第7話「ギルドに入ってみた」
王都ギルド。
アリシアが運営する国家ギルドの一つである。
王都ギルドが作られた経緯は、若さと才能溢れる者が街で腐っている現実を目の当たりにした当時のアリシア総長の一声だった。
捕まえて閉じ込めるのは簡単だが、それでは根本的な解決にはならない。毎日のようにアリシア警とアリシア軍の耳に届く国民の小さな声に応える方法を模索していた総長は、国民の声をクエストとして誰でも引き受けられる場所を作ることを思いつく。
そんなこんなで王都ギルドが設立されて百年。
今日も沢山の声がクエストとして壁いっぱいに貼り出されている。
レンはギルドに入るや一目散に受付へと向かった。『ギルド登録者募集中』と書かれた紙を勢いよくカウンターに叩きつける。
「ギルドに登録したいんだ」
「わかりました。それではこちらの用紙に必要事項を明記してください」
受付嬢から差し出された用紙に視線を移したレンだったが、なぜか表情は硬い。
「どうかなされました?」
「ちょっと……ちょいと待ってて……」
レンは受付嬢に背中を向けてフィアナに助けを求めた。
「なに。どうかした?」
「名前と年齢と住所を書かなきゃダメなんだけど、俺たちの住所ってどこ?」
「バカじゃないの。そんなのあるわけないでしょ。あーしたちにそんな余裕ないじゃない」
フィアナはあっけらかんと答えた。なぜそんなことを聞いてくるのかと首を傾げている。
するとユッサが受付に向かった。
「実はわたしたち、親から勘当されちゃいまして」
「あらま。それはいったいどうして。勘当されるような方には見えませんが」
「親がコツコツ貯めてた貯金を黙って使っちゃったことがバレちゃって。もちろん謝ったんですけど額が額だったから許してもらえなくて……」
ユッサは情に訴えるように語る。もちろん全て嘘っぱちだ。
「現在はどちらにお泊まりに?」
「恥ずかしながら野宿です。夜風で体を震わしながら焚き火で暖をとってます」
「食事は?」
「家を追い出されるときにこっそり持ち出した缶詰を分け合ってます」
ユッサは迫真の演技を披露していく。一万ミヨスを食事で使い込んだとは思われない。
「な、なんと苦しい日々を。ああ申し訳ありませんでした。特別に名前と年齢だけで構いません」
「ありがとうございます。助かります」
ユッサは、後ろで待つレンとフィアナに向けて舌を出した。
晴れてギルドに登録できた三人は冒険者カードを受け取った。
レンは早速クエストを受注するべく動くが、ユッサは冒険者カードを隅々まで見ている。
「レンってばなんにも説明受けないだもん。わたしは気になったら聞かないといられないタイプなんだよね」
ユッサは受付嬢に質問する。
「なんでもお答えしますよ」
「えーと。わたしたちの冒険者ランクが銅ってことは、受けられるクエストは銅ランクだけなの?」
「はい。冒険者ランクはクエストをこなせば上がる仕組みになっています。とはいえトントン拍子というわけにはいきません」
受付嬢がわかりやすく答えてくれるためユッサは次々と質問できた。
「クエストの報酬は即日払い?」
「もちろんです。安心してください」
「クエストの複数受注はできる?」
「可能ですよ。ただし、それによる報酬の増加はありません」
「王都ギルド以外のギルドのクエストは受けられる?」
「受けられますよ。アリシアには五つの国営ギルドがあり、冒険者カードは国営ギルド共通となっています。ただし、報酬はクエストを受注したギルドでないと受け取れませんので注意してください」
ユッサはコクコク頷きながらメモをとる。
「沢山の質問に答えてくれてありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。お役に立てれてこちらも嬉しいです」
「よーし。これで安心してクエストを受けられるよ」
ユッサが拳をギュッと握りしめて気合いを入れたと同時にレンが受付に複数枚の紙を置いた。
「クエストは複数受注可能なんだろ。いっぺんに受けたほうが楽だ。受付嬢さん、手続きお願い」
「相談しなくてもいいんですか?」
そう言われてユッサとフィアナを見るレン。二人とも「任せる」と口を揃えた。
「俺に一任するとさ。銅ランクのクエストなんて大したことないだろうしサクッとこなしちゃうぞ」
レンの発した言葉に受付嬢は片眉を上げた。
「そう簡単にはいかないと思いますよ。レンさんが選んだクエストはいずれも受注後三日以内にクリアしないといけません。見たところ装備に少々心配があります。失礼ですが皆さん、戦闘の経験はありますか」
「俺はないぞ。争い事から逃げてきたからな」
「わたしもないよ。魔物を見たことすらないもん」
「あーしは戦えるわ。ただし、誰かを守りながらじゃなければね」
三人の言葉を聞いた受付嬢は小さく溜め息をつくと、一枚の紙を選んで差し出した。
「現在の皆さんの状況を総合的に考えた結果、受付嬢として許せるクエストはこちらのみですね」
『草原に自生しているヌメヌメ草を樽いっぱい摘んでくる。報酬は五千ミヨス』
レンは肩を落としながらも泣く泣く了承した。