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私のせいたかくん  作者: 久郎太
思い出のテディベア(side 涼雄)
6/25

※自サイトで掲載しているシリーズ小説を設定を微妙に変え加筆修正して転載しております。

※題名が若干変わっております

 俺の名前は、真宮まみや涼雄りょうゆう

 俺には、物心がついた頃から好きな子がいる。

 その子が、俺の心をほとんどを占めているため、この先絶対に他の子を好きになることはない。

 笑顔がとても可愛くて、背が小さくてそれも好きになる要因で、その全てを独占したくなる。

 自分の手で囲って、守ってあげたくなる、そんな子だった。

 その子とは、世に言う幼馴染だ。

 隣の家に住む、三兄妹のうちの真ん中。

 一歳年下の女の子。

 名前は、絹瀬きぬせ沙織さおり

 親同士が、昔から親友で交流があったことから物心つく前から小学校までずっと一緒に過ごした。

 中学に上がるまでは、いつも一緒に手をつないで登校していた。

 それを同級生にからかわれてもそれだけは止めなかった。

 彼女の横に何時もいたかったから。

 いつも彼女を自分の視界に入れておきたかったから。

 俺が小学校6年の時、彼女が家庭科の授業で作ったというペアのミニテディベアの片割れをくれた時は、うれしくて舞い上がった。

 たとえ男が持つには不似合いなぬいぐるみだとしても俺は嬉しかった。

 そのぬいぐるみは、今でも大切に持っている。

 たったひとつしかない彼女からの初めての贈り物。

 小さいモノだから、何時も持ち歩いてたりする。

 それほど俺は、彼女の事が好きだ。



 それは突然訪れた。

 中学に上がった頃。

 両親の仕事の関係で、俺はその長身と容姿のため、双子の弟である琉誠りゅうせいと一緒に母親が取り扱うファッション誌の専属モデルをやることになった。

 はじめは、親に頼まれてなんとなくやっていたモデルの仕事が、次第に楽しくて夢中になっていた。

 その間は、あんなに好きだった彼女の事を思い浮かべることも考える余裕もなかった。

 ただただ、新しい自分を発見出来たモデルの仕事が楽しくて仕方がなかった。

 けれど、しばらくして、仕事に向けていた情熱が少しおさまった時、彼女のことがふとした拍子にまた思い出された。

 彼女への想いがよみがえると、小学校の時とは比べ物にならないほどの想いを彼女に寄せている自分に気づいた。


 どうして、何故、突然?


 理由は解らない。

 どうしてその思いが再燃したのか、切欠が何だったのかなんてそれすら判らない。

 ただ、彼女にどうしても逢いたくて、たった一度だけ一緒に学校へ登校しようと朝待ち伏せしたことがあった。

 けれど、その日は既に彼女は学校へ登校したあとだった。

 付け加えて後から聞かされた話で、絹瀬兄妹の中で彼女だけ一人違う地元の公立の中学に通っていた事を知った。

 彼女とは学年が違うからそのことに気づけなかった。

 同じ中学に通っているとばかり思っていた俺は、その真実を知り、かなりショックを受けた。

 彼女との接点の可能性を失ったから。

 とどめとばかりに、隣に住んでいるのに仕事柄生活のリズムの違いで、出会うことすら出来ないことに愕然とする。

 俺より先にモデル業をしていた彼女の兄や妹と同じ事務所に所属していたことから、さりげなく彼らから彼女の事を聞こうとしても、いつもきまった返事しか返ってこなく、あまりしつこく聞いて余計な詮索を受けたくなかった為、彼女の事を聞きだすことがかなわなかった。

 彼女の兄と妹とは、昔のように仲が良いままだったが、本命の彼女だけ隔離されたように、その距離が遠くなっていく。

 俺は、なんとか彼女と会えないかと模索しつつ、会えないというストレスを抱えながら、モデルの仕事を辞めることもできずに淡々と日々を過ごしていた。



「じゃ、次。 Ryo(涼雄)とSin(信也)入って」

 呼ばれて、俺は信也と一緒にカメラの前に立つ。

 今日は、最近有名になってきたカジュアル系ブランドが出した新作の服の撮影。

 フラッシュの光が瞬き、シャッターを切る音が当たりに響く。

「RYo、もう少し目線上げて。 そう、Ok。 Sinちょっと首をかしげてくれ」

 カメラマンの支持通りのポーズをとる。

 これが終われば、今日のスケジュールは終わりだ。

「OK。 いい絵が取れた。 お疲れさん」

 撮影終了の声でカメラの前から立ち去る。

 昼を取ってそのあとどうしようかと俺が考えていると、

「なあ、涼雄。 今夜、空いているか? カラオケ合コンあるんだけど」

 そう、信也が小声で聞いてきた。

「俺、そういうの興味ないから」

 と、そっけなく答える。

 彼女のことしか興味のない俺には、合コンにいく動機がない。

「う~ん、できればお前にも来てほしいんだが。 お前が来ることがわかると女の子達の出席率が上がるんだよ」

 それでも諦めきれないのかそういって再び誘ってくる。

「わるい」

 俺は、もう一度今度は完結に断りの言葉を言って黙った。

「なぁ、もしかしてお前誰か好きな子でもいるの?」

 突然信也がそう聞いてきた。

 いきなりのことだったので、ぎくりとした表情が少し出た。

 それを目ざとく見た信也は、ニヤリと笑った。

 まずい、まずい奴に見られてしまった。

「なになに、居るんだ好きな子? 誰だよ、教えろよ」

 と、からかい混じりにそう聞いてくる。

「ああ、いるよ。 いちゃわるいか? 俺の片思いだけどな」

 そう、言い捨てて足早に自分用の控え室に戻る。

 控え室に備えてあったソファーに座り、寄りかかって小さくため息をついた。

 ふとした拍子に視界に入ったソファーの前にある机の上に置いていた私物のウェストポーチを引き寄せ、中から手のひらサイズの小さなぬいぐるみを取り出す。

 青いフェルトでできたちょっと薄汚れたミニテディベア。

 そのテディにそっと口づけする。

 それだけで、日々のストレスが少し和らぐ。

 彼女を最後に見たのは、4年前の小学校の卒業式。

 卒業生を在校生が見送るその最中で、一瞬彼女の姿を見たのが最後だった。

 彼女の姿は俺の中で、その時のままで止まっている。


 今頃、彼女はどんな姿になっているんだろうか?


 すでに、彼氏とかいたりして … …


 とそんな事を思った途端に一気に気分が沈む。

 自分で勝手に想像してダメージ受けてるなんて、俺は本当に馬鹿だ。

 テディをウェストポーチにしまう。

 着ていた衣装をすばやく脱いでハンガーに丁寧にかける。

 私服のジーンズだけ履き、上半身裸の状態で撮影用のメイクを落とすため備え付けの洗面台の前に立つ。

 あまり目立ちたくないため仕事以外の時は伊達眼鏡をかけている。

 裸眼のままの自分の顔が、洗面台についている鏡に映る。

 眼鏡をかけた自分と今の自分は不思議と別人に見えた。

 小学校の頃の写真を見比べると解るが、今の顔は昔とかなり変わっている。

 もし、もしも、彼女と出会うことができたら、彼女は俺と気づいてくれるだろうか?

 そんなどうしようもない事を思いながらメイクを落とす。

 落とし終えたあと、洗面台の棚の上に外して置いていた伊達眼鏡をかけた。

 鏡の中の自分が、モデルの『Ryo』ではなく、本来の涼雄にもどる。

 私服のTシャツを着てからウェストポーチを腰に装着すると、俺は控え室をあとにした。

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