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五十

弥勒視点、に、してみました。


改編前に読まれた方ごめんなさい。

「明日には、西国の端に入るはずです。」


今日は近くの山で野宿にしよう。


自然の洞窟には、様々な獣が巣食っているものだが、火を起こして、大きな音を立てると小さな動物、狸の類は出て行った。


良い季節と言えども、夜間は冷える。

今夜はとくに、湿った空気も手伝って、かなりの冷え込みが予想される。


いつもはお鈴様のそばに陣取り、風を防ぎながら眠るのだが、今日は膝に抱きあげて自分にもたれさせた。


――この方があたたかいでしょう?


と照れ隠しに言った。


お互いの体温で暖を取りたいのは事実だが、ただ単に、こうしたかった。



自分にもたれてきたと思ったら胸を押さえはじめた。


「お鈴様? お具合でも??」


驚いて覗きこむと、初めての洞窟が怖いのだろうか、ぎゅっと小袖にしがみついてきた。


「・・・こうしていて。」


「わかりました」



お鈴様を抱き込み、その幸せと、聞こえてしまうのではないかと思うほどの動悸を持て余しながら、少しでも風が当たらないようにと気をつけて、眠りにつくのを待った。



ーーー


ようやく、眠りについたのか、すうすうと規則正しい呼吸が聞こえてきた。


起こしてしまわないように力を緩めて、焚き火に枝を足しながら、これからどうするかをあれこれと考えていた。



西国の茅野の店に行けば、しばらくはかくまってもらえるだろう。


その後はどうしようか。


そのまま、商人として生きていくのも一つだ。


幸いにして、あの界隈は商人だらけで、活気もあり、物や人の出入りが激しいため、よそ者を簡単に受け入れてくれる。出ていくもまたしかりだ。


もしかしたら、茅野が仕事をくれるかもしれないし、他の商人が、また使ってくれるかもしれない。


では、お鈴様との関係をどうするか。


このまま主従としては、周りも疑問を持ち、いつかその腹を探りに来るものが出てくるかもしれない。もしも国許と縁のある者だったら、事だ。


では兄妹ではどうか。


それも一つの手だが、いずれ、いらぬお節介を押し付けてくる者があらわれるだろう。


夫婦、が一番自然で、わかりやすく、受け入れられやすいだろうとは思う。


佐渡川様からも許しを得ている。実は堀川様からも養子縁組を打診されたこともあった。


あのまま、何事も起こらない日々が続いていたら、あるいはそんな未来もあったかもしれない。


だが、お鈴様の気持ちはどうだろうか。


そのようなこと、論外としているのではないのだろうか。


では、夫婦のふりをするということで、それはあくまでも外向きの体裁で、本当には今まで通りとすれば了承してくれるだろうか。


また、焚火に小枝を放る。


ぱちぱちと音が弾む。


思いはゆらゆらと揺れる炎のように、熱く、だが、定まらずに、燻っている。



ーーー




夜が明け始めた。



時々枝の爆ぜる音で目を覚まし、その都度火を絶やさぬように枝を足してきたが、夜明け近くに寝入ってしまったらしい。


光が徐々に強くなっていく外を見た。


朝の山は、木や葉、土と水のにおいで空気が濃い。


このにおいが懐かしく、たまらなく好きなのだ。





「弥勒が行きたいところに行くと良い。私は待っている」



用を足すために、近くの茂みに連れて行くとお鈴様が言った。



では、お言葉に甘えて、と、しばらくそのあたりを散策しながら、湧き水のある場所を探り当てた。


そうして、水を汲み、顔を洗い、手ぬぐいをゆすぎ、また元の場所に戻った。


お鈴様ははじめの茂みから少し離れた小ぶりの木にもたれて弥勒を待っていた。


「お待たせしました」


弥勒が冷たい水に浸した手ぬぐいを渡すと、それで顔を拭い、しばらくその冷たさを楽しんでいるようだ。


そのまま抱き上げて洞窟にもどった。



ありがとう、と、手ぬぐいを返された。


最近は、会話が増えてきている。


どんな会話でも嬉しい。

食べることも話すこともまともにできなかった日々を思えば、小さな呟きも、ちょっとだけ零れ落ちた笑みでも、どれもが嬉しいことなのだ。


ずっと囚われていた『死』が遠ざかるように。

こうして少しずつでいいから生きることを諦めないように。

あの強い目で、また、強く生きられるように。



少しでも役に立ちたい。





火の始末をして出発の準備をしていると、お鈴様が言った。


「弥勒、提案がある。


この先私から離れるつもりがないというならば、ひとつ、私と夫婦のふりをしてもらえないだろうか?」




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