最終話
俺と夕紀はチャリで近所のケーキ屋に向かった。俺は今回は夕紀を祝う役なので、夕紀にケーキを選ばせる事にした。
最初は色々なケーキを夢中に選んでいる夕紀だったのだが、途中で一箇所に留まってしまった。
「そのケーキが食べたいのか?」
「う、うん……」
夕紀が顔を赤くする。ケーキを買うだけのにどうして顔を赤くする必要があるのだろうか。何か秘密があるのだろうか……
「そちらの男性のお名前は?」
「え、俺……? 俺は名倉透弥だけど……」
店員はニヤニヤしながら店の厨房の方へ消えて行ってしまった。
「なぁ……どうして俺の名前がいるんだぁ? お前のケーキだろぅ?」
「えへへ、帰ったら判るよ」
俺の頭の中を?マークが乱舞する。店員が厨房から出て来て夕紀にケーキを渡す。特に高価なケーキでも無いので助かった。
俺はケーキをチャリに積んでから家までチャリを走らした。
「ふぅ……特に何の用意も出来てねぇが……始めるか?」
「う、うん……」
まだ夕紀の顔は真っ赤だ。
「お前……もしかしてまだ熱があるのか?」
「そ、そんな事無いよぉ〜早く食べようよぉ〜」
俺がケーキを開けると夕紀が顔を真っ赤にする意味が理解出来た。
「夕紀……これは何だ?」
よくケーキを見ずに買った俺も悪いが……バースディケーキにこれは無いだろう。ケーキには、ハート型のチョコに俺と夕紀の名前が書いてあった。これって、恋人が買う奴だよな……
「エヘヘ、一度お兄ちゃんに買って欲しかったの」
「あ、そうなのか? ん〜……良いケーキではあるよな……」
「はい、あぁ〜ん」
「は?」
夕紀がケーキをフォークにさして、俺の口の前に持ってくる。
「ほらぁ〜食べさせてあげるからぁ〜」
「ひ、一人で食えるってっ!」
「何ぃ? 夕紀のケーキは食べられないって言うのぉ?」
「いや……じゃ、じゃあ……」
俺は口を大きく開けた。夕紀が俺の口の中にケーキを突っ込んで来た。
「ふごっ!」
ケーキがでかすぎたのか、少し俺の口からケーキがはみ出した。
「あ、ゴメンね。ケーキ大きすぎたかなぁ……」
俺が手で取ろうとしたら、夕紀が俺の口についたケーキを舐めて取った。俺は普通に顔を真っ赤に染めた。
「お兄ちゃん顔真っ赤だよぉ〜可愛いっ」
「ば、バカ……」
「えへへへ、お兄ちゃんったら顔真っ赤にしちゃってぇ〜そんな照れる事なんか無いのにさぁ〜」
「俺……ケーキの生クリームとか甘いから嫌いだし……」
「そうなんだぁ〜」
夕紀はおもむろにショートケーキのイチゴを口に含んでから、先っぽの部分を咥えた。
「何してんの……」
「生クリーム取ってあげたの。食べたい?」
「そりゃあ……夕紀が一度食べた奴なら……」
「え、お兄ちゃんって変態さん?」
「違うっつーのっ!」
「ほら、食べて良いよ」
「じゃ、じゃあ……」
俺は夕紀のイチゴを取る為に手を伸ばした。が、夕紀が首を引っ込めた。
「ダ〜メ……口で取らなきゃ上げない……」
「お、お前……意味判って言ってんの?」
「もちろんっ口移しって奴だよねぇ?」
俺は仕方無く夕紀の唇にキスをしてからイチゴを食べた。
「ん……美味いな……」
「ホント?」
「うん、夕紀の味がする……」
「もう、恥ずかしい事言わないでよ……」
「夕紀がやりだしたんだろう?」
俺と夕紀だけの誕生日パーティーは少し道をずれながらも進んで行き、俺も夕紀も楽しく少し遅れた誕生日を過ごす事が出来たんじゃ無いだろうか……
「お兄ちゃん、ずぅ〜っと楽しい日々が続くと良いね……」
「明日からテストが近いから地獄だぞ?」
「えぇっ! 何で今更そんな事言うかな……?」
「良いじゃん……最後にお前に伝えれただろ?」
「最後って何? 意味判んない……また夕紀を置いてどっか行く気?」
「さぁ……どこだろうな……天国か地獄か……はたまた病院のベッドの三択だとはおも……う」
俺はそのまま気絶した。やっぱり夕紀に心配かけまいと思って無理したのがバレたか。そりゃあ夕紀以上に雨に打たれたからなぁ……それに一日徹夜で看病してたし……
「寝ちゃった……ベッドまで運ばなきゃ……って熱っ! これって百度くらいはあるんじゃないかなぁ……?」
夕紀が俺をベッドに運ぼうとした時、俺の体が以上に熱い事を確認した夕紀である。ちなみに人間の体温が百度になると血は沸騰するはずだ。
「寝ちゃったんじゃなくて……気絶? びょ、病院行かなきゃっ!」
ほんの少し……ほんの少しだけ辛い事もあるかもしれないけど、コイツがいるならどんな辛い事だって乗り越えて行ける。そんな事が思える程夕紀の存在は俺にとってでかくて心からお礼を言いたいくらいだがそんなのは恥ずかしくて言えやしない。
こんな感じで俺と夕紀の関係は続く。今までもそして……これからも