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隣町から

作者: 衣花みきや
掲載日:2017/06/08

さて、こうして話しているうちにも、人は死に、また新たな命が生まれていることは、言うまでもない。君も知っていることだ。

 けれど、それを憂う君は、いったい何がしたいの? そんなことじゃ、疲れるだけ。

 そんな目に見えないことだけじゃなくて、もっと自分の身の周りに目を向けてみなよ。

 きっと、素敵なことがたくさん君の周りにはあるはずだから。


 今日も、いい天気だね。昨日は何していたの?

 掃除? そういえば、一人暮らしだっけ。大変だね。

 あ、階段あるよ。気を付けて。

 今日は化学のレポートの提出日だけど、ちゃんと書いてきた? それとも朝の時間に仕上げるつもり? え、まだ一文字も書いてないの? 何のテーマかもわからない?

 それは大変だね。テーマはあれだよ、えっと、そう、電池のやつ。水溶液に金属板突っ込んで電流流してみるやつ。うん? やってないの? 休んでた? そっかぁ。じゃあちゃんと先生にその旨を伝えて、追試――じゃなかった、追実験? やってもらうんだよ? 補習が一番適切じゃないかって? ああ、そうだね、確かに。

 ねえ、いつにも増して落ち着いているけど、大丈夫? 私を騙そうったって、そうはいかないんだから。え、私と話せてうれしい? こら、話題をすり替えない。いっつも都合が悪くなるとそうするんだから。

 で、実際のところどうなの? 私に何を悟ってほしくないのかな?

 何も……って、そんな見え見えの嘘吐いて何が楽しいのさ。当ててあげようか。君が平静を見せかける理由。

 ズバリ、テストで満点取ったんでしょ。

 そんなわけないでしょ、じゃないよ。そのぐらいとれるようにならなきゃ。私が言える立場じゃあないけどさあ。ぶっちゃけ言って何にもわからないし。零点取る自信すらあるよ。

 え、あ、そうそう、なんで君が平静を装っているか当てようって話だったのね。というか、平静を装っていることは認めるのね。今更否定しても無駄よ、語るに落ちているのよ、とっくにね。

 で、そうね、なにかしら。好きな人ができてにやにやしているのを隠したいのかしら。それとももうすでに恋人ができたのかしら。だったらちょっと嫉妬しちゃうなあ。君が好きになるような人物のこと、もっと詳しく教えてほしいぐらい。どんな人なの? 背は、髪型は、声は、性格は? え、そもそもが違う? でも君の都市だったら好きな人の一人や二人ぐらいいてもおかしくはない。何なら三百人ぐらいいてもおかしくはない。そんなにはいない、か。なるほどなるほど、好きな人はいると。で、どんな女の子なの?

 もうすぐ会う予定? まあ、いつの間にそんなところまで話が発展していたの。へえ、告白するんだ。頑張って、隣町から応援しているわ。

 え、隣町じゃないと思うって? だって、君は今この町にいないでしょ。君がこの町に入ったのを私は見てない。この神社から一応町内を一望できるんだからね。人の動きくらいは全員分把握できるんだから。

 絶対に入ったって? 一体どこから入ったのよ。警備を強化しないといけないじゃない。まあ警備って言っても町に入る人の行き来を眺める箇所が増えるだけなんだけどね。怪しい人物がいないか、とか、そんなレベル。まあ、人だったら私は何もしないけどね。妖の類にしか私の力は通じないし。

 で、どこから入ったのか早く教えてよ。君が会うっていう女の子を見なきゃいけないんだから。暇なやつって言わないで。一応神様なのよ、私は。

 もう、一々じれったい真似しないでよ。実はもうその女の子とあったんじゃないの? さすがに私と通話中は無理か。それにしても便利よね。この君がくれたケータイとかいうもの。離れていてもお話ができるんだもの。充電も私の力を使えばすぐにできるし。

 さあ、そろそろ白状したらどう? 私に君の告白する女の子をさっさと教えなさい。

 いきなりどうしたの? 懐古の言葉を紡ぎだして。ああ、確か君がこの神社に初めて来たとき、そんなことを言ったわね。って話がずれてるわよ。まあ待てって……。まあいいけど。それで、私が言った言葉がどうかしたの? 人生が変わったりした? あらそう、それはよかった。私が君の人生を変えることができてうれしいわ。君は結構気に入っているもの。

 ちょっと待って。神社の境内に誰かが侵入したわ。ちょっと見てくるから待っていて。一回切るわね。


 もしもし。誰もいなかった。おかしいわね。途中からぷっつりと気配が消えたのよ。境内に踏み込んだことがわかって出ていったのかしら。不気味すぎて帰って行ったって、ひどすぎやしない? 実際、ここはひどい環境だけれども。肝試しにはちょうどいいと思うのよ、私。もしかして、私が見えることが一因だったりするのかしら。私も一見したら幽霊にしか見えないからね。黒い長髪に白い着物、それも死人巻きで着ているのだから、幽霊と間違われても仕方ない。

 そういえば、君ぐらいなのよね、私の姿を見て「美しい」とか言って近づいてきたのは。君は高校生で文武両道、健全で顔もいいのだから、もっと他の人を見てあげたらどうなの? ってそうか、今から会いに行く予定なのよね。というか、こんな長話をしているわけだけれど、そろそろ相手と会う時間なんじゃないの?

 え、今君の目の前にいるの? その子が? へえ、一層その子の顔を拝みたいところね。早く居場所を教えなさい。これは神からの命令よ。神託よ、神託。ありがたく受け取りなさい。

 やっと堪忍したのね。って、それここの住所じゃない。というか、よくここの住所を覚えようと思ったわね。何? 後ろを見てみろって? 一体何があるっているのよ。まあ、見てあげるけど――

 なんで君がここにいるの? 一体どうやって、人の気配はなかったのに。

 秘密って。そんなのズルよ。教えなさい。神託よ、神託。え、一日一回のみ? そんな制限はない。教えるのよ。

 時渡りを使った? ああ、なるほど、ここにいた時から時渡りすれば、同じ位置のまま時間を移動できるのね。便利ねえ、その能力。私があげたとはいえ、返してほしくなるぐらい。

 で、そんなことって言っちゃなんだけど、君、私に嘘を吐いたわね。好きな人と会うなんて、大嘘もいいところよ。私を騙した罪は重いわよ。

 何、嘘はついていない、と。でも、私の他にここに人なんていないわよ。いるなら早く見せてほしいものね。まさか、私が好きだとでもいうつもり? まさかそんなことはないわよね。だって私、君に好かれるような真似をした覚えが無いもの。

 それも、私が言った言葉ね。で、どうだったの? 素敵なものに出会えた? そう、それはよかった。例えば何かしらね。当ててあげましょうか。

 うーんと、この自然! 違うと。

 じゃあ、おいしいごはん! 違う。

 何だろう、友人! 違うのかぁ。

 うーむ、こればかりはわからない。ものさしは人それぞれだからね。

 教えてよ、一つでいいから。

 奇跡が起こった。君はそう言ったけれど、それはどんな奇跡だったのかな。人に出会えた。そうか、いい人に巡り合ったんだ。よかったよかった。これで私も安心して生活できるよ。ちょっとやっぱり悔しいなぁ。君にとって私はどこまでもどうでもいいような一人の神だからね。

 悔しがる必要はないって? 慰めてくれるのかい? 別にいいって。わかっていたことさ、私たち神は人間の特別にはなれない。そんなことは君が生まれる随分と前から、それこそ君のご先祖様が生まれるもっと前から決まっていたことなんだ。

 へえ、面白い話をするね。神様と人間が恋をしたのか。その恋は結ばれなかったろう? ほう、結ばれたのか。それは初めて聞く話だ。なんという神と人間の話なんだい?

 ふむふむ、それは、どこかで聞いたことのあるような……。

 ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。それは、私と君の名前だろう? 一体何を言っているんだ。確かに私は君が好きだ。けど、君の好きな相手は私じゃないだろう? え、何度もそう言っていたって? 確かに、君は好きな人が目の前にいるといっていたが……、あれはからかっていたのではなかったのかい?

 そんなわけないって、はっきりと言ってくれるねえ。まあ、はっきりと言ってくれた方がわかりやすくていいんだけどさ。

 ――っ! あ、赤くなんてなってない!


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