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私のせいたかくん  作者: 久郎太
Private life and work 【短編集②】
22/25

彼の仕事 - His work -

※涼雄のお仕事風景


それは、俺が今月の仕事のスケジュールの確認をとった時のこと。


「Emperor of corolla? って、初めて聞くブランドだな」

事務所に数部屋あるこじんまりとしたミーティングルームの一つで俺が何時もどおりにマネージャーの古河山こがやまから今週のスケジュールを確認していると、聞いたことのないブランド名があがった。

怪訝に思い聞き返すと、

「はい、何でも今度『Emperor of corolla』で出す新シリーズのカタログを作るそうで、そのモデルに『Ryo』をと依頼が来てまして」 

スケジュール帳をめくり、依頼内容の確認頁を広げて古河山はそう俺に報告する。

「……日にちとしては、大丈夫だと思うけど、そこの服ってどんな傾向のデザインなの?」

俺は古河山からもらっていたスケジュール表と自分のスケジュール帳を見比べ日付の照会をしてから彼にそう聞く。

そこはしっかり確認しておかないと、やはり自分にあうタイプデザインでなければいい写真は撮ることが出来ないから。

「あぁ、はい、実は、今回の依頼主であるブランドはブライダル関係で、式場からオーダードレスまで総合ブライダルプロデュース会社でして、 そこの縫製部門が新シリーズの結婚式の衣装を出すそうです。 ちなみに、その縫製部門のメインブランド名の一つが『Emperor of corolla』なんです」

「つまり、今回は普通の服でなく、新郎が着るようなタキシードとかモーニングということか?」 

まだ、結婚を意識するような年齢でないため漠然と思い浮かんだ新郎が着るであろう礼装の名前を挙げてみる。

「えっと、依頼では、フロックコートタイプのものを2点ということです」

古河山は、更にスケジュール帳をめくり依頼内容確認したうえそう俺に答えた。

「フロックコート、って?」

聞きなれない礼装名が出てくるのを聞いて疑問を解消すべく聞き返すと、

「あ、はい。 えっと、フロックコートとは、中世より伝わる伝統的な正礼装で、膝まで伸びる長い着丈が特徴でして、チャペル式や華やかなバンケットに最適とかで最近オーダーする人が増えてるみたいなんですよ」

と、古河山が説明してくれるがその説明を聞いても想像がつかない俺は、「へぇ、そうなんだ……」と、とりあえず相槌をうつ。

「依頼料は相場よりかなり高く提示してくれています。 それに、先方から実際会った後、その撮影から少したった後に開催されるブライダルフェアでのショーにも出てほしいよな事を仄めかしていましたね。 そこのブランド、その筋ではかなり有名らしいのでフェアー中はかなりの情報関係者や同じ業界の関係者も来るようで、ショーのモデルとして出るとなると+α を期待できそうな依頼なんですが、どうしますか?」

 古河山は、そう俺に、依頼の是か否を問う。

 基本的に、古河山というか俺の所属している事務所は、依頼の承諾をその当事者に任せてくれる。

「別にいいんじゃない? 俺は、別に断る理由はない」

そう言って俺は了承を示す。

「わかりました。 それでは、こちらの依頼は先方様に承諾との旨を伝えておきます」

「あ、古河山さん。 その新シリーズのブランド名と、コンセプトって言うかテーマみたいのってあるの?」

ふと、気になったことを古河山に聞くと、

「えっと、確か名前は『Princess corolla』で、コンセプトは"My sweet tall fiance. 私の彼は背高さん"です」

古河山はそう俺に答えると、スケジュール帳になにやら書き込んで、

「それでは、これで今日のミーティングは終わりです。 明日は予定通り朝から屋外撮影があるので遅れないように」

と、言い置いてミーティングルームから出て行った。



「"My sweet tall fiance. 私の彼は背高さん"か……」

ということは、身長差のあるカップルの為のデザインということが推測できる。

何気なく想像していた俺の脳裏に、ふと、恋人である沙織の顔が浮かんだ。

意識はしていなくとも、そう遠くない未来に必ずと望んでいること。

まだ自分は学生で、社会の何たるかも心得ていない若輩者である。

望んでいることはまだ先のことだけれども行き着く先はすでに決めている。

彼女と一生一緒に居る為に。

通過儀礼となるであろう儀式は、必ずやるつもりで居る。

自分が、彼女のその姿を見たいというのが一番の理由かもしれないけれど。

もちろん自分の隣でと言う条件付だけれども。

さぞかし彼女は、可憐で可愛らしいだろう。

「リョウ? なにぼーっとしてるんだ?」

危うく妄想にふけるそうになる俺を現実にもどす声がした。

声がしたほうを見ると、そこに琉誠と信也が立っていた。

俺に声をかけたのは信也だ。

二人が入ってきたことはまったく気づかなかった。

「いや、ちょっと考え事。 で、もう時間?」

今日、珍しく三人一緒での仕事が入っている為、撮影スタジオへ一緒に移動することを思い出し、信也にそう確認をしてみる。

「古河山さんが、下に車回すからってさっき地下駐車場に降りていった」

返答したのは信也ではなく琉誠。

「了解、では、行きますか」

そう言って、俺はすばやく先ほどの仕事をスケジュール帳に書き込んでから席を立った。


遠くない未来にきっと


もう一度ほんの少しだけ思いを馳せてから意識を仕事モードに切り替え俺はミーティングルームを後にした。



 彼の仕事 -His work- -完-


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