三話
『透弥先輩と別れて』……そんな意味の判らない事を夕紀に言った鼎という女の子。俺は何でだよって突っ込みたい気持ちを抑えて隠れている事にした。
「はっきり言うわ。私は透弥先輩と付き合ってるアナタが嫌いなの」
「ダメだよぉ〜皆仲良くしなきゃ楽しく無いよぉ〜? 嫌いなんて言っても楽しく無いでしょぉ?」
夕紀は何て良い奴なのか……自分の事を嫌いと言った奴にまで情けをかけるなんて……
「アナタのそう言うぶりっ子的な所が大嫌いっ!」
「ぶりっ子って何かな? あとでお兄ちゃんに聞いてみるね。少し頭悪くてごめんなさい……そだよね、話の内容が判らない子とか嫌いになるのもしょうがないよね……でも、話が上手くないだけで嫌いになったらダメだと思うんだ。だって話が下手とか上手とかで、その人の全てって判らないでしょ?」
「私は……」
「ね、鼎ちゃんに夕紀の事を好きになって……とは言わないけど他の人を同じ理由で嫌いになったらダメだと思うよ。ね?」
夕紀は鼎にキラキラした笑顔を見せた。
「やっぱり……やっぱりアナタは大っ嫌いっ!」
鼎が走り去って行ったのだが、一瞬鼎の顔が赤くなったのは気の所為だったのだろうか……俺もさっさと教室に戻らないとな……
「お兄ちゃん〜」
「よっ」
「あのねぇ〜鼎ちゃんって子が夕紀の事を嫌いなんだって……話が合わない子は嫌いって……」
いや、少し違う気がするが……あえて突っ込みはやめておこう。
その頃の屋上……
「私は夕紀ちゃんの事が……嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き……もぉ〜好きなんかじゃ無いわっ! 絶対に嫌いだもんっ」
「よぉ〜鼎、花占いなんてしちゃって……何を占ってるんだ?」
「べ、別に何も……」
「ついに鼎も同性愛に目覚めたか……ま、発展できて一番のお友達って所だろうな……」
「べ、別に私は……夕紀ちゃんの事なんて……」
「鼎ちゃん、大好きだよっ」
「な、何っ今のっ!」
「忍者たる者変声くらいは簡単だ。顔真っ赤だぞ?」
「もう……私は……夕紀ちゃんなんて……好き、なのかな」
「ははは、鼎は夕紀ちゃんが好きなのか?」
「私は……」
「透弥に相談してやるよ」
「ちょ、ちょっとっ!」
真夜は屋上を出て、俺に会いに来た。
「とぉ〜やっ!」
「な、何だよ気持ち悪いな」
「ちょっと話があるんだ」
「俺は今、夕紀と……」
「何だよぉ〜友達じゃぁ〜ん」
「ウゼェ……」
「友達大事にしねぇと……」
「恋人も大事にせにゃイカンのよ」
「お兄ちゃん、夕紀は家に帰ったらいつでも会話出来るから……」
「仕方無い……下らん用事なら処刑だぞ?」
俺は真夜についていき、中庭まで移動した。ウチの学校はだいたい中庭に誰もいないのだ。こんな静かな所に来る物好きもいないしな……
「で、何だ?」
「夕紀ちゃんの事が好きって人がいるんだ……」
「ふぅ〜ん……ってはぁっ!? だ、誰だっ」
「いやぁ……それがよ……この子なんだが……」
「えっと、確か……鼎ちゃんだっけ?」
「事情は判ったろ? 夕紀ちゃんを呼んで来て欲しいんだ」
「面倒……」
「人助けだと思って」
「仕方無いな……言っておくがな、お前の為にやるんじゃ無いからな?」
俺は夕紀を呼ぶ為に教室まで戻ってからまた、中庭に戻った。
「ちょっとお兄ちゃん……こんな所で何をする気なのぉ?」
「ほれ、連れて来たぞ……」
「か、鼎ちゃんっ!」
「こ、こんにちわ」
「夕紀に何か御用なのぉ?」
「えっと……私、さっきは大嫌いとか言っちゃったけど……その、本当は……アナタの事……大好きなのっ」
「あらら、友達として……じゃ無かったのね」
「真夜……やりすぎじゃ無いのか?」
「鼎ちゃん……本気なの? 本当に夕紀の事が好き……なの?」
「う、うん……」
「嬉しいよ……鼎ちゃんが夕紀の事を大好きって言ってくれたのは本当に嬉しいよ。でもね、夕紀には……お兄ちゃんがいるから鼎ちゃんと付き合う事は出来ないよ……だから友達としてなら……ね?」
「アナタは優しすぎるよぉ……」
「アナタじゃ無くて、夕紀って呼んで良いよぉ〜友達なんだからぁ〜」
「じゃ、じゃあ……夕紀ちゃんって呼んで良い?」
「もっちろんだよぉ〜」
「夕紀ちゃんっ!」
鼎ちゃんが夕紀に抱き付いた。何だか女の子同士って言うのも悪い物じゃ無いなと実感できた一瞬だった。
「もぉ〜鼎ちゃんったら泣き虫さんだよぉ〜」
「私……私は……っ」
「泣いたらダメだよぉ〜」
「鼎……良かったな」
「ところで真夜……どうしてお前は鼎ちゃんの事を呼び捨てなんだ? 俺は兄妹だから夕紀を呼び捨てだけど……」
「実はな……俺と鼎も兄妹だったのだ……これは鼎にも言っていない事実だ」
「えっ」
俺は一瞬意味が判らなかった。真夜と鼎ちゃんが兄妹……?
「まぁ……冗談だけどな……」
一話の最後に重大発言してこれかよっ!
「お前なぁ……重大発言してそれかよ……」
「仕方ねぇだろっ! 作者の頭がバカなんだからよぉ〜」
「作者って誰だよっ!」
「知らねぇの? 俺達キャラを形成する人の事だぞ?」
「それ、もう滅茶苦茶発言だからっ! 取り合えず、何で真夜は鼎ちゃんを呼び捨てにするんだ?」
「別に意味なんてねぇんじゃねぇの? お前だって俺の事呼び捨てだろ? 多分そんな感じだ……」
「ふむふむ……なるほどな……ってかさ、俺はもう戻って良いんだよな? 夕紀はもう少し鼎ちゃんの側にいてやれよ」
「良いの?」
「友達は大事にしないとな……」
「じゃあ俺の側にいてくれよ透弥ぁ〜」
「黙れっ! 殺すぞ」
俺は迫ってくる真夜の顔面を本気で殴った。少し鼻血を噴いていた気がしたのだが、まぁ問題無いだろう。
「お兄ちゃん、放課後迎えに行くから教室で待っててね」
「あぁ……」
俺はそのまま中庭を後にした。夕紀に友達が出来たか……嬉しい事だ。嬉しい事なのに、この胸の奥に刻まれる様な痛みは何なのだろうか……喜べ、喜べ俺……と自分に言い聞かす程に俺の胸はズキズキと痛む。
「それって……嫉妬じゃ無いの?」
「誰だっ!」
確かに今、誰かの声がした……バカな、俺が夕紀の友達に嫉妬……そんな事は無い……あってほしくない……
俺は自分の教室に戻ってから深いため息をついた。俺は教科書を取り出してオーバードライブについて載っているページを何回も読んでみた。
いつもならこの時間が一番好きなのに今は考えがまとまらない。
「オーバードライブ……本当にあるのかなぁ……」
「そんなの考えたって判らないよ……」
「誰だっ!」
今度は空耳では無く、実際に人が話しかけていたのだ。
「ご、ごめんなさい……」
「あ、いや……悪い。ちょっとイライラしてた……」
「そんなにオーバードライブが好きなの? あんなに人を殺した兵器が……」
「別に昔の人間が何人死んだとか俺には関係無いよ……過去の過ちを覆す事なんて出来ないんだから……俺はね、機械が好きなんだ……そんな素晴らしい兵器がどうゆう原理で動いているのかが気になる……」
そんな事を言っていると、教室に先生が入って来た。
「えぇ〜授業を始める。まずは……ここの問い1の問題を名倉透弥、やってみなさい」
「はい。えぇ〜と」
俺は教科書をペラペラとめくりながら問い1のページを探していると、その教科書を何者かに奪われた。
「お兄ちゃんっ」
俺の教科書を持った夕紀が俺の隣に立っていた。
「お前……何やってんの?」
「そんなの関係無いよっ! ちょっと来てっ!」
「いや、今は授業中だから……」
俺の意見なんて関係無しに夕紀は俺の腕をつかんで教室を飛び出した。
「じゅ、授業中だからぁ〜〜〜〜〜!」
さてさて、前回は夕紀ちゃんと鼎ちゃんのラヴラヴを書いてみたいと言ってましたが、今回どうしても書きたくなったので急遽追加設定という事で書いてみました。本気で告白しちゃいましたね。
あと、夕紀ちゃんと鼎ちゃんのケンカ。会話がかみ合っていないのがまた夕紀ちゃんの天然っぷりを出していて可愛い感じだな〜っと作者としてはウハハな訳です。
毎度好例ですが、この小説を見て下さった読者の皆様に感謝の意を送ると共に次回も皆様の目にこの本作が触れます様祈りながら次回作を投稿いたします。