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四十一

家老たちが会議を終え、ぞろぞろと広間を出て行った。


「堀川殿、下がらぬのか?」という声に曖昧に返事をしながら、堀川はその場にひとり残っていた。


長く、頭の痛い会議にどっと疲れを感じながらも、日本地図を前に、扇で床をコンコンとたたきながら、考え込んでいた。




東西南北で、どの方角が危ないかと聞かれたら、西と答えるであろう。

西の強国は自国はもちろん、どんどんと領土を広げ、都を事実上制圧し、その勢いで行けばまもなく日本の西半分を手にするだろう。


だが、東も南も恐ろしい強大な力を持つ国である。



当方は小国。

うまく立ち回らなければ国の存続は風前の灯のようなものだ。





東は、かつての隣の大国と並び立つ、由緒あるお家柄に加えて、現当主は頭脳明晰、知略に長け、ひとたび軍勢が動き出したら草一本残らないほどの力を持っている。


北は、東と同じような恐ろしい国ではあるが、隣の大国との度重なる戦を振り返ると、どちらかと言えば防戦であり侵略を目的とはしていない。ゆえに、この獅子を起こさなければ特に問題はないと言える。

だがけっして侮れない。


南は西と連合しているというから、合わせれば強大な領土と力を有する。

だが、この南については、どう動いてくるかが予測することができない。まるで闇夜にまぎれてひたひたと近づいてくるような、地中をじわりじわりと掘り進めて進行してくるような薄気味悪さである。

そして軍略は粘り強く、そして容赦がない。



―――



その南の国が、今まさに鈴の国許を攻めているとの知らせが入り、堀川は当主に援軍を送るべきか、送るならばどの機にすべきかを進言するため一心に悩んでいるのである。


下手に動けば、南ならず西からも軍勢が押し寄せて、戦となることは間違いない。


ここが思案のしどころである。




鈴の国許は、東の国との同盟を要請しようと使者を立ていた。


東の国は、取るに足らぬ小国の申し出にのらりくらりと返事をしている。


察するところ、いざとなれば同盟を結べばよいし、さらにいざとなれば攻め滅ぼしてしまえばよいと考えているのであろう。


佐渡川はそんな東の国との交渉に強く反対していた。


それに、強大となった西の強国が東を見据えて只今は地固めをしているのが分かるだけに、今、手を結ぶべきは東ではなく西であると直談判していた。


だが、佐渡川は反対勢力に捕えられた。


その後すぐ、南からの侵攻である。


おそらく潜入していた間者により、この小国の結束の緩みと東への道筋に置いての地の利を知り、いち早く動き出したのであろう。


敵う相手ではないのは明白であるため、早いうちに手をうち、限りなく五分に近い状況で和議に持ち込まなければならない。


佐渡川は捕えられた先で和議への道を探り、その策を手の者に託した。


和議が成るかどうかは賭けであるが、なにもしないでこのままいけば国は攻め滅ぼされてしまう。


もしかしたらこの機に乗じて、東の国からも侵攻があるやもしれない。


この辺りで大戦へと持ち込まれたら近隣の国はただでは済まないだろう。





なにか引っかかるような心持ちだが、堀川は地図から目を離した。




――まずは、鈴殿にこの話をして、人質としての処遇が今、危ういという事を暗に伝えなければ。



佐渡川が死ぬようなことがあれば、また、同盟を結んでいるのにもかかわらず、こちら国と連動できないならば、人質である鈴は見せしめの為に殺されることになるだろう。



――いや、佐渡川殿は、そして鈴殿は、もしかしたら・・・


堀川は鈴の部屋へ行こうと立ち上がりかけたが、また座りなおした。


――こうなると予測していたのではないか?


南はすなわち西と連動している。

ならば、南からの侵攻に、父佐渡川は交渉して和議に持ち込むであろう。

当然、東は黙っていないだろうから、時同じくして侵攻か、もしくは手を結ぶべく同盟の話を持ち込むであろう。

父ならば、この東ともうまく交渉するだろうが、そうなったときにはこの国との同盟が危ぶまれる。

そんなとき、人質を見せしめに殺すという声が上がるに違いない。

となれば、人質がいる分、佐渡川の動きが封じられて、東か西を即座に選ばなければならないだろう。

どちらを選ぶかはその時の情勢によるが、国にとって良い方を選べるかどうかはわからない。


その情勢たるや、今は佐渡川が捕えられ、東との交渉を進めているが難航しているところ、南から攻められている。

東と手を結ばず、良い距離を保ったまま、西とつなぎを付けようという当方とは連動できない。

ならば、同盟は破棄となり、人質を殺すことになるだろう。

その後は我が国は南と動きを共にし、鈴殿の国許を攻める一手となる日も近いのではないか。

佐渡川はおそらくそのまま死ぬことになるだろうから、いわば無駄死にである。


いや、まて。

無駄死になのか?

あの軍師が考える未来とはこのように安易なものなのか?


もしも儂だったら、、、



「広次!! 誰か、広次を呼べ!!」



堀川は慌てて立ち上がり、周りを見渡した。


息子の広次が足音も荒く参上したときには堀川の顔色は青く、また冷や汗をかいていた。




「父上、お呼びに・・・」


「いそぎ、屋敷に帰れ! 

鈴殿の無事を確かめるのだ!」


「鈴殿でございますか」


「ええい、急げと言うに!! 

早う走らぬか! 

弥勒を探せ。

弥勒に鈴殿を守らせよ!!」


「かしこまりました!」


広次はわけもわからないまま走り出した。


鈴殿の無事、とはどういうことか、父堀川が何を焦っているのかわからない。


だが、とにかく走った。


自分の側仕えにも伝令を出し、とにかく急いだ。



――間に合ってくれ・・・


堀川は地図を握りしめながら、祈った。


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