三十二
お父さん、大変
大国に勝利した西の強国がそのまま北上してこの国に戦を仕掛けてくるに違いないと、まことしやかな噂が駆け巡る中、佐渡川は悩んでいた。
此度の長野の一件、我が国への侵略が阻止されたことで同盟国に対し借りができた。
なにせ、此方は一兵も出さず、ただ情報を操り、西国での流通に細工をしただけである。
強いて言うならば、鈴の存在が功を奏し、布石の役割を担ったことぐらいであろうか。
それでも、此方にとっては大きな借りなのである。
そこでだ。
堀川からの使者によると、弥勒を養子に迎え入れ、鈴と娶せたいというのだ。
この話にさすがの佐渡川も言葉が出なかった。
鈴さえ良いと言えば、いずれはそうしてもよいと思うほどに弥勒のことを認めていた佐渡川は、まさか人質先で、他国の、身内でもなんでもない相手からの差し出口のような申し出に納得がいかない。
そして、そうなった場合、弥勒は堀川の息子となり、家臣となるわけだが、今まで弥勒を鈴の足となり護衛しろと命じ、最近は草の者よろしく使っていたため、こちらの手の内を知っている男をそうやすやすと渡していいものか、悩んでいるのである。
そう様々な言い訳をしながらも、そろそろ鈴を返して頂きたいと申し入れられない状況で、佐渡川にかわって堀川が父親の如き顔をして美味いところを掻っ攫おうとしているそのやり口が一番気に入らない。
佐渡川は本日何度目かわからないため息を深々とついた。
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