20. I thought so too(俺もそう思ってた)
20. I thought so too
「おい、南!南 千里!」
日向 月斗がマイクロバスのシートで目を閉じていた南 千里に声を掛ける。
狭いマイクロバスの中は甘い香が漂っていて車内の子どもたちだけでなく、目の前の南 千里と運転手までもが眠っていた。
「お姉さまが起きないんです!」といってマイクロバスから慌てて飛び出して来た天道 京華に呼ばれて月斗と顧問の堂島が駆けつけた。
「月斗!車内の窓を開けて換気をしろ!」と堂島に言われると口と鼻を押さえながら車内の窓を開けていった。
空気が入れ替わり、車内を包んでいた甘い香が消え始める。
「何度揺すってもお姉さま、起きてくれなくって!」そう言うと天道 京華は心配そうに南 千里の顔を覗き込む。
「それにしても、お姉さまの寝顔!お美しいですわ!」
言われてみると、橘 妃音とはまた違った美しさが南 千里にはあった。
出会った頃の短めの髪と違い、髪を伸ばして一つに束ねている。中学時代は月斗よりも背が随分高くて手足も長く、ここ半年ほどで胸も大きく成長したのが余計に女性らしさを際立たせていた。
部活でも授業でもずっと一緒にいた月斗だったがこんなに間近で南 千里の顔を!それも寝顔を見る事は無かった。
どこででもすぐに寝れる、陸の寝顔はよく見てるけど。
車内の空気が入れ替わったあと、もう一度月斗が千里の両肩に手を置いて声を掛ける。
「千里!」
すると千里は赤毛の少年の顔に気付き顔を赤らめる。
「月斗!」
「大丈夫か?千里!」他の6人の園児たちと初老の運転手も次々と目を覚まし始めた。
目覚めた千里は、
「昔の…夢を見てたみたい…」そう言って月斗の顔を覗き込んだあと、すぐに目を逸らした。
「昔の…?」
「ええ、中学時代の…」
「そうか…身体は何とも無いか?」シートに座ったまま寝てしまっていた千里の肩に両手を置いたままの月斗の顔が近い。
「う…うん…それより」と言って千里は月斗の顔をまともに見る事が出来ないでいた。
思えばあの時の月斗の言葉が、今こうしてここにいる理由なのかも知れない。
「それより…あの…顔が…近くて…」
月斗の顔が目の前に近づいて、左目の下のホクロと赤茶色をした目と目があった。
「お姉さま!大丈夫ですか?きっと、みんなが眠ってしまったのって私のせいなんですわ!」後輩の天道 京華が心配そうに覗き込む。
「京華ちゃんありがとう…」と言って千里はその場で両手を上に上げて伸びをした。
「なんかすっごいスッキリしてる!それに気のせいか肌もツヤツヤになってる気がする!」と言って千里は自分の頬をぷにぷにした。
確かに南 千里をこんなに至近距離でマジマジと見る事は無かったが月斗も思わず
「綺麗だ!」と声を漏らした。
思わぬ言葉に千里は顔を赤らめて思わず両手で月斗を突き飛ばしてしまう。
何?何?何?何?サラッと歯の浮くセリフを言っちゃってんの?月斗?
「イテテテ…」「ご…ゴメン!」謝る千里に「ホントにそう思ったから!」後頭部を押さえながら爽やかな笑顔でまたそんな事をサラッと言って来る。
そうだった、いつも月斗はその時思った事をサラッと素直に言うんだった。
そういうところに惹かれたんだった。
それが私が中学から高校へそのままエスカレート式に進学する選択をせず、応徳学園高等部へ入学して、今ここにいる理由。
もっと一緒に月斗とハンドボールをしたかった…それが理由だった。
千里は月斗に手を差し伸べて
「早くこんな世界から帰って、ハンドボール一緒にするんでしょ?新キャプテン!」
「ああ、俺もそう思ってたんだ。」
再び握った手があの時よりも一層逞しく感じた。
髑髏の外では、太陽がまた低くなって夜が始まりを迎える。
この世界に来て、24時間…丸一日が過ぎようとしていた。
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2034年.9月13日 AM 7:20
テレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。
「続いて今日のトピックス」特集が終わりアナウンサーの口調が変わる。
「今日、9月13日は、2つの消息不明事件が起こった日です。20年前の今日と10年前の今日、いずれも何の情報も無く未解決のまま、月日だけが虚しく流れました。」神妙な面持ちでアナウンサーが話を続ける。
「………10年前、私は当時、西宮市のハンドボール部員たちの学校を取材しました…。
中学時代全国大会で優勝を目前に彼らは敗退、その後も一度も大会に参加出来ないまま、この事件に巻き込まれました…もし…彼らがどこかで無事…いえ…無事である事を願うばかりです。では一体、彼らはどんな気持ちで長い長い時間を過ごして来たのでしょう?」
アナウンサーの震えた声とともに映像が続いていた。
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「先生!そろそろ探索とか始めた方が良く無いですか?何やかんやで、あっと言う間に丸一日過ぎましたよ!」
「そうだな、何やかんやで、お前らの使えない魔法も、ほぼほぼ理解出来たしな!明るくなったら出発だ!」
陽が完全に沈み、灰色の月が低い位置で鈍く光っていた。




