第5話 あなたのスキルはなんですか?
「はあ~、なんでこんな事に・・・」
宿屋に戻った俺は溜息しか出なかった。
あの後は結局押し切られてしまい、ツェールも仲間にしてしまいましたよ。
そして仲間なんだからと、俺達の泊まっている宿屋の部屋にまでやってきてしまいました。
ベッドに腰をかけているツェールが、こちらをニコニコしながら見ている。
俺の貞操の危機が・・・
いや、正確には俺のパンツの危機が!!
だったら、むしろパンツを履かなければ!?
いやいや、俺のパンツを守るためにパンツを履かないとか・・・
うん、意味がわからん。
・・・・・
パンツ、パンツと頭の中で連呼している自分に、なんだか泣けてきた・・・
もちろん悩みの種はそれだけではない。
パーティが4人になったとは言え職業が・・・
ニートにアホウ使い、ニートのカノジョーと盗賊・・・
・・・
・・・・・・
このメンバーでどうすれっていうんだ!!
唯一まともそうなのが盗賊なのに、スティール(俺のパンツに)しか使えない変態ときたもんだ・・・
戦闘能力があるのはジョーだけかぁ・・・
いや、諦めるのはまだ早い!
もしかしたら、誰か使えるスキルを持っているかもしれない!
まずは自分のスキルから確認していく。
パッシブスキル:アイギス
パッシブスキルって言うと常時スキルって事だよね?
アイギスも気になるけど、とりあえず続きを見てみる事にする。
アクティブスキル:自堕落・ヒモ・見栄・魔法想像・召喚魔法
・・・・・
ちょっとおおおお!
これってニートって言うか、完全な駄目人間じゃん!!
どういう事!?
どういう事なのさ!?
いや、もしかしたら何かすごいスキルなのかもしれない。
ギルドのお姉さんがカードの説明をしていた時に、スキルをタッチすると詳細がわかると言っていたので、試しに一つずつ触ってみる。
自堕落:だらしない生活には天下一品!
ヒモ:一生ついて行きます!お姉さま!
見栄:ほら俺ってぇ、人と同じ事はしたくないし~?
・・・・・
これってスキルなの!?
スキルなの!?
どう考えても、全然スキルじゃないじゃん!!
何!?
お姉さまとか、したくないし~とか!
意味わからないんだけど!!
いや、でも考えてみれば創造魔法があるし、まだ望みはある!
ん?
あれ?
何か違うような・・・
もう一度見返してみると。
“魔法想像”
え?
創造じゃなくて想像!?
しかも想像魔法じゃなくて魔法想像ってことは・・・?
魔法想像:魔法を想像する事が出来ます。
・・・
魔法って言ったらやっぱり手から炎かな?ああ、空間転移なんかもできたら楽だよね~!やっぱり異世界なんだし空を飛ぶ魔法を覚えたいよね~!
・・・
・・・・・・
って、アホかあああああああああ!!!
これスキル必要ないじゃん!
スキル無くても普通に出来る事だよね!?
他には!?
他にはないのか!?
アクティブスキル:隠密・潜伏
あったああああああああ!!
よかったよおおおおおお!!
唯一まともそうなスキルだ!
早速説明を見てみよう。
隠密:貴方は物音を立てて生きてはいけません(消音)
潜伏:貴方は一生誰にも見つからずひっそりと生きていればいいのです(気配を消す)
・・・・・
俺、ディスられてる!?
俺にスキルを与えてくれた人は、なんか俺に恨みでもあるの!?
ねえ、泣いてもいいですか・・・?
とりあえず、使えそうなスキルがあっただけましと思う事にしよう・・・
しかもアクティブスキルとか言いながら、全然アクティブじゃないし・・・
むしろどっちかと言うと全部、静じゃないか・・・
最後に後回しにしていたアイギスの確認だけしておこう・・・
アイギス:いかなる攻撃も受け付けない防御膜。ただし、タンスの角に足の小指をぶつけた時は除く。
これはアホ女神が俺に付けた能力だな?
つーか、タンスの角に足の小指をぶつけた時って、地味にきついよね!?
そこもちゃんと保護してよ!!
ねえ、こんなのってありですか!?
俺はなんだか悲しくなり涙目になりながら今度はディアのを確認しようと思い、見せたくないと嫌がって抵抗するディアのカードをひったくる。
パッシブスキル:聞き間違い・おっちょこちょい・残念なお胸と頭・(・・・)アホ
「私残念じゃないもん!!」
ぷーっ!
俺は堪えきれずに噴出してしまった。
パッシブスキルで残念なお胸と頭って。
スキルにまで組み込まれちゃってるよ!
しかもパッシブという事は、ディアの胸には未来が無いという悲しい現実。
そう思いながらディアの胸を横から眺める。
・・・
非情に残念!!
「ちょっと!何人の胸見て悲しそうな顔してるの!?ちゃんとあるんだから!あるんだからぁ!!」
そう言いながら、俺の手を取って自分の胸に当ててくるディア。
「え?これは背中ですか?」
「むきぃいいいいい!!」
ディアの急な行動に驚き、若干の柔らかい膨らみを感じた俺はドキドキしていたが、悟られないように誤魔化していた。
それに怒ったディアは、俺をポカポカ叩いてくるが知らん顔をしておく。
それにしても、(・・・)アホって、完全にスキルにまで呆れられているよな。
可哀相にと、思いつつもにやけてしまう。
他には・・・
アクティブスキル:神聖アホウ・召喚アホウ・アホウカリプス
なんかアホにちなんだものばっかりだな。
でも、どれも気になるものばかりではあるのは間違いない。
パッシブはそのままだろうし、アクティブスキルを一つずつ確認していく。
神聖アホウ:怪我の治療をする事が出来るが、その代わり一時的にアホにさせる。
召喚アホウ:アホ女神のアホな信者を大量に呼び寄せる
アホウカリプス:アホの全てが詰まった世界を作り出し対象を放り込む、世にも恐ろしいアホウ使い固有スキル
こわっ!
いろんな意味で恐すぎる!
ある意味最強、いや最恐なのではないのか?
精神的な意味で・・・
後はジョーとツェールだけど、ジョーは格闘技スキルがあるらしいし、ツェールはスティール以外にはどうせ踊りくらいだろうから別にいいや。
一応ナイフは使えるようだし。
なんというか、本当にちゃんと戦えるのはジョーしか居ないんだな・・・
とりあえずしばらくは、ギルドの採取依頼でも見つけてなんとかお金を稼ぐしかないか・・・
俺は隠密・潜伏があるから魔物に見つかる事も無いだろうし、見つかってもアイギスで守られているからいいけど、アホと変態は魔物に見つかると困るよなぁ。
・・・
ん?
別に何も困る事はないんじゃ?
むしろそのまま魔物のエサにしてしまえば・・・
・・・いや、さすがにそれは外道すぎる。
色々と考え込んでいると、いつの間にか目の前にいたツェールが目を血ばらせながら、手をワキワキさせていた。
俺はとっさに、そのワキワキさせている手を正面から受け止め握り締める。
「ふふっ、ツェールは何をしようとしているのかな?」
力比べをしているような格好になりながら、俺はわかりきっている事を冷静を装いながら問いかける。
「はあ、はあ、いいでしょ?もういいよね?」
「何がもういいんだよ!!」
これは、俺がツェールの手を話した瞬間に貞操が・・・
いや、パンツに危険が及んでしまう!
離すまいと握り締める手に、ツェールの柔らかく暖かい手の感触がある事に気づき、ドキドキしてしまう自分がいた。
くそっ!
相手は変態だと頭ではわかっていても、女性との接点が少なかったせいで簡単にドキドキしてしまう俺のヘタレさが憎い!!
それでも今は自分のパンツの為にも、この手を離すわけにはいかない。
しばらくはその状態が続いていたが、宿の食事が運ばれて部屋のドアをノックされたので、ツェールは諦めて手を離した。
少しだけ残念に思ったのは内緒だ。
この世界に来て初めてのまともな食事。
今まで食べてきたものとそんなに違いはなく、パンやシチューの様な物とサラダと何かの動物の肉を出してくれて、それなりに美味しかった。
ただ、あまり調味料などが普及していないのか、ほとんどが薄味だったのが残念だ。
食事を終えると、風呂というか沐浴という意味合いが強いようだけど、体を洗う場所もあるらしい。
だけど、流石に今日は精神的に疲れたので、もう寝る事にする。
一応男女同じ部屋とはいえ、ベッドは両端に2つずつ別れているので、入り口から向かって右側を俺達男が、左側を女性人が使う事にした。
しかし、ドキドキして落ち着かない。
こんなのは初めての経験だ。
なんせ身内以外の女性と、寝食を共にした経験なんて一度もない。
・・・から、だと思いたい!
決して身の危険を感じての事では無いはず。
いや、そんな事ばかり気にしていては駄目だ。
いくら変態と言えども、寝込みを襲うなんて事はしないだろう。
止め止め、明日からお金を稼ぐ為に依頼をこなさないといけないんだ。
しっかり寝て、体を休ませておかないと。
そう考えているうちに、俺の意識は深く落ちていった。
翌朝、一騒動あったのは言うまでもない・・・
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