魔王さまのQ.E.D.
唐突ではあるが「大は小を兼ねる」と聞いたことはあるだろうか。
俺はこの世界に来て初めて聞いた。
なにせ元いた世界では俺が最強だったからだ。俺が"大"だった。
いや違うな。"大"だと勘違いしていたんだ。
話を戻そう。俺はその「大は小を兼ねる」を実践しようとしている。
"ビビッ.....こちら応寺原ッス。コード106257は、推定15秒でそちらに到達すッス!どうかご武運を.....ッス!"
トランシーバーが戦いの開始が近いことを知らせる。
「はぁ...はぁ...はぁ...こちら沙汰。了解...!」
全く...この世界は恐ろしいぜ。かつてはひとりで世界を支配したこの俺をここまで追い込むとはな...!
やがて足音が聞こえてきた。それはどんどん大きくなりドアの前で止まる。そしてドアノブが動き...
ーガチャッ...ガチャガチャガチャガチャ
「あ、あの...それ引き戸です。」
ーガチャ
対象、つまりコード106247がこの薄暗い部屋へ入って来た。
心拍数が高くなるのを感じる。
「これ、引き戸だったんですね...エヘへ...」
ぬおおおおおおおお!なんだその微笑みは!胸が!胸が痛い!これは最後の戦いの時、勇者一行のプリーストが放った【女神之息】をまともに喰らった時よりキツイぞ!
ここまで胸部が圧迫されているのになんの攻撃を受けているのか分からない。。一体どこから攻撃してきているんだ!数多くの魔法を見てきた俺でも全く理解できない!
...!?まさか!このガキがこの世界の勇者だとでも言うのか!
「あの...お話って........?」
こいつ!?この俺を急かすとは!いい度胸してんじゃねえか!
「あ...あ...あの...小姫さん...!」
「は、はい!?」
「おー...、俺と、と、えーっと」
「.......?」
「えー、つ、付き合ってくださいっ!」
こんなに心臓がバクバクしたのはいつ以来だろうか......だが.....よしっ!任務をやり遂げてやったぞ!どうだ!
しかし、そうやってソワソワしている俺をよそ目に、ここ、体育館裏の物置では暫しの沈黙が流る。
そして...
「い、いい...ですよ...!」
「.......なに.....!?」
俺は少し間を開けた。そして小姫さんにちょっと待ってくれと言って後ろを向いてトランシーバーを口に近づける。
「こちら沙汰!応答してくれ!こちら沙汰!想定外の事態が起きた!」
本当にこの日本という世界は何が起こるか分からない。
俺の焦る顔には窓から差し込んできた夕日が当たっていた。