一
後に戦国時代と呼ばれた一時期に、優しく誠実な男と真っ直ぐで芯のある女の、ゆっくり育む愛の話。
共に生きていきたいと、強く願い、寄り添う二人を見守ってください。
ふすまを開けると、主が白刃を自身の首に向けていた。
「来るな」
「お止め下さい」
「もはや、ここまで。」
「っっ、御免っ」
一刻どころか一瞬たりとも猶予がなかった。
持ってきた長槍の柄で、畳2枚分の距離から、主の手を突き、懐剣が転がった。
ーーー
無用の長物とはよく言ったもので、長槍は室内では全く役には立たない。
だから、戦の折、外から内へと場が変わったら短刀に切り替えるのが常識である。
だが、弥勒は長槍を携えてここまで来た。
愛用の長槍は、普通の長槍より長く重いため、ここらでは力自慢の弥勒にしか扱えなった。
その得物を手放したくなかったのもあるが、なにより、手出しできない距離からでもこのように相手の行動を阻める一助になると知っていたからだ。
弥勒は、素早く懐剣を鞘へと納め、自らの懐に入れた。
そして、主に向き直り、片膝を突きこうべを垂れた。
「御免」
主をみすぼらしい男物の着物で包み、担ぎ上げた。
足音はだんだん迫っている。
隠し扉へ間に合うか?
いや、間に合わせてみせる。
弥勒のわらじが、ギリっと音を立て、その一歩を力強く踏み出した。