二十七
だいぶ更新が遅れました。。。
だんだんと夜の闇が迫り、部屋の中も暗くなってきた。
あの女が明かりを持ってやってきた。
地図に道を書き入れるよう、筆と硯も持参していた。
鈴は黙って受け取ると、水を所望した。
落ち着いた気持ちで食事や水を摂ることができない。
1人、少し落ち着きたかった。
女が板戸を閉めて出ていくと、鈴はごろりと横になった。
どうするか決めかねる。
お葉の様子が分からない以上、動きが取れない。
広次は上手く逃げおおせているのだろうか?
目を閉じると、あの幼かった在りし日の広次がまぶたに浮かんでは消える。
―――コマを回して見せてやろうか。
―――凧揚げをするから鈴殿に見せてやるぞ。
―――猫は姉上からの贈り物です。
いや、きっと無事であろう。
そして、うまく堀川とつなぎをとって、対策を取っているに違いない。
私などが心配してもしかたのないこと。
ならば、この状況をどうするかまずは考えねば・・・
鈴は寝ころんだまま天井を見上げた。
ぼんやりとした明かりでは、部屋全体を照らすことはできないが、頭の中を静かに整理するにはちょうど良い明るさであった。
その時、板戸が開いた。
あの女がずいっと部屋に入ると、鈴に無言で竹筒を渡した。
鈴の心臓が、ドクンと音を立てた。
椀ではなく、竹筒である。
また、竹筒は、よく冷やしてあり、吊り下げるための紐にはかわいらしい鈴が付けられていた。
・・・動揺を悟られてはならぬ。
鈴は何食わぬ顔で竹筒を受け取り、女が出ていくのを待った。
この竹筒は、忘れもしない、弥勒のものだ。
この鈴はお守り代わりにと、鈴本人が付けたものだから、見間違えるはずがない。
なぜここに、弥勒の竹筒があるのかはさっぱりわからないが、鈴の気持ちが部屋の暗さと相反して急に明るく力が湧いてきた。
お葉の無事をまずはたしかめよう。
地図は途中まで書いて、あとは、向こうの出方次第にすればよい。
もしもお葉の無事が確認できず、広次や堀川の安否もわからないならば、地図を燃やし、そのまま手打ちになったっていい。
もともと人質である。
場所が変わって、状況が変わってもなお人質である。
ならば、価値を見出さなければならない。
交渉が等価であると思わせなければならない。
弥勒の竹筒を袂に入れた。
弥勒がついている。
姿が見えなくとも、声が聞こえなくとも。
あの日、私の足になってくれると言ってくれた、恐ろしい悪夢から守り、その広く温かな背で心ごと温めてくれた弥勒を思い出し、鈴が思う「前」へと向けて踏み出した。




