十
弥勒は馬に乗ったことがなかった。
農耕馬なら引いたことがあるが、戦場で駆ける馬はそばに寄ったこともなかった。
朝の務め同様、鈴の指示で馬番について馬の世話を手伝いはじめた。
初めこそ気の強い、荒っぽい馬が恐ろしく、近寄ることができなかったが、馬の方も弥勒に慣れてきて、餌をねだり、弥勒の背中に顔を押し付けて甘えるようになると、瞬く間に仲良くなれた。
慣れてきたならそろそろ乗り方を覚えねばな、と、言われていた。
鈴はかつては馬に乗るのが、好きだった。
一人で乗れない今は、弥勒に馬を引かせ、楽しんでいる。
今日もその予定だった。
ーーが、今日に限って馬が一歩も動かない。
手綱を引く弥勒に、甘えている。
「弥勒、乗れ」
そう鈴が言うのを聞いた馬番が慌てて台をとりに走った。
引くばかりで乗ったことのない弥勒は、おずおずと鈴の後ろに跨った。
鈴は小柄なので、鞍は余裕がある。
「手綱を持て。足で合図だ。」
ポンっと、軽く馬の腹に合図すると、馬は嬉しそうに歩き出した。
鈴は幼い頃に父と兄に教えてもらったことを思い出しながら、馬の扱いを弥勒に教えた。
馬は弥勒の指示をよく聞いた。
この分なら、そう遠くなく走れるようになるだろう。
この日から、馬には二人で乗ることになった。