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４

「俺、本当に物心ついた頃から沙織のことが好きだ」

　そう涼雄くんが、告白する。

「いつも、お前を見てたんだぞ？」

　と抱きしめたままそう、耳元でささやく。

　それが信じられなくて、私が驚いた顔をすると、

「信じてないな？　でも、どう思われてもそれは真実、俺は、ずっとお前しか見えなかった。　ずっと好きだ」

　苦笑しなから彼がそう言い、

「中学になってから学校が別々になって、お前に会う機会が皆無になったから、かなり焦った」

　彼が切ないような声でそう言葉を重ねる。

　私を抱きしめる力がすこし強くなる。

「それでも信也たちとの撮影の時、撮影現場に来るかもって期待して待っても、お前は一度も来たことがなかった。　信也や詩織ちゃんに聞いても、ただ、元気ということしか聞きだせなかった。　もう、会うことが出来ないかと思ったら突然、今朝いきなり俺の目の前に現れた。　すっごく驚いて、でもすごく嬉しかった」

　そう言って、彼が私の頭の上に口付けしたのがわかった。

　幸せすぎて気が遠くなるような眩暈に似た感覚が全身をおおう。

「すごく可愛くなっていて、びっくりして、焦った。　思わず告白せずにはいられなかった。　誰かにとられる前に」

　彼は、私の髪を梳きながら、さらっとそういうことを言う。

「涼くん、そんなに焦ってたの？　そうは、見えなかったけど？」

　そう、私が聞くと、

「俺も男だからね、余裕のない姿ってやっぱみられたくないんだよ」

　苦笑しながらそう彼が答えた。

「私ね」

　そこでいったん言葉を切ると、「ん？」と彼は先を促してくる。

「私、も、ずっと昔から涼くんのこと好きだったの」

　今では落ち着いて安心すら感じる彼の胸のなかでそう話し始める。

「ずっと、好きで、でも私なんか、視界にも入らないって思ってたの。　それに、涼くん『モデル』の仕事してて学校も違ったから」

　そう私が、告白すると、

「俺達って、結局もうずっと昔から両思いだったってことか」

　嬉しそうに、そう彼は私の耳元でささやいた。

「沙織、明日から朝一緒に学校へ行かないか？」

　彼がそう駅へ向かう道すがら提案してきた。

「涼くんの都合がよければ、一緒に登校したいな」

　と、遠慮がちに私が答えると、

「平日撮影があったりすると無理だけど、その時は前もって言うから、それ以外の日は毎朝一緒に学校へ行こうな」

　笑顔を向けてそう彼は言った。

「うん」

　私も彼を見上げて笑顔を返した。

　嬉しすぎて、自然に顔が緩んでしまう。

　ふと、彼の大きな手が目に入った。

　そっと触れてみる。

　すると、彼の方から手を握ってくれた。

　驚いて再び見上げると、彼と目線が合った。

　ものすごく優しい顔をしてやんわり手をつないでくれる。

　思わずまた赤面する。

　そのまま、手をつないだまま自宅まで帰ってきた。

　私の家の前につくと、

「じゃ、沙織、明日朝８時頃に迎えに来るから」

　彼は、わざわざ膝を折って私の目線に合わせてそう言ってくれた。

「うん」

　私はドキドキして、そう答える。

「あ、涼くんそういえばお昼は？」

　そこで突然思い立ったことを彼に聞くと、

「ん？　ああ、今日は家政婦が休みだからあとでコンビニ弁当」

　そう彼は、答えた。

「あ、じゃ、もしよければこれ、私が作ったのだけれども」

　そう言って、もっていたお弁当を彼に差し出す。

　本当は、天気が良いからどこか公園で食べようかと思って持っていたお弁当。

「って、それってよく信也が、持ってきてる弁当？」

　差し出したお弁当を受け取りながら彼がそう聞いてきたので、

「うん、同じお弁当」

　と、私が答えると、それを聞いた彼は、嬉しそうに笑った。

「沙織が、作ってたんだ。　てっきり俺、沙織の家の家政婦が作ったものだと思ってたんだ。　見た目がすごくおいしそうで、信也もいつもうまそうに食べてたいたから」

　少し驚いたように彼はそう言った。

　その言葉をきいて私は、嬉しい気持ちでいっぱいになった。

「もしよければ、涼くんのお弁当も作ろうか？」

　そう提案すると、とたんに彼の目が輝いたように見えた。

「いいの？」

　嬉しそうに聞き返す彼に肯いて答える。

　これから朝のお弁当を作るのが楽しくなりそうだ。

「朝、一緒にいける日は必ずつくるね」

　そう約束して私は、彼に笑顔を向けると自宅の鉄製の門扉を押し開くため彼に背を向けた。

「沙織」

　呼ばれて、振り向いた瞬間唇に暖かく柔らかい感触がした。

　とたんに私の顔が赤面する。

　なれない。

　いや、不意打ちは反則だ。

　嬉しいのだけれども。

「本当ならこの後も時間が許す限りずっと沙織と一緒に居たいけど、これから仕事が有るから……。　じゃ、また明日」

　そう言って彼は、私が家に入るまでずっと見送ってくれた。

　ぼぉっとしたまま自室にもどる。

　カバンを机の上に置いて、制服を脱ぎ私服に着替え、制服が皺にならないようにハンガーにかける。

　無意識にそこまでしてベッドに腰掛けると座っていられずボスンとベッドに寝そべる。

　ちょっと前のことを思い出してまた、赤面する。

　自分の唇をそっと触れ、さらに赤面する。

　キスしちゃった、それも２回も

　思い出すだけで、悶絶するほどうれしくて、はずかしくて。

　それもファーストキスが、好きな人と出来たということはとてつもなく幸せなことだろう。

「涼くん」　

　そっと彼の名前を呼んでみる。

　途端に思い浮かべることができる彼の笑顔。

　それを見て一人で意味もなくじたばたする。

　うれしすぎて、うれしすぎて、死んでしまうぐらい心臓がドキドキする。

　明日から、私どうなっちゃんだろう。

　ひとり、そんな幸せな悩みを抱えながら再び私はその幸せ故の痛みに悶絶した。

　涼くん、私のせいたかくん。

　届かなかった彼との距離が『０』になった。

　明日からは、ずうっと彼と一緒にいられる日々が始まる。

　私のせいたかくん -完-