1話 魔王さまは異性と話せない①
俺、魔王サタンが勇者野郎に破れてから2ヶ月。
俺はひょんなことからこの日本に転生、沙汰麻央という偽名をもちいて高校生と言う物を演じている。いや、演じさせられている。
どうやら高校生とは高校という機関に詰め込まれている青年達の事を言うらしい。
そして高校とはこの世界の強制収容所のようだ。収容期間は3年。この高校とやらに捉えられた者たちは生徒と呼ばれ、日々、来世でも役立ちそうにない無駄な知識を詰め込まされている。
恐ろしいのはここからだ。この世界の親達は皆、嫌がる生徒達を他所に、無理矢理収容所送りにしているというのだ。
それどころではない。この日本という世界の魔王(ここでは首相と呼ばれているらしい)である阿部という奴は全青年の高校収容を義務化しようとしていると聞いた。全くこの世界の住人の考えることは俺には理解出来ない。
そしてこの俺は何故かその囚人にされているってわけだ。
くそっ!俺が本来の魔王の力を使えれば!こんな場所吹き飛ばせるのに!
今は、"現代文"と呼ばれる、学者振った詰らない話を聞いて、いかに眠らないかという精神統一の授業の始まる直前だ。
「沙汰君!消しゴムが落ちてたんだけど君の?」
ふと前に座っている高橋という名前の女子に声をかけられた。
「え、え?い、いやぁ...ち、ち、違うかな?ゲヘヘ」
俺は焦って何度も首を振った。
いや、待て、沙汰麻央!一体何を焦っている!?
この世界に来てどうも調子が悪い。
男子とは一部を除いて気軽に会話は出来るのだが、
女子に対してはどうも意識してしまって挙動不審になってしまうのだ。
別にそこらじゅうの女子を邪な思いで見ているわけでもないが、人間の異性であると意識してしまうと上手く話せなくなる。
その女子はそんな俺を見て鼻で笑ってから、一瞬興味が失せた顔をして「そう。ゴメンね!」と言って前を向き直した。
「また、やっちまった...。」
どうして、どうして俺はこんな目に...!
「お前ってコミュ障やな。」
今度話しかけてきたこの似非関西弁の男は、隣の席の成島 力だ。
「コミュ障?それはなんだ?」
「お前、コミュ障を知らんのか?」
「なんだそれ、病気か?」
「病気...まあそんなもんなんかな、いや違う気もするんやが。とにかくコミュニケーションが苦手な人の事をいうんやで。」
「コミュニケーションが苦手?お前や大体の男子には普通に会話出来ていると思うが?」
「コミュ障にも色々種類があってやな。女子に挙動不審な時点でその1種や。」
「そうなのか!?シャイとかではなく!?」
「うーん。じゃけん、大体の男子って、逆に話せない人は誰や?」
「上井 陽とか。」
俺達は上井の居る方を見る。上井というやつは髪をピンクに近い赤に染め、耳に穴を開けて小さな金色のリングを通しているどこかの部族だ。それでいて長身だから嫌でも目立つ。
「うおっ眩しっ!おい陽!どうしたその髪!?」
上井の友人が聞く。上井は髪がギラギラと光っていた。
「いや〜ワックス塗りすぎたウェイ!次の授業まで時間がなかったからそのまま来ちゃったウェイウェイウェイウェイウェ〜イ!!!」
ワックスだと?なぜ人間の身体にワックスを塗るのだ?ワックスって床をキレイに見せるためのだろ?
それになんだその語尾は。
やはり上井のことは全く理解できん。
しかし成島にとっては違うみたいで
「あいつにか!やっぱお前コミュ障やわ!」
「なん...だと...........」
どうやら俺はコミュ障という病気にかかっているらしい。