二十四
鈴、ピンチ!
お目覚めですか、と、おゆきから声をかけられ、鈴の1日が始まる。
顔を洗う手水盥を運び込み、用を足しに付き添われ、身支度を整える。
広次の朝の鍛錬の声が聞こえてくると同時に、朝餉の支度が始まり、竃に火が入る。
あちこちで人の気配がし、日がだんだん昇るにつれて、賑やかになっていく。
それがここでの鈴の朝だった。
だが、今朝は違った。
最近めっきり冷え込むようになったせいか、夜明け前にうっすら目が覚めた。
まだまだ暗い時分、もう一眠りしてもいいかと思った、が、鈴は起き上がって近くにある小袖を肩にひっかけた。
静かな中に、人の気配がする。
馬のいななく声も聞こえた。
板戸の外で、誰かが話している。
鈴はすばやく小袖に手を通し、簡単に身支度を整えて、部屋の後方へといざった。
懐剣を手に、じっと気配を探る。
しばらくすると夜が明けて、あたりが段々明るくなってきた。
板戸の向こうに人の気配が近づいた。
「お目覚めですか」
と声がかけられた。
おゆきの声だが、あきらかにいつもの声色ではない。
返事をすると、板戸が開けられた。
そこにいたのは、お葉の夫孝通と、その兄貞弘の2人と、貞弘に羽交い締めで首元に短刀が突きつけられているおゆきだった。
「おゆきをお離しください。」
「おゆきは離せませんな。
あなたを連れて行かねばならんのでね。
ああ、あなたは私どもが運びますから、何も心配はいりませんよ。
今からわが屋敷に移っていただくこととなりましてな。」
「堀川殿とは昨夜お会いしたが、何も聞いておりませぬ」
「聡明さは命を縮めますぞ。
佐渡川殿の愛娘にして国の英雄、お鈴殿。
只今は人質とは名ばかりで、堀川の子供の師とも姉とも慕われる掛け替えのない存在。
お葉殿とともに、我らの陣中にて人質となっていただきます」
「では、私だけを連れ、おゆきをお離しください。
どのみち、私は歩けぬ身。逃げはしませぬ。」
おゆきは涙がぼろぼろとこぼれるままに、鈴を見ていた。
鈴が担ぎ上げられ外に出ると、何人かの下男と侍女、見張りの者などの切り殺された死体が転がっていた。
鈴が馬上に乗せられた瞬間、おゆきは貞弘に突き飛ばされ、つんのめって転んだところを貞弘の刀に切られ、ほどなくこと切れた。
止めることもできないほどの、あっという間の出来事だった。
鈴は呆然とその瞬間を見ていることしかできなかった。
馬が走り出した。
足がじくじくと痛みだした。
同じ馬に乗っている男は弥勒ではない。
お葉の夫だ。
だが、今は、その背中から感じる体温が弥勒を思いださせた。
足の痛みがひどくなってきた。
鈴の意識はすうっと遠くなって、気を失った。




