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第八話

「もう良いのか?」

「うん、充分泣いた……えへへ、夕紀の記憶の中で泣いたのって始めてだよぉ」

「そうか? あの屋上の時に『誰か開けてよ。死にたくない』って叫んでた時は泣いて無いのかぁ?」

「あれは泣いてないよぉ〜夕紀はお兄ちゃんの前じゃ絶対に泣かないって決めてたもんっ! その決め事もお兄ちゃんの所為で無くなったし……」

「そんなに強がる事無いって……今も夕弥が止まって悲しんでるお前の泣き顔を隠すくらいしか出来なかったけど……お前に頼られるのは嬉しい事だからさ」

「それだけで充分嬉しいよそうだ、今日は記念日だねぇ〜」

「記念日ぃ? 何かあったっけ?」

「夕紀の初体験だよぉ〜泣いた初体験っ!」

 俺は一瞬だけ顔を赤くしてしまった。そう言う意味ね……夕紀って純粋な分だけ意味も理解せずに発言するからなぁ……

「そっか……俺も夕紀の泣くのを見たのは初めてだな……」

「見たの?」

「え、ま、まぁ……見えた……かな?」

「どしてぇ! 見ないって言ったじゃんっウソつき〜」

「ちょ、夕紀その体勢はマズいからっ!」

「問答無用ぅ〜!」

 夕紀が俺に抱き付いて泣いていたのである。ベッドの上で……それから夕紀が俺を突き飛ばして怒っている=俺が下で夕紀が上乗りになっている。

「ねぇっ! 何で見たの? 夕紀の泣き顔見ないって言ったでしょぉ〜」

「ご、ゴメンって言ってるだろっ! 悪かった。ちょ〜悪かったからぁ〜」

「透弥ぁ〜見舞いに来たぞ〜」

 真夜が夕紀の病室に入って来た。

「透弥……お前にはそっちの趣味があったのか……」

 真夜はそのまま帰って行ってしまった。

「何で帰ったのかなぁ?」

「今の俺とお前の状況を見てみろ……」

 夕紀が三秒くらい硬直したあと、だんだんと顔を真っ赤に染めた。その後……

「お兄ちゃんのバカぁぁぁぁぁっ!」

 と叫んでから俺の頬をビンタで連打しやがった。

「ちょ……待てっ痛いっ! 待てって痛いっ……ちょ、ごめ……痛いっ!」


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 ようやく落ち着いたのか夕紀は平常心を取り戻した。

「ごめんねお兄ちゃん……」

「いや……別に問題は無い」

 俺は取り合えず夕紀にどいてもらってから、ベッドから降りて椅子に座った。

「取り合えずは病人なんだから、夕紀はベッドで寝てろ」

「ヤダ……」

「はぁ?」

「だって寝たらお兄ちゃんがいなくなるもん……」

「俺はいなくならないさ……」

「機械さんだって夕紀が起きたら止まったもん……」

 相当なトラウマになってしまったらしい……そりゃあ夕弥の事を自分の子供とまで言って可愛がってたんだからなぁ……そりゃあショックだったのは判る。

「俺はいなくならない……約束する。だから寝るんだ……」

「ダァ〜メ……夕紀は眠らないの」

 俺はどうしたら夕紀が眠ってくれるかを考えてみた。そしたら夕紀がこんな事を言い出しやがった……

「じゃあさ……お兄ちゃんが夕紀を寝かせて……」

「はぁ?」

「だからぁ……寝るまで一緒にいてよ……」

「それは別に良いけど……」

 夕紀がベッドの端によって、開いている自分の隣を手で叩いた。

「どした?」

「ほらぁ……早くこっち来てよ……寝るまで一緒にいてくれるんでしょ?」

「判ったが……急にどうしたんだ?」

「えへへ、熱で頭おかしくなったのかなぁ……甘えても良いんでしょぉ?」

「まぁ……な」

 俺は夕紀の額を触ってみると……結構な高熱だった……機械のショックで熱が上がってしまったのだろう。

「夕紀、俺が側にいてやるから取り合えず寝ろよ……な?」

「やっぱりヤダ……病気治したく無い……」

「ずぅ〜っとしんどいままだぞ? 頭ズキズキするし、ノドも痛いしだぞ? それでも良いのか?」

「うん……だって、夕紀が病気の間だけお兄ちゃんは夕紀の事だけを見ててくれるし、いつも以上に優しいもん……」

「俺をあまり心配させないでくれ……良い子だから寝るんだ」

 俺は夕紀の額に一度だけキスをしてから夕紀の背中に手を当ててゆっくりと夕紀をベッドに横たわらせた。

「お休み……夕紀」

「この病室から出たらダメだからね? 絶対に……ぜ〜ったいにダメなんだからね」

「了解……判ったから早く寝ろ。いっぱい寝て早く熱を下げような」


 夕紀がぐっすりと眠ってくれて俺は安心する事が出来た。しっかし夕紀の言う『病気の間は優しくしてくれる』って発言がすごく気にかかる。普段の俺はそれ程優しく無いのだろうか……

「うぅ〜ん……ま、悩んでも仕方無いか。まずは夕紀の完治が先決だしなぁ……あ、布団から肩が出てるじゃ無いか……」

「失礼しまぁ〜す」

 俺がそう思って夕紀の布団に手をかけたのと鼎ちゃんが病室に入って来たのは同時だった。

「透弥先輩……寝てる夕紀ちゃんに何をしてるんですか?」

 何で俺の周りの人間はタイミングの悪いときに入って来るかなぁ……今は全く普通の行動なんだけどなぁ……もしかしたら俺への嫌がらせでずっとタイミングを見計らってたんじゃ無いかと思えてくる。鼎ちゃんは真夜といる時間が長いからそれくらい出来そうだしなぁ

「いや、俺は夕紀の布団から肩が出てるから直してやろうと思って……」

「あ、そうだったんですかぁ〜いやぁ、勘違いでした」

「友達を心配して見舞いか? 感心だね」

「え、いや……そ、そんなぁ……」

「何で照れるかなぁ……? 夕紀と鼎ちゃんは友達だろう。友達思いなんて良い事じゃないか」

「夕紀ちゃんが……私の友達?」

「そうだよ。あぁ、夕紀ならあと一週間もすれば完治すると思うから心配はしなくて良いよ」

「夕紀ちゃんはいつも元気いっぱいだから治ると信じてますけど……透弥先輩は大丈夫なんですか?」

「俺? 俺は特に大した事も無いんだけど……」

「体じゃなくて、勉強です。透弥先輩は勉強の方は大丈夫なのですか?」

「あぁ……後で真夜が教えてくれるだろうから大丈夫だとは思うけど……あ、もし鼎ちゃんが良かったらで良いんだけど、夕紀の勉強を鼎ちゃんが教えてやってくれないかな?」

「私が人に勉強教えるなんて……透弥先輩って妹思いなんですね……私も透弥先輩みたいな優しいお兄ちゃん欲しいなぁ……」

「俺なんて……いっつも夕紀に優しくしてやろうとか思いながらバカばっかりで夕紀に大した事もしてやれてなくて……夕紀が死にたいとまで思ってても俺は夕紀を死なさない事も出来なくて俺も一緒に死ぬって結論にしか辿り着けなかったただのダメ兄ちゃんだよ……」

「そんな事無いですよ……夕紀ちゃんはいっつも透弥先輩の話をする時は顔が幸せそうですもん。きっと夕紀ちゃんの心の中はは透弥先輩の事を尊敬とか愛情でいっぱいなんですよ」

「そうかな……」

「きっと夕紀ちゃんは透弥先輩の事が大好きですよ……私も透弥先輩の事は大好きですから」

「え……?」

「あ……わ、私ったら何を言ってるんでしょうか……透弥先輩には夕紀ちゃんがいるのに……迷惑ですよね? 私に好きとか言われたりしても迷惑でしか無いですよね……ご、ごめんなさい」

「いや、女の子に好きって言われるのは嬉しいよ……俺は決して迷惑なんかじゃ無いよ……でもね、鼎ちゃんの好きって言うのは憧れと愛情どっちなのかな?」

「私は……夕紀ちゃんへの好きは憧れだけど……透弥先輩は本当に優しくて、素敵で……多分愛情だと思います……」

「そっか……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。俺に言える事は一つだけだ……『その感情は……捨てた方が良い』……俺は夕紀への愛情を捨てる事は決して出来ない。だから鼎ちゃんの愛情に応える事は出来ないんだ」

「ごめんなさい……」

「良いよ……嬉しかったのは本当だから……」

「ごめんなさい……私っ!」

 鼎ちゃんが俺に近づいてくる。俺がボーっとしていると、鼎ちゃんの唇が俺の唇にくっついた。俺は一瞬だけ何が起きたのか理解が出来なかった。

「鼎……ちゃん?」

「ごめんなさいっ! これで絶対の絶対に最後にしますからっ! そ、その失礼しますっ!」

 鼎ちゃんは病室を走り去って行った。

 俺は鼎ちゃんを追いかけようとした。

「お兄ちゃん……ずぅ〜っと一緒にいてね……」

 そんな夕紀の声がしたので、俺はその場にしゃがみ込んだ。

「俺は……やっぱり最低だな……ただの偽善で人の愛情を受けて……それで俺は受け入れる事が出来ない……夕紀を捨てる事も出来ずに他人を俺に惚れさせてしまっている。」

 俺は最低な人間だ……俺に何か出来る事は無いのか……俺にしか出来ない何かが……

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