World reason(世界の理)
13. World reason
「雨粒がやけに大きいな。やはりこの世界では我々の身体の比率が昆虫か小動物ほどの様だ…我々の身体が100分の1に縮んでいると仮定すると、筋肉量に変化が無ければ太子橋のあの跳躍にも頷ける…」
独り言の様に堂島は園児たちの乗るマイクロバスの車内から窓の外を眺めてそう呟いた。
車体の真ん中辺りの出入り口付近に堂島と2年の南 千里、そして園児たちを引率する泉 穂波がそれぞれ座席についている。
マイクロバスはエンジンをかけたまま停車している状態で6人いる園児たちの全員が疲れて眠っていた。
「泉先生、つかぬ事をお聞きしますがこの子たち全員の顔と名前は一致してますか?」
突拍子も無い質問に泉は戸惑いながら
「ええ、勿論です…」と答えた。
やはり、報道されている情報が間違っているのだろうか…?堂島は考えを巡らす。
マイクロバスの運転手の話によれば、幼稚園バスは昨日の朝、山手町の幼稚園を出発して関大一高の前の踏切を渡り円山町を経由した後、垂水神社の鳥居の前で園児を乗せ、南下した後、豊津中の北側で更に2人の園児を乗せ雉子鳴通りを北上していると突然目の前の景色が変わったという。
運転手は65歳の定年後、この幼稚園バスの運転手になったという…朝、夕の送迎は月曜から金曜日までの毎日同じコースを同じ時間に繰り返しているという。
今年の4月から園児を乗車させる場所が円山町垂水神社、豊津中北の3カ所になったという事だ。
堂島は園児の人数の事が気になったのと、園児たちが両親から離れて丸1日以上経つのに妙に落ち着いてるのが気になった。
見知らぬ場所に連れてこられて不安からもっとパニックになっていてもおかしくない。
ところが…だ。
意外にも園児たちは落ち着いていて、この状況を楽しんでいるかのようにも思える。
「不思議でしょう…子どもたち、すごく落ち着いていて…逆に私の方が励まされて。」
教員の泉はそういうと窓の外を眺めた。
「雨…激しいですね…」
泉がポツリ言う。
「泉先生…子どもたちはこの状況のこと、どう捉えてるのでしょう?」
「ええ…最初は、とても不安そうにしてたんです。でもしばらく走ってると小さな村があって、そこで少し休憩をする事になったんです。」
「村…?ですか…?」
「ええ…村。街…というには小さくて…それに…」
「それに…?」
「そこには、小さな子…?しか居なくて…」
「小さな…子ども…?ですか?」
「ええ…見た目は子ども…中身は…みたいな…」
「何かしら…事件が起こりそうな感じですね…大丈夫でしたか?」
「ええ、そこの長?と呼ばれる人物が私たちに食料と水を分けて下さって…子どもたちとも遊んでもらったり…とても親切にしていただきました。」
「なるほど…子どもたちしかいない村…。泉先生!その村はここから近いのですか?出来ればそこでこの世界の情報を得たいのですが!」
「ええ、村を出てすぐにあのトリに追いかけられて…なのでそう遠くないはずですが…」
「ですが…何か?」
「その村に戻る事は難しいと思います…」
「と言うと…?」堂島は泉の曖昧な返事に少し苛立ちを感じていた。
それを察して隣で2人の会話をずっと聞いていた南 千里が
「その村にたどり着くには条件がある…」
「ええ…でも何故それを?」
「私、この世界に来てから特殊な力が備わったみたいで…何故かわかるんです。」
「あなたも?ですか?」
「あなたもって事は泉先生も?」
「いえ、私では無くて子どもたちが…」
「子どもたちが⁈」
「はい、その村で…長が私たちの前で魔法?を見せてくれたんです。」
「魔法!」
「そこの子ども達は、魔法を使えるんです。それを見てうちの園児達も使える様になりました。」
「ユリゲラー!…この園児たちは、その瞬間、この世界の理を理解した…という事か…」
「そんな大層な物とは違うかも知れません。その…感覚的な…」
「泉先生!この魔法と名前が関連してるのはご存知ですか?」
「そうなんですか?」
「ええ、子どもたち全員が魔法を使えるんですか?」
「はい、その村で魔法を見せてもらって全員が使える様になりました。私と運転手さんは試していませんが…」
運転手さんは、3人の会話が聞こえているのか聞こえていないのか、ハンドルを握ったまま、ずっと前を向いている。
「キッカケは目の前で魔法を見る事…魔法の存在を肯定する事か…」堂島は鏡の様なサングラスをクイッとして呟いた。
「ところで泉先生、園児たちの魔法ってどういうものですか?」
「えっと…」と泉が言いかけて
「先生!おしっこ!」と園児の1人が泉に話しかけて来た。
外は大粒の雨が降り続いていて、マイクロバスの屋根を激しく叩きつけていた。
「先生!この雨の中で外に出るのは危険です…運転手さん、あの大きな木の方向へ移動してもらえますか?」
堂島はそう運転手に告げると前方の木を指差した。
初老の運転手は、コクリと頷くとゆっくりとバスを動かした。




