Warning of mind
※心情の補足掌編
彼が、彼と判った瞬間、過去の彼が今の彼となる。
雑誌で、駅の構内や店頭ポスターで、モデルとしての彼を目にしない日はなかった。
彼のことはずっと想っていた。
その想いは蓄積されて溢れるほどになるほどに。
けれどもその映像媒体の向こう側に居る彼に手が届くとはとてもおもえなくて、彼の居る場所に自分が居てはいけ ない気がして、兄や妹がおなじ現場に居るというのにそれを理由に彼に会いたいというのは何かいけない気がして 行くことができなかった。
彼が、モデルの彼である限、彼に会ってはいけない、と、暗示をかけるように自分で自分を縛り付けた。
だから、あのとき眼鏡をかけた彼が、彼とわかったとき、モデルの顔をしていなかった彼をすんなり受け入れられた。
会ってもいいのだと、想いを告げていいのだと、無意識に縛り付けていた心の戒めが解けた。
眼鏡をかけた彼は、昔の彼が大きくなればそうなると想像できる姿をしていたから、その雰囲気がそのままだったから、名前を言われるまで判らなかったけど、納得できた。
モデルのときの彼と、眼鏡をかけている彼とは別人のよう。
同一人物とは思えない程。
私の中では別の人となっていた。
彼に告白され、それを受け入れた。
溢れた想いを受け取ってもらえた安堵感がひろがり、舞い上がる。
けれど、なにか言いようのない不安もある。
それはなんとなく気づいているけれど、無理やりその不安を押し込める。
気づきたくない、今の幸福を手放したくないから。
やがて、気がついてしまう日が来ることは判ってはいるのだけれども、今は、今だけはその時が来るまでそれに蓋をしていたかった。
願わずにはいられない。
しっかりとつながれた手が、ずっとつながっていられますように、と。