23.anima (挿絵あり)
23.anima
「いい加減、魔法を「のうりょく」って呼ぶのを辞めませんか?」
移動するバスの車内で梶 大作がみんなに意見を求めていた。
「いや、そもそも魔法って最初に言ったのお前だろ?」
ハンドボール部顧問で物理教師の堂島 海里が反論する。
「そうですけど!いや、ハッキリ言ってこの世界が異世界で転移して来たんなら異世界転移モノ!と言うカテゴリーじゃないですか!だったら魔法っていうのが当たり前じゃ無いですか⁉︎」
「当たり前じゃ無いですか?って言われても知らんし!でもここって異世界っちゃあ、異世界じゃね?」
「いや、違うんですよね!何か、魔法ぽいのは月斗先輩の火球ぐらいじゃ無いですか!」
「月斗の魔法は魔法っぽいよな!」
「ほらまた!魔法をのうりょくって呼ぶ!」
「そもそも、使える魔法がショボすぎませんか?」
梶が更に続ける。
「堂島先生は、指から塩水を出すとか、陸先輩は、ちょっと地面が盛り上がるって!まぁ、割と便利なのは1年の伏見のスマホを充電したり、電波を生み出して通信が出来るってのはいいんすけど…地味って言うか…、普通、異世界で雷属性の魔法って電撃とかじゃ無いですか?しかも、電波の飛ばせる範囲が恐ろしく狭くてせいぜいバスの車内だけって!…LANか!ローカルエリアネットワークか!しかもそれを誰がネーミングしたか知らないですけど、「異次元パケット」って!呼んでるでしょ!」
「ああ、それ私です!」
と言って三原 蔵人がバスの運転をしながら手をあげる。
「三原さんは、運転に集中して下さい!」
「大体、三原さんの青い制服の左右にある白いポケットの形もすごい気になってるんですよ!その体型とその制服で「異次元パケット」って言ったらダメですよ!」
「異次元パケット〜!」
「その言い方!すごい寄せてきてるし!」
やや、ずんぐりとした体型の三原に対して
梶がすごい勢いでまくしたてていると後ろの席から
「…アニマ…」
とボソボソっとした小さな声が聞こえてくる。
梶が振り返ると長い前髪で片目を隠した淡路 駿が聞こえるか聞こえないかの様な声で呟いている。
「えっ?」
梶が聞き返すと
「アニマ…」
とまた小さく呟いた。
「駿が言うには、子どもたちが魔法の事を「アニマ」って呼んでたらしい。」
淡路 駿の隣の席に座っている道修 空太が声を掛けて来た。
淡路 駿と道修 空太は、月斗や陸同様、応徳学園中等部からの同じハンドボール部出身のメンバーだ。
鋭い洞察力を活かして相手チームや、自チームの動きを観察し抜群のパス回しと自らも点を取りに行けるプレースタイルで中学時代にもCBで活躍をした。
一方、淡路 駿はその俊足を活かし電光石火の如く点を取りに行くRW(逆サイド)としてチームの中枢を担っている。
ただ淡路 駿は、控えめな性格ゆえに余り人と会話をしない。
その性格がプレースタイルにもあらわれていて、チームのエースとしてRBを張れる実力を持ちながら決して自分からは前へ出ようとしなかった。
「淡路先輩!子どもたちってマイクロバスの園児たちのことですか?」
梶が淡路 駿に質問をすると、彼は無言のままコクンとうなずいた。
「駿が言うには子どもたちは、魔法をアニマと呼んでいたらしい。」
「アニマ…アニマか!何か、その方が良いですね!」
元々細い目をした梶は更に目を細めて笑う。
「先生!コレからは魔法の事を『アニマ』って呼びましょう!」
「あ、ああ、それで良いんじゃね!それよりも子どもたちがそんな呼び方で呼んでた方が気になるけどな!」
「それについては、やっぱり6人目の園児が関与してるんじゃ?」
バスは、南 千里達を乗せ先行するマイクロバスの後ろを一定の車間距離を保ちながら走行している。
赤いクーペの車輪の跡が地面に全く残っていなかった為、どの方向に移動したのかわからなかったが南 千里の千里眼によって残された2台以外の気配を頼りにその方角へと向かう事にした。
幼稚園児たち以外に南 千里を含むAチームがマイクロバスに乗り込んだ。
舗装などされていない地面は、前日の雨でぬかるんでいて水溜りを避けながら走行する2台は、スピードを控えて走り続ける。
出発から20分程経過した頃、進行方向の斜め右手に前日に月斗が火球で倒したトリが群れを作ってバスと逆方向に走っている。
ダチョウを大きくした様な姿で鎌首を持ち上げた蛇のような長い首と退化した羽を持つ、前日に倒した個体よりも倍ほどの大きさの巨体をしたトリが10頭程の群れをなして猛スピードで移動していた。
「まずい!あんなのに襲われたら一溜りも無い!」
いち早く気付いた堂島がハンドルを握る三原に声を掛けると三原は前を走るマイクロバスにパッシングをしてアクセルを踏み込みスピードを上げてマイクロバスの右側に並走した。
廻りこんだバスの窓を開けて堂島がマイクロバスの運転手に声を掛ける。
「出来るだけスピードを上げてトリから離れて!」
マイクロバスを完全に追い越してバスはスピードをあげる。
同様にマイクロバスもスピードをあげるが、前日の豪雨で溜まった水溜まりがぬかるみとなってタイヤが空回りを始めた。
マイクロバスは、バランスを崩しかけて何とか車体を維持しながらぬかるみを抜け出そうと試みるがかえってタイヤが柔らかくなった大地に沈んでいく。
トリの群勢が、2台に気付き方向を変えた。
「まずい、気付かれた!スピードをあげろ!早く!」
「マイクロバスが取り残されています!」
「間に合わん!」
トリの群勢が猛スピードで、ぬかるみにハマってタイヤを空転させているマイクロバスに迫って来る!
堂島達の乗るバスの後方に取り残されたマイクロバスに向かってトリの群勢が勢いを増して迫って来る。
マイクロバスの車外に2つの人影が現れたかと思うとトリの群勢に向かって火の玉が飛び交い炎が激しく燃え上がった!
先頭を走るトリが目の前に広がる炎の柱に驚いて速度を緩めると後続のトリがぶつかって激しく将棋倒しの様に転倒する。
衝突を避けたトリが左右から抜けて来ると勢いを増した炎の柱に飛び込み、炎は退化した羽や羽毛に燃え移り、耳をつんざく様な金切り声をあげながら、次々と倒れ込んでいった。
トリの10m以上はある巨体が倒れ込んでは折り重なり激しい炎がトリの身体を焼く。
転倒と炎を避けた数頭が方向を変えて逃げ去ろうとした時、地面から突如、巨大なアリの様な形状をした乗り物が姿を現した。ソレは一瞬にして逃げ出す数頭のトリの周りを取り囲み、乗り物の先端から突き出している薙刀の様なモノでトリの足をなぎ払うと両脚を失ったトリ達が突っ伏して倒れ込んだ。
一瞬の出来事に戸惑いながらも、ぬかるみから抜け出たマイクロバスはその場から走り去ろうとするが、そのアリに似た乗り物に瞬く間に取り囲まれてしまう。
更に数十メートル離れて止まっていた堂島達の乗ったバスも黒いアリの様な乗り物に包囲され先端の尖った薙刀の様なモノを向けられて四方をグルリと取り囲まれた。
「取り囲まれた!まずいな!」
バスの車内に緊張感が増す。
「月斗先輩達の乗ったマイクロバスも包囲されてます!」
「梶!これってお前が言うところのイベント!って言うやつか?」
堂島が異世界に詳しい梶に尋ねたが無言のまま、額から汗を流している梶の姿を見て異常を感じ取った。
「非常にマズイ状況…て事だな…」
静まりかえったバス車内から外を見渡すと、アリに似た乗り物から人間サイズの人影が降りて来る。
人間サイズの…と言う表現通りその人影の姿がまるで二足歩行をしているアリそのものだった。
いかにも固そうな外皮に覆われ、頭はまるで特撮映画の様なマスク…アリの怪物の様な姿をしていた。
手には先端の尖った槍の様なモノを持ち背中には透明な羽の様なモノが見える。
アリ…と言うよりもハチ…に近いのか?生態系の分類上、アリはハチ科に属する。いずれにしても言葉が通じる様な相手では無さそうだ。
その姿を目の当たりにして車内に一層の緊張感が走った。




