四十六
鞘から身を抜き、その鋭さ、その妖しくも死出の旅へと誘ってくれる光を、確認するように検分し、また鞘へと戻した。
閉められた板戸の合わせ目がほんの少し開いているが、その隙間を逃さず、夕日が差し込んできていた。
もうすぐ夜の闇があたりを包むだろう。
そうしたら見張りは交代だ。
夜がふけるまえに、女が床を述べに来る。
その者がいなくなれば…
鈴は夕日がしつこく目に入ってくるのも構わずに、西の方角をぼんやりとみた。
ーー極楽浄土は、西にあるんだって。
ーー人は死んだら、そこへ行けるんだって。
いつか、そんな話を聞いた。
ーー西の、どのあたりなのだろうか。
ーーここより西の、あの強国があるあたりよりまだ西なのだろうか。
ーー弥勒は西国へ行ったことがあると言っていたが、南蛮物が入ってくる海の向こうなのだろうか。
ーー極楽浄土とは、どんな所なのだろう。
そこは痛いことや、怖いことがないとか。
ーーならばそこでは私のこの足も治るのだろうか。
ーーそうしたら、走ったり、馬に乗ったり、川に入ってみたい。
ーー自らの足で歩き、走り、自らが起こした風を体で感じたい。
ーー御仏という、慈悲深い尊い方がいて、皆が守ってもらえるのだって。
ーーならばその方は、なぜこの世に来て民を守ってくれないのだろうか。
この苦しみからこそ助けてもらえたらどれほど人々は喜ぶだろう。
ーーこの世のことを、御仏とやらいう方は極楽浄土から眺めているのだろうか。
そして、いかな慈悲深い御仏も戦の世を見て、そのあまりの酷さに目を覆ってしまっているのだろうか。
ーーならば、極楽浄土に行った暁には、直談判して、この世の争いや苦しみをなくしてもらえるよう頼もう。
ーーこの世で成せることが何もなかった私に、できることはもはやそのぐらいのものやもしれぬ。
ーーでも、と、鈴は思い返す。
ーーこうして思えば、成人したら親の決めた相手に嫁に出され、家のために働き、子をもうけ、その子どもを一人前に育て上げる、そんな普通の女子とはちがい、まるで男子のようにお家のため、国のために身を捧げ、命のやり取りをし、いままた、国と国との間につっかえ棒のような役割ができたのは、何をかを成し遂げたとも言えるのかもしれない。
鈴は目を閉じた。
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夜がふけた。
静かな部屋の中、鈴はじっと闇を見つめる。
もう心は決まっている。
だから、あとは、手順をまちがえないように丁寧に事を運ばなければ。




