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第五話

「なぁ〜んだ……昨日の機械じゃん……何でそんなに焦ってたのかなぁ?」

「だから何でも無いって言っただろぉ〜夕紀が急に来たから恥ずかしくて焦ってたんだよ……」

 これも本当の事である。急に夕紀に話かけられるとドキッとする。

「なぁ〜んだ……あ、夕紀は鼎ちゃんに呼ばれてたんだっ! 行ってくるねぇ」

 夕紀は高速で走り去って行った。俺は一度ため息をつく。

「ナイス機械……」

「ふふふ、俺も機械とは言え、多少の人間の心を理解するくらいには優秀なのだよ。話によると今日は透弥の妹の誕生日らしいな。隠してるとすると……俺をあの女にプレゼントと言った所か?」

「機械のクセに何でそんなに詳しいんだ……」

「まぁ良い……しかし、俺をプレゼントしたらお前の妹は悲しむぞ……」

「どういう意味だ?」

「解体は勘弁だから正直に言わしてもらおう。透弥も判ってるはずだ……あの女はお前に祝って欲しいのだろぅ? ならば妹を喜ばせるだけのプレゼントなど意味が無いのだ。透弥は誕生日を口実にあの女を喜ばせてやろうとしているのでは無いか?」

「…………」

「……お前がするべき事は妹を愛する事……これを忘れるなよ?」

「判ってるよ……」

「それが俺をプレゼントする……になるのか?」

「それは……」

「熱くなるな。お前、最近は妹と付き合うって事に意識しすぎて無いか?」

「別にそんな事は……」

「俺から言わせりゃ……」

 俺は機械のバッテリーと予備電源を抜き取った。

「夕紀と付き合う事になってから俺が変わった……か。確かに夕紀に嫌われない様に意識しすぎてたかも……」

「お兄ちゃぁ〜ん」

「夕紀……」

 何と都合の悪い時に夕紀に会うのだろうか……しかも、さっきどこかへ行ったばかりなのに……

「お兄ちゃん? 暗いよぉ?」

「俺に見せないでくれ……」

「え?」

「今の俺にそんなキラキラした笑顔を見せるなっ!」

「お……兄ちゃん?」

「ごめん……」

 俺はそう言うとその場を走り去った。最低だ……俺は何て最低な男なんだろうか……機械なんかに俺の心を読まれて……それでイライラして夕紀を傷つけて……そのまま放置して……

 俺は……最低だ……


「お兄ちゃんに……嫌われた……夕紀が何をしたんだろう?」


 一方、その頃の透弥……

「なぁ機械よぉ……俺はどうしたら良いんだ」

「勝手に電源抜いてそりゃあねぇだろぉ〜今、ちょっと修復パッチ当ててるから待っててくれよ」

「はぁ……夕紀を傷つけて……最低だな」

「俺の記憶パッチが先程のやりとりを教えてくれたが……透弥……最低だな」

「そうだな……」

「おいおい、何だとっ! とか言い返してくれねぇと話がつながらんだろぅ?」

「いや……俺は最低だ。お前に言われた事も事実なのに……それにイライラして夕紀を傷つけるなんて……」

「透弥……それ程アイツが好きなのか?」

「あぁ……夕紀がいなけりゃ俺の一日は始まらない……家で起きた時にあのキラキラとした笑顔を見て俺の一日は始まるんだ……夕紀には感謝しても足りないくらいの事をしてもらったのに俺は……」

「ちょっと待ってな……今、助けてもらった恩を返すぜ……」

「お、おい……どこに行くんだよっ。ったく、お前くらい側にいてくれても良いだろうがよ……」

 俺は寝転がって空を見上げた。

「今日も青いなぁ……」

 持って来た本を開いて読んでみた。


 その頃の機械は……一年生の教室にいた。

「おぅ、お前だお前っ! えっと、名前はなんだっけ? あぁ忘れた、透弥の妹だな? ちょっとついてきやがれ」

「あ、お兄ちゃんの機械さん……」

 夕紀は何も疑う事無く機械についていった。

「何の用ですか。」

「いやね、さっき透弥が屋上にいたんでね……」

「良いんです……きっとお兄ちゃんは夕紀の事が嫌いになっちゃったんですよ……夕紀がお兄ちゃんに頼りっぱなしだったから疲れちゃったんだ……今まで友達がいなかった夕紀を守ってくれてたから……依存しすぎちゃったのかも……」

「はぁ……判りにくい兄妹だねぇ……透弥はアンタがいなけりゃ一日が始まらないって言ってるのに……」

 もう、このお話は機械さんもメインキャラになってますね。それなのに名前が無い機械さん。頑張って下さい。

「お兄ちゃんが……そんな事を?」

「俺は機械だからウソは付かない。人間に入力されたデータをウソで返したりはしないぃ〜」

「お兄ちゃんが……」

 夕紀はダッシュで走って行った。

「さて、機械の俺はどこにいればぁ〜」

 機械さんは自分の居場所を求めて校内の旅に出た。


「お兄ちゃんっ!」

「夕紀……どうしてここに……」

 俺はびっくりして持っていた本を投げ捨てて夕紀の方を向いた。

「理由が聞きたいから……こんな納得のいかない事で避けられるのって……納得出来ないから」

「理由も何も……俺はお前にふさわしく無いんだ……」

「ふさわしく無いって何? そんな資格とかっている物なの?」

「俺の気持ち何だよ……」

「そっか……夕紀の事が……嫌いになっちゃったんだ……」

「違うっ! 俺はお前が好きだ……でも、今の俺はお前に……」

「何なのそれ……意味判んないっ!」

「夕紀……悪いが今の俺はお前に会える様な奴じゃねぇんだ……」

「夕紀がこんなにお願いしてるんだよ?」

「夕紀……俺は……」

「ねぇ……お願いだから元のお兄ちゃんに戻ってよ……夕紀がこんなにお願いしてるのに……それでも嫌なの?」

 俺が屋上から校舎に入ろうとすると、俺は前に進めなくなった。夕紀が後ろから抱き付いてきたのだ。

「夕紀、離してくれ……」

「ヤダ……夕紀にはお兄ちゃんが必要なんだよ……」

「俺はお前にどうやって接してやれば良いのか判らないっ!」

「訳わかんないっ! そんなに自分が大事なのっ!?」

「お前は自分が大事じゃないのか……?」

「お兄ちゃん変わったよ……夕紀は好きな人の為なら自分を捨てたって構わないよ……それなのに……何でこうなっちゃうのかなぁ……こんなのなら付き合わなかった方が良かったのかな……お兄ちゃんの心が判んないよ……こんなんじゃお兄ちゃんの事……嫌いになっちゃうよ……」

「結構だよ……俺は正直お前とどう接すれば良いのか判らない……ずっと考えてるだけなんだ。こんな考えるばっかりなんて……俺には苦痛なんだよっ!」

 しまった……と思った時にはもう遅かった。夕紀の顔からは涙が流れ出していた。

「苦痛……夕紀と一緒にいるのが苦痛なの……?」

「いや、それは……」

「それだけは言われないと思ってた……頑張らなくて良いって言うから言われないと思ってた……それなのにお兄ちゃんは夕紀といることが実は苦痛だったんだね?」

「俺は……」

「最低……好きでも無い人と付き合うなんて……夕紀の目の前から消えて……」

「夕紀……?」

「早くっ! さっさと消えてよっ!」

 夕紀にこんな事を言われるとは全く思っていなかった。まぁこんな事を言われてしまうのも仕方の無い事である。俺は夕紀を傷つけた。俺の所為で夕紀がこんな事を言っているのだ。


 俺は夕紀を払いのけて屋上から走り去って行った。


 雨が降った気がした……


 俺の心の中で……


 その雨はいつしか雷雨に変わり


 俺の心を打ち砕く


 気付けなかった愛情に


 ただただ後悔するだけの


 俺は何て醜くて


 何てちっぽけな存在か……



あぁ〜透弥くんがとうとう夕紀ちゃんに振られちゃいました。

今回はカップルにだって痴話喧嘩くらいあるだろうと思った作者の唐突な思いつきで急遽本編のエンド展開を改造してまでも作り出されたお話です。

 自作もまた皆様の目に触れる事を祈りつつ、感謝の意を述べさせて頂きます。

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