7話 魔王さまは証明する④
2ヶ月くらい前。正確には2ヶ月より短い。
「今日はこの2年A組の転入生を紹介するぞ〜。」
このメガネの先生は化学の武喜 裕貴先生で、クラス担任だ。
「沙汰麻央くんだ。仲良くするように。」
この世界に転生した時、俺の身体は高校生くらいの身体だった。
埼玉南西部の森の中で応寺原と目覚めた俺は既に東洋術式の中心に居た。
直ぐに抜け出そうとしたがその術式のせいか動くことすら出来ず、巫女装束に身を包んだ神凪紗千とその家族になすがままにされ
俺の魔力は封印されてしまったんだ。
それだけでなく、逆に、この世界に早くなれるため記憶力増進と日本語の習得をさせる魔術をかけられた。
そして監視役の神凪がこの私立所沢衆栄高校の生徒とかで同じ学年の生徒として入学させられ今に至る。
あと因みにだが、応寺原はとなりのB組になった。
「さ、沙汰麻央ですっ!」
俺は緊張で足を震えさせながら何度も頭を下げた。
後で考えたら1回で良かった...もう二度とこの事を思い出したくない。
「何か質問はあるか。」
先生は生徒たちに質問を求める。正直質問して欲しくない。
が、そんな俺の気持ちを他所に
「ウェイウェイウェイウェイウェ〜イ!」
なんだあいつ!?なんか他の生徒よりも身なりが派手だが!?
「はい、上井くん。」
「ウェ〜イ!ウェイは上井陽って言うウェイ!最近ハマっていることはアルフォートのチョコ部分をキレイに食べてからビスケット部分を食べることウェイ!」
なんだこいつ...ウザイぞ。しかも初対面でタメ口?かよ!
「上井くん、君の事は聞いていません。」
先生は流石に真面目だから諌める。
「おっとメンゴメンゴウェイ!出身は何処ウェイ?」
しかも興味ないし聞くことない新入社員に取り敢えず聞くような質問........
「え、えー.......し、出身はま、まか.....い!?」
なんだこの殺意は!?........一体どこから.......そこだ!って神凪!?........そうだった!前居た世界の事は言ってはいけないんだった!不味いどうしよう考えろ!マカイまで言ってしまったぞ
「沙汰くん、どうしました?」
不味い...そうだ!昨日テレビとか言う魔法の板で...
「ま、まかい........磨崖仏で有名な茨城県かすみがうら市.......です!」
上手く乗り切ったと思ったが、かすみがうら市で有名なのは霞ヶ浦だろって後で神凪に言われた。あぁ.......この時もやってしまった。もうこの時から変なやつって思われてたのかな.......。
「あー他にないか?」
もう無いよな?もう無いよな?
「はいはーい!」
「はい高橋さん(♀)。」
に、人間の!?年頃の!?女の子!?
これは変なこと言えない!
「嫌いなタイプ人はどんな人ですか?」
「え、.....ああ、うーん、そうですね、うーん」
もう勇者と答えると決めているが取り敢えずよく考えている振りをしてから
「えー、ゆう.........し!?」
なんて殺意だ!?........これも神凪から!?そうだ!この世界では魔王とか勇者は一般的じゃないんだった!しかしユウシまで言ってしまったぞ!これどうすんだ?
「沙汰くん、どうしました?」
不味い...そうだ!昨日テレビで...
「ゆ、ゆ、ゆ、有志(強制)みたいな人の集め方するやつ.......」
この時はまだやりきった感があったが、その日の夜、寝る時に「絶対面倒くさい人間だと思われた!あぁもうこれ絶対会話するの避けられるわ。やっちまったなぁ。過去に戻りたい。」って布団の中でもがき苦しんだのは言うまでもない。
「ほ、他に質問はないか?」
もう質問は来ないだろう。
「はい!」
いやまだあった。でもあの子は少し取っつきやすそうだ。
「はい、金くん。」
「筋トレは1日に何回しますか?」
筋トレか!それならお手の物だぜ
「ノルマとして腹筋背筋腕立てプランクのインターバルを3セットやっていますが他にもスクワットやツイストクランチをやったりします好きな筋肉は下腿三頭筋好きなプロテインは無難にサバスです昨日はジムと言う所に行って見てマシンを使ってみたのですがあれはやりやすくていいですねモチベーションを維持しやすいと思います筋トレ以外にも有酸素運動としてキロ4ペースで10km程走っていますが何しろここへ来てから体がなまっているのでもっと練習しないと本来の俺の力が出せないのではと思ってます」
「........君とは筋肉で通じ合えるかもしれないな.......... 」
「なんか俺のときより饒舌じゃないウェイ!?」
その夜、布団の中に入った時に早口で話しすぎたと思い、後悔で中々寝付けなかったのは言うまでもない。
「他に質問はー?」
もう流石に来ないd
「...はい。」
今度はモヒカン頭の見た目からしてヤンキー確定の男が挙手した。
1体俺に何があるってんだ!まさかこのクラスのルールを教えてやる的な!?
「はい。井川くん。」
「...いや........なんでもない..........よ」
それだけ述べると井川と言うヤンキーは頬を少し赤くして席についてしまった。
なんだったんだ
「えー。他には質問ないかな。じゃあ沙汰くんはあそこの席に座ってくれ」
担任の先生の指差した先は教室で窓側の一番端の席だった。
俺は皆の目線から逃げるように小走りでその席へ行って座った。
隣は.........うっ女子か........
金髪ショートヘアの若干小柄な女の子で、見た目はかなり大人しそう。
大人しそうな人に対しては俺はそれなりに話せるのだが、異性となると........
これはちょっと話しかける勇気がない。
ってことでこの日は結局、隣の人とは何も話せなかった。
休み時間にはクラスの人に結構話しかけられた。幾人かの男子とは気が合ってそれなりに話せた。一番初めに友人関係になったのは成島だろうか。
だが、女子とは上手く話すことができず、クラスの女子達の俺への関心はたった一日で急速に冷えてしまったように見えた。
そして次の日の朝。俺は今日も登校し、クラスの教室に入った。
もう大体の生徒はクラスに来ていて友人同士で楽しそうに話している。
当の俺は何人かの男子とは仲良くなったとは言え、まだ受動的だった。あまり、自分から話しかけるような気にはなれなかったのだ。
俺はそのまま席に座り教科書忘れがないかチェックする。
「うん。完璧だ。流石俺。」
だが、その後やることがなくなった。
仕方がないので神凪家から支給されたスマホを見て時間を潰そうとすると
「あ、あ、あの!」
昨日は話せなかった隣の席の人にか弱い声で話かけられた。
「あの、すみません......あー、次の時間の教科書を......をー、忘れたんで.........見せてくれませんか........?」
その子は魔王であった俺のオーラにでも恐れおののいたのか俺のことを直視せず、目を泳がせている。
「あ、あぁうん。い、いいよ!」
俺は舌を噛みながらも快く承諾した。
で、次の時間。
慈悲深い俺は約束通り隣の子と机を並べて教科書を見せてやった。
その子は机の真ん中にある教科書をよく見るためにか、俺の方へ身体を寄せる。
俺はと言うと頭の中は(近い近い近い近い近い近い近い近いってなんかいい匂いがするなこれは柔軟剤の香りなのか...は!?これがボォルド♪ってやつか昨日テレビで見たぞあぁ吐息まで聞こえる聞いてたら気が落ち着いてきたわぁ...)って感じでフル回転していた。
そんなハラハラな授業も終わり、最後に隣の人から
「あ...あ...ありがとうございましたっ!き、き、き、昨日は言えなかったけど...よ、よろしくね!」
とか言われたのでこれはもう大変。
次の体育の時間はありがとうございましたっ!とよろしくね!を脳内で数百回再生したし
その日の夜布団に入った時も「ありがとうございましたっ!よろしくね!」が繰り返し頭の中で再生された。
不幸だったのはその1週間後だ。席替えが行われその子とは離れ離れになってしまったのだ。
だが、俺の席はその子よりも後ろで、偶に彼女の姿が見えるとあの台詞を再度思い出してしまうのであった。