四
鈴は英雄である。
幼い時分、鈴はこの国の姫とは乳兄弟で、遊び相手で、影武者であった。
姫は殿様の一粒種である。
それはそれは大切にされていた。
10になったころか、国境の土地を荒らす者達に姫と鈴が攫われた。
先代の三回忌で、出入りの者が雑多になり、油断が生じたのかもしれない。
あっさりと屋敷の奥へと侵入を許してしまった。
法事が終わってから、手薄になっていた奥の女中が殺され、姫がいないと大騒ぎになった。
平和も、時として仇となるのだ。
さて、攫ってきたはいいが、二人のうちどちらが本物の姫か、見当がつかなかった。
日頃から、背格好がよく似ているのに加え、同じ着物、同じ髪型、同じ物腰のため、判断がつかない。
本物はどちらかと何度も問うた。
その度に二人は黙っていた。
閉じ込められた納戸で二人だけになると、「助けがきっと来ます。鈴がきっとお守りしますから。」と、姫を励ましながら、鈴は不安な顔を必死で隠した。
焦れた輩が、手を上げ、二人を引っ叩いたこともあった。
だが、二人は幼くとも武士の娘。
泣きわめくことなく黙って震えていた。
聞こえてきたこの度の狼藉は、この者たちが主張する土地に加え、その向こうの山里までを我がものとしたい故の、交渉の道具とするために、姫を人質にしたということだった。
山里は、このあたりよりも日当たり良く土地が肥えている。
小川は清涼で、野草も豊富だ。
だが、ここは国境。
決して渡してはならない重要な土地なの
だ。
ーーー
姫がようやく眠った。
鈴の手をしっかとにぎり、寄り添っていた。
鈴は自らの腕を噛み、傷をつけた。
傷は3つめ。
そう、ここへ連れさらわれて、3日目の夜だった。




