道の様な狭い膣内を奥に進み、さらに狭い子宮口のアナを1人ずつ匍匐前進で抜けてここまで辿り着いた。
今いるこの場所は巨大な女王アリの子宮内に位置していると思われる。
「行きましょう!この先にいるアリの女王の本体とやらを倒しに!」
「ああ、目の前で死んでいった千里や他のみんなの仇を討とう!」
月斗がそう呟いた。
やや興奮気味に…だがいたって静かに…
「あっ!…そのことなんだが…」と道修空太の言葉を遮って月斗が続ける。
「先生!ここなら多少派手にコイツをぶちこんでも
問題無いんじゃないですか?」と掌の火の玉をチラつかせる。
「ああ、だが手加減はしろよ!あまり無茶をするな!」
と言い切る前に
ドゴーン!
轟音が鳴り響く!
巨大な女王アリの子宮靭帯と呼ばれる位置の壁が激しく爆ぜる!
そこに付着していた一行が「センズRe」と呼んでいた白い液体もろとも壁が激しく吹き飛んだ。
木っ端微塵だ。
月斗以外の全員が爆風に驚いてその場に伏せる。
「派手にやったな!月斗」陸が声を掛ける。
「全く、手加減しろって言ってもコレか!」そう言って堂島が吹き飛んだ壁を見つめる。
天井にポッカリとアナが空いている。
「女王アリの体内でいうところの「子宮靭帯の辺りか…」堂島がサングラスをクイッとさせながら呟く。
「???地球人たいの当たり?何で急に博多弁なんですか?」
「……子宮 靭帯…今、月斗!お前が派手に木っ端微塵にした辺りが女王アリの…いやまぁいい…説明するのも面倒だ。」
このやり取りから道修 空太は月斗の事をやっぱりだいぶアホやと思った。
「ん?空太、どうした?」
何か言いたそうな空太に月斗が声を掛ける。
「あっ、ああ、その事なんだが、南達は多分無事かも知れない!」
「????」キョトンとしている月斗達に道修 空太が話を続ける。
「さっきスマホの…伏見の異次元パケットが反応してたんだ…」
「何だって?」
「ホントか?」
「ああ、少なくとも伏見は無事な筈だ。」
「おお!」
一行の表情が一瞬にして明るくなった。
「LINEは?LINEは使えるのか?」
「試してみよう」
文字を入力してみる。
「………」
「どうだ?」
「………」
空太のスマホの画面を月斗が覗き込む。
「すまん、俺はアイツらとLINE交換してなかった。」
空太はそう言うと駿が自分のスマホの画面を見せて来た。
めちゃくちゃ長い文章が一瞬で打ち込まれていた。
「早っ!」
とても可愛いLINEスタンプ付き。
「凄いな駿」
そう言って月斗が駿のスマホの画面を覗き込む。
「…………」
中々既読にならない。
皆は今か今かと待ちわびる。
………が中々既読にならない。
「まずい、バッテリーが切れそうだ。」
駿のスマホのバッテリーが残り5%を切り始めた。
「ダメ…か。伏見の魔法は元々狭い範囲でしか使えなかったので移動を続ければ電波の良いところが見つかるかも!」
「とにかく希望は出て来た。先へ進もう!」
そう言うと月斗は掌に炎の球を作り奥へ進み始めた。
10分ほど歩いただろうか?
一行の前に壁が立ち塞がり道が右と左の二手に分かれている。
躊躇なく月斗は右へと進もうとする。
「迷いが無いな。大体こういった分かれ道の場合7割の人が左を選ぶのだが…しかもどうします?とかこっちだ!ってのも無く。」
「ふーん、そんなもんなんですか?。勘ですが左に行っても何にも無いと思って!」
そう言って月斗はやや狭くなって来たトンネルをドンドン奥へと奥へと進んで行った。
ロールプレイングゲームなどでダンジョン内を歩き回る時など行き忘れた場所や部屋などをくまなく探して取り忘れたアイテムなどが無いか大抵気になるものだがゲームやアニメなどを見ない月斗にはそう言う概念は無い様だ。
ましてやこの先に待ち構えてるであろうアリの女王と対峙するのにも関わらず…だ。
余程自分に自信があるか単純にバカなのか…
月斗の性格からは両方が当てはまるのかも知れない。
奥へと進むにつれて徐々に道幅が狭くなっていく、大人2人が横に並んで歩くのがやっとだ。
一行は月斗と陸が並んでゆっくりと前へ前へ奥へ奥へと進んだ。
時間にして20分程経過しただろうか?先頭を歩く月斗がピタリと足を止める。
!!!
何かいる!
何かいると言えばおそらくアリの女王なのだろうけど何やらまぁるい透明の卵の様な塊が月斗達の目の前にあった。
『ようこそここまで来てくれました。』
これまで聴こえていた口調と違い穏やかな感情がこもった思考が月斗達の脳裏に流れ込んで来た。
「今までと口調が違う?」
『待っていました』
声!と言うよりも頭の中に直接語りかける思念波と言ったものが目の前の透明の卵から伝わって来る。
「待っていただって?」
月斗がやや強い口調で聞き返した。
『…………』
「何を言ってる⁉︎今まで散々来るな!入って来るな!って言ってた奴が今更何を待つんだ!」月斗は口調を更に荒げる。
感情の昂りに呼応する様に掌の炎の球が大きく膨れ上がり今にも爆発しそうになる。
「待て!月斗!こんなとこでそんな物をぶっ放したら大変な事になるぞ!」
堂島の静止に辛うじて月斗が踏みとどまった。
『すみません…………勝手ながら皆さんを試させてもらったのです。』
「!!!」
「???」
「ああ、アニメなんかでよくある主人公達に試練を与える為!とか能力を測る為、的な?」
列の後方にいる梶がその事にやけに食いついた。
『そうです。そうです。それです!』
「で?他のメンバーは無事か?」
『ええ、ええ、もちろん!』
「本当だろうな!もし嘘だったら今度はお前も木っ端微塵にしてやる!あのシキュウジンタイの様に!」
「???」
『あの子宮靭帯?』
『……リソのことか?』
「???」
『クリリソの事かー⁉︎』
月斗達の脳裏に大きな思念波が勢いよく流れ込む。
感情剥き出しの強い思念!
地雷を踏んだのか?
その感情と共鳴して目の前の透明な卵に亀裂が入る。
透明な卵の表面はまるで硝子の様に弾け飛び、勢いよく四散した。
割れた卵の中から人間の女性に似たシルエットが浮かび上がりゆっくりとした動作で立ち上がった。
ソレは、月斗の掌の炎が放つ光に照らされて赤く染まっていた。
To be contonued in Hole & Ant Queen2(アナと蟻の女王2)




