十三
鈴の父、佐渡川は悩んでいた。
小国なりに問題をたくさんかかえているが、今の一番頭の痛い問題は、隣の国との同盟が良好と言えなくなってきたことである。
時代の大きなうねりの中、生き残っていけるのかが危ぶまれる今、つながりというものの大切さを見直し、手を打っておかなければならない。
遠い国どおしでは、破竹の勢いで天下、天下と大騒ぎしている。
都を整備するというお題目は、都を制圧するという行動の隠れ蓑に過ぎない。
民百姓が安心して暮らせる戦のない世の中なんていうものは、まだまだ夢物語のように貴重な話なのである。
そんな中で国として今こそどう動くかが佐渡川の一番の悩みなのであるが、簡単な方法としては、同盟国との婚姻が手っ取り早い。
だが、我が国の殿様には姫一人しかいないため、その問題は極めて難儀な問題なのである。
そこで、養子をとり、その者を人質として送るという第二案が、今のところ妥当な手だと思うが、さて、誰を送るのがよいか。
佐渡川は悩む。
乱世を感じないほどのこの国においても、乱世の考えをもってすれば、実は、鈴が人質とするに一番妥当な人材なのである。
足が動かないのはさほど問題ではない。
いやむしろ勝手に逃げ出さないだけ歓迎される人材と言ってもよい。
さらに言えば、腹心の娘であるから、それなりに重要度が高い。
だが、佐渡川家では三女だ。
冷たいと思われるだろうが、同盟国との関係が悪化して戦になったとしても、鈴の重要度は格段に軽くなり、簡単に切り捨てることができる。
佐渡川が頭を痛めるのは、それを言い出したのが、鈴本人だったことである。
しかも困ったことに、それを佐渡川の家臣がいる目の前で話したため、他人の知るところとなったことだ。
口止めしたとして、それが何の役に立つだろう。
鈴は強い目で一息に言った。
ーー私以上に適任がおりますか。
足の動かぬ私が、役に立つのはそれぐらいだと国中の誰もが思っていることです。
幸か不幸か私には嫁ぎ先もなく、この先も細々と生きるだけ。ならばこの命の使い道を考えれば答えはすぐに出ましょう。
同盟国との関係が良好であり続ければ何も案ずることはないはず。
もし悪化したとしても、私のことはお考えいただかなくとも結構でございます。
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佐渡川は弥勒を呼んだ。
この話を聞いて、弥勒は佐渡川をじっと見て、それからつぶやいた。
「私はお鈴様の足でございますれば、お鈴様と共に参ります」
だが、物事というものは、思うようにいかないものである。
鈴は父と、そばに控える弥勒にきっぱりと言った。
「弥勒はついてきてはならぬ」 と。