8話 魔王さまは祓いたい④
「どうした!?何かあったか!?」
有栖の悲鳴を聞いて俺はトイレに急いだ。
有栖はトイレの入り口の前で立ち尽くしている。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、こ、こ、これは.......一体......!?」
有栖は涙目になりながらソレを指差す。
ソレはオシャレの為のただの壁紙だった。
なんだよ...ビックリしたじゃないか。
「これは恐らく前の入居者かなんかが貼ってた、ただの壁紙だよ。剥がしても良かったんだけど俺も気に入っててさ!壁一面に赤字で書かれた『祝』ってなんか縁起が良いよね!」
「いや!これ『呪』ですけど!?」
「何!?本当だ!?よく見たら部首が違うだと!?これだから日本語は難しいんだよ!」
「それどころじゃ!塩!塩をまきましょう!」
「そうだ!塩!」
俺は台所に行って塩を取り出す
が、ほとんど塩を使い切ってしまっていて中身が殆どない!
「くそ!塩がねえ!」
「えぇ!?他に使えそうなものは!?」
「前の入居者が残していったものらしき節分の豆なら!」
「この際もうそれでいいです!」
俺達はもう一心不乱で見えない敵に対して豆を撒き散らかす。
「鬼はああああああ外おおおおおおおおお!」
「福はああああああ内いいいいいいいいいです!」
ちきしょおおおおおおお!ここで死んでたまるかあああああああああ!
時間を確認する。
時刻は夜11時。あと1時間で今日が終わるのだが...!
その時、急にテレビが着いた。
"ピピンンンピピピピンピピピピジャジャンジャジャジャンジャジャージャンジャジャーンジャン...この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りします。...『こんばんわ。先ずはこちらの映像を...』"
そういえばいつもこの時間にテレビがかかるような気がする!何か訳でもあるのだろうか。
《沙汰!私、何か気配を感じるわ!今からそっち行くから待ってなさい!》
神凪からも遂に試合開始のコールが来てしまったか.......!
そして、神凪とのテレパシーが切れた瞬間
ーパチンッ
証明が消えた。テレビはついているのに電気だけ。
取り敢えずテレビは何か映るかもしれないし薄気味悪いから、テレビからなるべく距離を取る。
だが
ードンドンドンッ
なんでだろう。布団しか入れてないはずの棚から生体反応。
「こ、こ、こ、こ、これはまさかですけど...!」
「お、お、落ち着こう!やつの狙いは俺のはずだ!有栖は逃げるか隠れるかしててくれ!直ぐに神凪が来るはずだ!」
と言ったが遅かった。
棚の扉がズルリ...ズルズルッと徐々に開き、開いた隙間から長い髪が滴れ落ちてきた。
棚は部屋と玄関を繋ぐ通路の側にある。すでに退路は塞がれているのだ。
俺達は仕方なく後ずさりで部屋の端へと逃れる。
一方、その霊とやらは髪だけでなくその本体も顕にしてきた。
背の高く、白いワンピースを着た女性、だったものだ。顔は長い髪に隠されよく見えないが、手など見える肌は明らかに腐敗している。
「あ"あ"あ"あ"あ".....か.....ぶ......あ"あ".....あ"かぶかぶかぶかぶかぶ.......」
そいつはどこから出しているのか分からない声を出して這いつくばりながらこちらへ接近してくる。途端に先程まで完全に消えていた電気がパチパチと点滅を開始。
「「ぎゃあああああああああああああああ」」
叫ばずにはいられないでしょうよ。俺達は互いに丸まって防御の姿勢を取る。
........だが、待て。この霊は有栖には興味ないはず。
それなら
「お、お、おいこのクソッタレのゴースト!殺りたきゃ俺を殺れえええええええええ!」
「麻央!?」
俺は立ち上がって有栖の前で両腕を広げた。
霊の方もそれに乗ったのか、一時停止すると一気にジャンプして俺に襲いかかってきた。
「があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
両者の気合の入った声が響き渡る。
それにしてもこいつ、この様子だと俺に憑依するつもりなのか!?
ーガツンッ
途端に俺は額を殴打されたような痛みを感じた。
「い、痛えええええええ!?」
だが、見ると霊は目の前に居ない。代わりに俺の足元には額にたん瘤を作った霊が倒れ込んでいた。
「あ、あれ?」
俺が困惑していると
ーガチャッッッッッッッッッッッ
遂に巫女装束に着替えた神凪が御札を持って入室してきた。
「やっと私の前に姿を現したわね!この悪霊!私が浄化してやるわ!悪霊退散!」
そう言うと持っていた御札をばら撒く。ただばら撒いただけに見えたが何故か円を描くように御札が配置され、途端にその円内から光が出てきた。
その後のことは思い出せない。俺の頭が真っ白になっていたからだ。
気付けば部屋の明かりは元通りになり、霊の姿もなくなっていた。
居たのは立ち尽くす俺と、やりきった顔をした神凪、心配そうな顔で見る応寺原、そして後ろで蹲る有栖だけだったのだ。
」
「「「きゃあああああああああああああああ」」」
「今日は専門家の山口敏次郎さんにお越しいただきました。山口先生、あの霊は一体何だったのでしょう?」
「あれはですね、非常に強い怨念を持った霊ですね。恐らくあの部屋では殺人事件があって、死体はあの押入れの中に入れられていたのでしょう。テレビが勝手につく23時、この時間にちょうど殺されてしまったんでしょうね。この時間にあの霊は、自分が負った苦痛を他の人間にも体験させようとしているのです。」
「なるほど。みんな!アレの準備は出来ているかな?」
「「はい!○ろうさん!」」
「イワコデジマイワコデジマ...」




