地球が燃えた日
地球炎上の日の被害者視点のエピソード
地球炎上当日。黒部ダム。山田義二(本名ラグ・アルズ・メム)視点
始発のバスで扇沢からダムサイトに到着。妻はトイレに行くと走っていってしまったので。「ダムの上で待ってる」と声をかけ。娘を連れてダムの上に向かう。空気はひんやりと気持ち良い。まだ日は差し込んでおらず薄暗い。
と、思っていたのだが。山頂付近が異様に光りだした。雪が溶けて雪崩まで発生してる。しばらくすると雪崩の音が絶え間なく届くようになり。ダムになだれ込む濁流のような雪解け水の飛沫まで見えるようになった。
ここにいてはまずいと考えてバス駅の方に向かう。妻はまだ戻ってこない。そういえば、トイレが長いので夫婦喧嘩になったことが何度かある。妻はトイレに小さな書棚を作って単行本を置き、それを読むので必然的にトイレが長くなるのだ。今も、おそらくだがトイレでネット小説でも読んでるに違いない。
光が山頂から降り始め。ゴウゴウという音とかすかな熱気まで周囲に漂い始めた。太陽の異常活性化と予測する。地上にいては焼かれる。地下に行こうとバス駅の方に向かうが、係員が「異常事態なのでお待ち下さい」と足止めしてる。
緊急時に駅を立ち入り禁止にするのはまずいと新聞でも叩かれたのに、マニュアルを直してなかったらしい。客たちが騒ぎ出し、とうとう係員を押しのけて中になだれ込んだ。
妻の姿は見当たらない。これは一刻を争う事態。娘の命が最優先。と、娘を抱きかかえて私も中に向かう。娘が泣きわめき出したので、睡眠の術式で沈静化させる。眠り込んでしまうと結構重い。そういや、もうすぐ5歳の誕生日か。
トンネルを進むうちに温度と湿気が急速に上がりだした。もはや異世界技術を秘匿している余裕はない。魔法でのシールドを薄く展開。他の客が脱落していく中、進んでゆくと。前に出発したバスを見つける。緊急時のマニュアルに従って停車したのが裏目に出たのだろう、乗客は全滅していた。せめて走り続ければ多少は延命できただろうに。
メンテナンス用と思われる横穴を見つける。これ以上歩き続けるのは困難。と、考えて横穴に入り込み。ここを一時的な諸点と定める。幸い、電源の生きている太いケーブルを見つけたので。端末を接触させ目一杯エネルギーを充電する。明らかに盗電だが。今は緊急時だし。そもそも請求書を送ってくる人たちは生きてはいまい。
やがて電気が来なくなった。送電システムか発電システムが故障したと思われる。
この状況は太陽の異常活性化と断定。私が連絡を断って友人か取引先が気づくいてアクションを起こすまで最大3ヶ月と予測。それから救助隊を編成するのに最大2ヶ月。それが到着するまで最大3ヶ月。計8ヶ月。
エネルギー残量から生存の可能性をシミュレート。仮死状態となりアクティブに救難信号を発信し続けると2ヶ月。信号をパッシブにしても4ヶ月。これではまったく足りない。
娘一人を仮死状態にした状況に変えて再計算。約10ヶ月。これなら、ぎりぎり救助が間に合うかもしれない。今までの状況と娘を頼むというメッセージを友人と取引先の担当宛に録画。私の死亡と同時に全財産と権利と端末のマスター権限が娘に移るようにセット。
あと、やりのこしたことはないかな。そうだ。娘に最後のメッセージを残さねば。
「太陽が燃え上がって地球が焼けているみたいなんだ。二人だとシールドのエネルギーが持たないので。すまないけど、君だけを残すことになる。あとのことは山崎のおじさんと、マナリツアのお兄さんに言伝しておいたから。二人を頼りなさい。それじゃあ、元気で。一人にしてすまない。愛しているよ」
娘のみの仮死と保護のシールドを展開。自分を含む外側のシールドを解除しようとしたところでAI端末からエラーが出た。
「マスター、そんなことをしたら。あなたが死んでしまいます」
「すまない。エネルギーが足りないので、こうしないと娘が救えないのだ。救助が来るまで娘を仮死状態にして保護。パッシブモードで待機して、救助隊からの信号をキャッチしたら再起動してほしい」
「管理者権限発動。以上の命令を復唱後実行せよ」
「娘さんを仮死状態で保護。救助が来るまでパッシブモードで待機。救助隊を確認したら再起動。以後は遺言状に従い娘さんを守ります」
「すまない。今までありがとう」
「こちらこそ。それでは命令を実行します。さようならマスター」
ものすごい熱と呼吸困難を感じた途端。私の意識は暗転した。




