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第5話「とある武具屋で」

 街の至るところに武具屋がある。

 入り口付近に剣や鎧を置いて客寄せにしているところや、店主自ら客寄せするところとさまざまだ。


 レンは中学のジャージの周囲との浮き具合を感じていた。


「バカ女神。俺とユッサの服買ってくれよ」

「なんであーしが買わなきゃいけないの」

「だって俺もユッサも手持ちないぞ」

「なに言っちゃてるのよ。大女神さまからもらったでしょ」

「一万ミヨスだろ。あれならもうないぞ。あれもこれも食べたいって言う女神に応えてたからな」


 フィアナの大食いは底なしだった。

 鶏の丸焼き、じゃがいものトマト煮、玉ねぎの丸揚げなどなど……。目についた料理をレンジにねだりにねだっては人一倍食べていた。


「でも一万ミヨスよ!? ちょこっと食べ歩きしたくらいでなくならないわよ」

「甘いなバカ女神。あんたは食べ歩きの怖さを知らない。人数が増えれば買う数も増える。三人なら買う数も三倍になる。単価五百ミヨスと甘く見てるとあっという間だ」

「あーたらが我慢すればよかっただけの話じゃない」

「平気で女神らしからぬ発言するよな、あんた。そんなに俺を殺したいのか」

「一食二食抜いたくらいじゃ死なないわよ」

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」


 ガミガミと言い合うレンとフィアナ。


 そんな二人を尻目にユッサは武具屋の前で指を咥えていた。窓越しに見えるのは赤いずきん。


「あれ可愛い」


 堪らず言葉を漏らすユッサ。

 すると店主らしき老人の男性が店から出てきた。腰を曲げ杖をつきながらも笑顔を浮かべている。


「おやおや。こりゃ可愛らしい子がきたもんだ」

「あ!? ごめんなさい! 赤ずきんに見惚れちゃって」

「構わんよ。好きなだけ見ていきなさい」


 店内に入るよう促されたユッサは「ありがとうございます」と店主にお礼を言う。

 店内には剣や盾、弓や鎧に杖といろいろ売られていた。


「わあ」

「お嬢ちゃん、歳は?」

「十五です」


 ユッサの年齢を聴いた店主は「ちょっと待ってなさい」と言って店の奥に引っ込む。


 店主が戻ってくるまでユッサは店内を物色していく。


「綺麗な石だよ。装飾用かな?」


 棚に並べられている色とりどりの石を見つけて目を輝かせる。どの石も手のひらに収まる大きさだ。


「お面もある! お面なんて、お祭り以外で見ないからビックリだよ」


 お面の種類はさまざまで、猫や犬といったポピュラーなものから、鬼に似た強面なものまである。


 ユッサは狼のお面をつけてみた。


「しっかり見えるし息苦しくもない。お祭りで売ってるやつよりも好きかも」


 ちょうどそのとき、埃を被った箱を抱えて店主が戻ってきた。


「ずいぶん可愛らしい狼だ。ぜひとも客寄せにほしいものだ」

「ふぇっ!?」


 ユッサは恥ずかしくなりお面を外して棚に戻した。


「若い子をからかうのは、いくつになってもやめられないもんだ。年寄りのボケ防止とでも思ってくれていい」


 店主は箱を開ける。箱の中に入っていたのは、赤く輝くトンファーだった。


 ユッサはトンファーを見て首を傾げてしまう。


「この世界にもトンファーがあるなんてね。でもなんでお店に並べてないの?」

「これは売るべきものじゃないんだ」

「どうして? こんなに綺麗なのに」


 ユッサの疑問に店主はトンファーを手に取りながら答える。


「これはわしの孫の作品なんだ。詳しいことは知らんが、ずいぶんと孫は胸を張っていたもんだ」

「それじゃ売れないね。ううん。売るべきじゃないよ」

「孫の作品だから売りたくないという気持ちがあるのは否定せんよ。だがそれだけが理由じゃない」

「ほかにどんな理由があるんですか?」


 本当ならば、赤の他人がグイグイ踏み入っていいものではない。だがユッサは聞かなくてはいけないと思ってしまった。


 店主はトンファーを優しく撫でながら答える。


「孫の遺品なんだ。流行り病で三年前に死んでしまった。孫はこれを店で売ることを望んでいたな」

「……難しいですね」


 祖父心としては孫の望みどおりにしたい。でも遺品であるため手放したくもないというわけだ。

 ユッサは言葉に詰まる。赤の他人の自分が軽々しく思いつきを言っていい問題ではないからだ。


 少しの沈黙ののち、店主はなにかを決心したかのようにユッサの顔を見る。


「わしが言わずともこの武具がなにかをお嬢ちゃんはわかった。正直言ってしまうとな、これがどういうものなのかわからんのだ。こんな形状の武具をわしは知らん」

「それは……」


 ユッサは「異世界に転生したんです」と言いたい衝動に駆られるが、なんとなくマズい気がして言葉を飲み込んだ。

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