十四
会話だけです。
あちこちふわっと日本史を匂わせていますが、さてさて。
鈴は、1人戦う覚悟を決めました。
「私はお鈴様の足にございます。
故にお連れください。」
「弥勒は、私の足ではない」
「いいえ。お助けするお役をいただいております」
「役に立たない足などいらぬ」
「鈴、何故そのようなことを言い出したのだ?」
「父上様は、早く軍備を整えて、兵糧を蓄える策を立ててくださりませ」
「お鈴様。」
「くどい。
わからぬか?
私は歩く必要がない。
また逃げることも、助けを求めることない。
また人質はそのような素振りは一つも悟らせてはならない。
足など必要ないのだ。
ならば、弥勒の役割は何もない。
なんの役にも立たぬものを何故連れて行くのだ。」
「鈴。ならば、誰が鈴を助けるというのだ。」
「・・・父上様。
助けはいらぬと申しました。
それに、この同盟がまた和平をもたらしたとして、それがどれほど守られ、今のまま戦のない時がどれほど続くとお思いですか。」
「・・・」
「隣りの国は、すでにかの大国に忠誠を誓ったと聞きました。
事あるときはこちらより、かの国に味方し我が国などひとたまりもなく押しつぶされましょう。
ここより果ての国ではすでに海を渡ってきた南蛮人を招き、南蛮渡来の武器を手に入れ、戦は負け知らずだとか。
そんな国が勢いに乗り、攻めてきたら如何に戦うとおっしゃるのです」
「だからこそ、大国とつながりのある国と同盟を結ぶのだ」
「この同盟は、ほんのひと時の猶予にすぎませぬ。
ですがそのひと時を有効に使い、この国に生きる民を守り逃がす手はずを整えてほしいのです。」
「鈴」
「だから、弥勒はいらぬ。
私は時間稼ぎに力を尽くす。」
「お鈴様、ならば、事あるときにはすぐにお助けに参ります」
「ならぬ」
「いいえ。きっと助けに行きます」
「ならぬ」
「鈴。鈴の話は推論に過ぎない。そうなるとは限らない。
殿がきっと、手腕を発揮してくださるだろう。
小なりとはいえ、我が国は金銀を排出し、精鋭も揃っておる。案ずる事はない。」
「いいえ。お父上様はご用心を。
あらゆる事を想定して、兄上と策を立てるべきです」
「・・・わかった。」
「事が起きるとき。鈴はとっくに殺されているか、自害しております。
それゆえ、お構いなくと申し上げました。」
「・・・」
「弥勒はこの金を持ち、ここを出て、どこかよいところに落ち着き、百姓として生きて行くのだ。
・・・春を、連れて行けばよい」
「春?お前の侍女か?」
「お鈴様、何故お春様を連れて行かねばならぬのでしょうか」
「とにかく、弥勒は役立たず故、出て行け。今まで世話になったな。
ご苦労だった。」
「お鈴様!!」
「達者で。」