五十三
二話アップします。
朝、目が覚めたときには、弥勒はすでにいなかった。
茅野の商売の手伝いをしているのだろう。
鈴こそ、なるべく早く、伝手をお願いしなければと思うが、茅野の屋敷にいられるのはいつまでなのか、ここから先どうするのか、この初めての土地でどうしたらよいか、鈴にはどれも見当もつかない。
焦りばかりが先立つが、なにせ西国人の下女が慌ただしく世話をしてくれるのと、また、早口で陽気にまくしたてるので、ただ座っているだけでも何故かめまぐるしい。
昼になり、弥勒は南蛮の医学を学ぶ僧侶を連れてきた。
疲労の残る鈴の様子を診てもらうためと、脚の診察のためだった。
僧侶は、古傷を見て、少し触りますよ、と声をかけ、ふくらはぎの筋肉を触診した。
残念ながら、切れた腱が元通りにはならないこと、だが元のように歩くことはできずとも、杖にすがってなら立つことも、少しなら歩くことも可能だといわれた。
鈴は今までに鍛錬を重ね、伝いながら立ち上がること、少しなら移動できることを告げると、良く頑張られましたね、と静かにけれども賞賛の意を込めて僧侶は微笑んだ。
明るい青年僧侶で、和やかに話をしながら薬湯の作り方を教えてくれた。
「妹さんですか?」
との言葉に、弥勒は間髪入れず、
「妻です。お世話になりました。」
と頭を下げた。
僧侶は、これは失礼したと、笑って帰って行った。
隣では、茅野が驚いた顔をして弥勒を凝視していた。
そこで、僧侶が帰るとすぐに、弥勒の膝をバシバシとたたきながらまくしたてた。
「なんや、弥勒!
つれてきた女子はん、まさか嫁さんとは知らへんかったわ。
はよ言うてぇや。
ままま、なんにしても、よかったなぁ。
これからはなーんも心配することありまへん。
ここでゆっくり商いを覚えて、二人で西国で生きて行ったらよろし。
いやいや、これからやや子にも恵まれるやろから、どんどん賑やかになります。
いやぁっ、それやったら、孫やな。
あたしにとって、弥勒は息子のようなもんやさかい、あんたは娘で、やや子ができたら、そらもう、孫ですわ。
あかん、考えただけで、舞い上がってまうわ。」
下女と同じように、話しているは言葉は大量にもかかわらず鈴に聞き取れる言葉が少ない。
ただただ、この高速話術に呆気にとられるのみである。
「弥勒、気張りや!」
という、茅野のキメの一言に弥勒は顔を真っ赤にして、ボソボソと「よろし頼みます」と西の言葉で返した。




