第3話 冒険者登録しました!でも・・・こんなのってあり!?
しばらく歩き続け、ようやくアウラリオの門が見えてきた。
その門を通る人達を見ていると、門に立っている兵士に何かを見せて話している。
あれ?
もしかして身分証とか必要なの?
と、不安に思っていると。
「ブラザー、身分証が無いのか?でも大丈夫だぜ!犯罪歴を見抜く魔道具があるから、それで問題なければ通してくれるぜ!」
「そうなんだ、よかった」
犯罪をしていなくても、街に入ってから企もうとしている奴はどうするんだろう?と疑問に思ったが、通してくれるのであればどうでもいいやと考えるのを止めた。
そして門の所に来ると、俺達に兵士が身分を見せるように言ってきたが、無くしてしまったというと俺とディアは別室へ連れて行かれた。
ジョーは持っている様なので、外で待っているぜ!とか言っていた。
それからジョーの言っていた通り、何だかよくわからない魔道具を使って俺とディアを見た後、いくつか質問された。
特に差し障りの無い程度で答えておいたが、特に問題はなかったようですんなり通してくれた。
その時に、冒険者ギルドがあるかどうかと、宿屋の場所を聞いておいた。
宿屋は入ってすぐの赤い屋根だと教えてくれた。
冒険者ギルドもあるそうで、ちゃんと場所も教えてくれた。
街の中に入ると、明らかに木造造りだとわかるような家が立ち並んでいる。
まずは宿屋に行こうと思った時に、重大な事を思い出した。
「そういえば、俺達が泊まれるだけの金を持ってないんじゃないか?」
そう、ディアが寄こした金は、この世界の金の価値を知らない俺ですら、宿に泊まるだけの金が無い事がわかる程度しかない。
どうしようか・・・と、悩んでいる所にジョーが話しかけて来た。
「ヘイ、ブラザー!宿賃くらいなら俺が出してやるぜ!」
おお!
天の助け!!
隣にいる本物以上に、拝みたくなるような存在だ!
隣の本物はポンコツ以外何者でもない。
「ねえ、ちょっと!何か考えなかった?不快を感じたんですけど!」
「気のせいだろ?」
俺はディアの事は軽くながしておいた。
今回はジョーに甘える事にして、宿屋へと向かう。
宿屋に入ると、女将さんが出迎えてくれた。
3人だと、二人部屋を二部屋か4人部屋を一部屋のどちらからしいが、4人部屋の方が少しだけ安かったのでそちらを選んだ。
ディアも一緒の部屋という事になるが、こんなアホ女神と何か起こるわけないし。
部屋の鍵を受け取り、渡された鍵の番号が書いてある部屋に入る。
4人部屋なだけあって、そこそこ広い。
ベッドが二つずつ両端においてあり、中央には丸テーブルと4脚の椅子が備え付けてあった。
とりあえず荷物を置いて、ベッドにダイブする。
さすがに(特に精神的に)疲れたからゆっくりしたかった。
ただ、宿に泊まるにも金が掛かるし食費も必要だ。
身分証も作らないといけないと考えると、早めに冒険者ギルドに行かないといけない。
というのも金に関してはもちろんだが、冒険者登録して冒険者カードを作ると、それが身分証の代わりにもなるらしいからだ。
そこで疲れている体を起こし、冒険者ギルドへと向かう事にした。
もちろんディアにも稼いでもらわないといけないし、ジョーも意外な事に冒険者ではないらしいので一緒に登録する運びとなった。
宿を出た俺達は、先程の兵士に教えてもらった場所を目指す。
その場所へと到着し家の外観を見ると、ギルドというよりは西部劇に出てくる酒場の様な建物だった。
中に入ると、やはり酒場も兼ねているようで真昼間にも関わらず大勢の人が飲んだくれて騒いでいた。
奥にギルドのカウンターがあるようなので、彼らを刺激しないようにそそくさとカウンターまで移動する。
「冒険者ギルドへようこそ!本日はどのようなご用件ですか?」
受付に居た女性が、素敵な笑顔を見せながら尋ねてくる。
「あの、すみません。冒険者登録をしたいんですけど、ここでいいんですか?」
「あ、はい!冒険者登録ですね?こちらで承りますよ」
なんか優しくてまともそうな女性でよかった・・・
「ではこちらに必要事項の記入をお願い致します」
そう言って渡された紙には、見たこともない文字が書かれていたのだが、なぜだか読めるようだ。
書く時はどうしたらいいのだろうかと思い、ディアにどうするんだ?と目で合図を送った。
するとディア曰く、転生した者は自動的に文字に対応できるようになっているらしい。
なので日本語で書いても、こちらの人にはこちらの文字で書いているように見えるらしい。
それを聞いた俺は、安心して必要事項を書いていった。
まずは名前・年齢・身長・体重・・・
身長と体重は、何かの事態が起こり冒険者召集した時に支給される防具などを、速やかに渡せるようにするためだそうだ。
カキカキ・・・立花守、16歳、171cm、56kgっと・・・
そして得意武器、希望職種・・・
冒険者登録し冒険者カードが発行される時には、その人の現在持っている能力により職業が写しだされるのだそうだが、気に入らなければ別の職種に転職する事も出来るそうだ。
ただその場合は、正規の手続きを踏まえた上で、その職種のギルドマスターの審査を受けないといけないらしいが。
これを記入するのは、その時の参考にする為なのだとか。
う~ん、得意武器は無し、職種は・・・
やっぱり異世界に来たのだから剣も魔法も使ってみたいよね?
受付のお姉さんが見せてくれた職業欄の中に、なりたいものがあったな。
・・・魔法剣士っと。
あとは、性癖だな・・・
って、はあ!?
何だこれ!?
冒険者に必要なのか!?必要なのか!?
と頭を抱えていると。
「あ、それは私の個人的趣味により付け足しています。なので他はどうでもいいですけど、それだけは必須ですよ!!」
・・・
まともそうな女性だと思ったのに!思ったのに!!
俺が恨みがましい目で受付の女性を見ていると。
「あ、あははっ、冗談に決まっているじゃないですかぁ!やだなぁ真に受けちゃってぇ。それはあれですよ、初めて来る方の緊張を解く為ですよ。まあ、あわよくば・・・」
もう俺には、この女性に感じた最初の優しそうでまともなイメージは全くない。
「こ、こほん。では必要な所はかけましたね?では、お預かりします。冒険者カードが出来るまで時間が掛かりますので、その間にギルドの説明をさせていただきますね」
いつの間にか書き終えていたディアとジョーも受付嬢に紙を渡す。
これから貰う冒険者カードには、表に名前・年齢・LV・職業・称号が、裏に使えるスキルが載っているそうだ。
称号は、何かの拍子で勝手に付帯する場合と、ギルドが認めたことにより付けられる場合の2種類があるそうだ。
あと、スキルは使えるようになる度に、自動的に増えていくのだそうだ。
ランクは基本的には10段階らしく、スタートがJランクの最下位で最上位がAランクだそうだ。
とはいえ、H~Jはそこまで差はないそうなので、普通に依頼をこなしているとすぐに上がれるらしい。
というよりも、いきなり冒険者になって魔物なんかと戦って死ぬ事がないように、ギルド関係の人が身分を隠して出した依頼しか受ける事が出来ない様にして、冒険者としてふさわしいかどうかを見定めているのだそうだ。
受付嬢がそこまで話していいのだろうかと疑問に思ったが、先程の冗談の代わりだそうだ。
そんな事くらいで、地に落ちた貴方の評価は上がりませんけどねぇ。
そして、それをクリアする事でGランクに上がれるとの事。
Gランクからは討伐依頼を受ける事も出来るようだ。
あとランクは10段階と言ったが、それは通常はという事であり、特例としてSランク・SSランクも存在するらしい。
よほどじゃなければ、Aより上になる事は無いそうだが。
依頼にない魔物を討伐した時も、素材をギルドに持って来れば換金してくれるそうだ。
そうそうLVに関しては、何かしらを殺したときに上がるそうだ。
それは魔物であっても人間であっても変わらないとの事。
ただ、罪も無い人間を殺した場合、称号欄に殺人と載るのですぐにわかるそうだ。
それが勝手に付く称号の例と言っていた。
最後に、これ大事!と念を押してきた。
それは、依頼の最中で万が一に死亡するような事があっても、ギルドは責任を持ちません!だった。
ま、それはそうですよねぇ、と考えていると、冒険者カードが出来上がったようだ。
名前と年齢だけは書かれているカードに、血を1滴垂らす事で完了し職業が浮かび上がるらしい。
痛そうだなぁと思いながらも、針で指を差して血をカードに垂らす。
するとカードが光りだし、収まった頃には職業欄に文字が浮かび上がってきた。
さて、俺は元々何の職業に適正があったのかな?
とワクワクしていたのだが、それを見た俺は愕然として微動だに出来なかった。
「職業はなんでしたか?」
その俺の姿を見ていた受付嬢が、俺のカードを覗きこんできた。
「・・・え!?こ、これは・・!!」
受付嬢までもが驚愕に固まってしまった。
「ま、まさか・・・貴方があの伝説の・・・」
へっ?伝説?
いや、伝説になるような職業じゃないでしょ・・・
「伝説の職業、ニートですかああああ!!!」
ああ、止めてえええええ!!
大声で叫ばないでええええ!
恥ずかしすぎる・・・
「はっ?ニートだって!?」
「何だと!?ニートだと!?」
「ニートってあの・・・」
受付嬢の大声に、先程まで賑やかに飲んでいた酒場の連中が一瞬かたまり、その後ざわざわ騒ぎだした。
「恥ずかしいから止めて!叫ばないで!」
俺は未だに叫んでいる受付嬢に止めるように言ったのだが。
「何を言っているんですか!ニートですよ!ニート!」
ああ・・・
連呼しないで~・・・
「ニートって言ったら、至上かつて無いほどの最強最悪と言わしめた邪龍を、一撃で屠った語り継がれている伝説のニートですよ!?」
・・・はあ!?
ニートが?
どゆこと?
「ああ、そういえば過去に、この世界に転生させた人の中にニートとして送った人がいたねぇ。確かその人は、ニート生活を満喫しようとしていたらしいんだけど、邪龍が街を襲ってきたせいで満喫ニートライフを邪魔されたとか何とか言って怒り狂い、邪龍に立ち向かったらしいんだよね。でもニートだから貧弱で、すぐに食べられちゃったらしいんだけど、その人は風呂に入るのもめんどくさいとかで1ヶ月ほど入らずに居たみたいだから、食べた邪龍はあまりの臭さに絶命したとかしなかったとか」
ディアが小声でボソボソと俺に教えてくれた。
チラッと風の噂で耳にしたなぁとか呟いている。
要は、彼らの言うニートと俺の思っているニートには認識の違いがあるそうだ。
ただそんな昔からニートって言葉があったのか?と思ったのだが、転生には時系列はあんまり関係ないらしい。
もう一度、冒険者カードを確認する。
職業:ニート(永久職)
なんですとおおおおおおお!!
もしかして、もしかしてだけど、他の職業にはなれないという事かああああ!?
しかも1年しか生きられないのに永久職だなんて、ひどすぎるうううう!!
「「「「ニート!ニート!ニート!」」」」
もう止めてええええええ!!
酒場では何か勝手に盛り上がってるし、受付嬢は受付嬢で「ぜひ、性癖欄を!性癖欄を!」とか訳のわからない事言ってやがるし・・・
もう、死にたいです・・・
1年待たずに死にたいです・・・
「ちょっと~!これはどういう事!?」
俺がへこんでいると、今度はディアが騒ぎ出した。
「ねえ、なんで!?何でなの~!?」
と冒険者カードを俺の顔に押し付けてくる。
何事かと、カードをひったくって見てみると。
職業:アホウ使い(固定)
と書いてあった。
ぶっ!
俺は思わず噴出してしまう。
アホとは言え、女神の端くれだしプリーストか何かだろうと思いきや、プリーストどころか魔法使いでも無く、アホウ使いとは。
さすが俺の予想の斜めを行く女だ!
アルファベットのMを抜くとは、さすがはアホの極み!
「ええ~!?貴方まで、あの伝説のアホウ使いですか!?」
こっちもですか!?
「人類史上最高の権力者、カイザー皇帝に右に出る者は居ないとまで言わしめたほどの職業じゃないですか!」
皇帝皇帝とは、これいかに・・・
いや、カイザーが皇帝を意味する言葉なのは置いといて、アホウ使いも伝説になっているのか・・・
てか昔にもいたんだな。
まあ、これは聞かなくてもなんとなくわかるしいいや。
ディアは「こんなの私のイメージじゃな~い!」とか騒ぎ、受付嬢は「ぜひ、性癖を!性癖を!」と騒ぎたて、酒場では「「「「アホウ使い!アホウ使い!アホウ使い!」」」」と騒いでいる始末。
はぁっと溜息を吐きつつ、まさかジョーまでも!?と考えカードを見せてもらった。
職業:ニートのカノジョー
まてええええええええええええいい!!
いやだ!
これはなんかいやだ!
俺の知っている意味とは違うのかも知れないが、男として何かいやだ!
ジョーはこっちを見て歯を輝かせながらサムズアップし、次々とポージングを決めていた。
もういやだあああああああああああ!!
死にたい!
死にたいよ~~!!
俺は膝を付いて愕然としていた。
気づけばギルド内はカオス状態と化していた。
こんなのってあり!?
お読み頂きありがとうございます。