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私のせいたかくん  作者: 久郎太
移り行く季節の中で【短編集①】
17/25

Date -それは『シコウ』な時間-


「沙織、デートしよう?」


 私は高校2年生に涼君は高校3年生になり、新緑が目に眩しい5月の初旬の頃。

 彼は仕事、私は学園の菖蒲祭準備がひと段落した合間、久しぶりに一緒に下校し「喫茶ふぉれすとべあ」で俗に言う『放課後デート』を堪能している時にそう彼が切り出した。

「デート? 今しているよ??」

 首を傾げながら私がそう言うと、

「ごめん、言葉がたりなかった。 今度のオフの時に」

と、謝りながら彼はそう言いなおして、期待するように瞳を輝かせた大好きな笑顔を私に向けた。 

 涼くんと私は、彼氏彼女で、なんだか最近の彼は何かが変わった。

 多分、バレンタインを境にしてだったと思う。

 昼休み、昼食の時も生徒会室や、科長室ではなく季節の花が咲き誇り、甘い芳香を漂わせる薔薇の咲き誇る中庭で食べるようになった。

 学校でこそこそするように会っていたのに今では堂々と下校時間になると私の教室まで迎えに来てくれる。

 涼くんは、人気ファッションモデルで学業と仕事器用に両立して半端なく忙しい毎日を送っているけれど、その合間に私と一緒に居られる時間があれば何を置いても一緒に過ごしてくれるようになった。

 まるで、公私ともに周りに「恋人」だということをアピールするように。

 すごいな、とか、大変だよね、とか、負担にならない?、とか。口に出さないけれど、最近それが日常になるほど一緒に居る時間が、二人の仲が公衆の目にさらされる時間が多くなった。

 そんな中、最近になって付き合い始めた頃と今とではちょっと違う心情も出てくる。

 彼のことを「どうしょうもなく好き」という気持ちは変わらない。それは付き合い始めて半年ぐらい経った頃から受け始めた「嫌がらせ」をされて、一時は怪我を負いそうになる様な事があっても変わらなかった。

 けれど、彼と私じゃ釣り合わないじゃないかと、最近思うようになってきた。

 たとえば、こうして稀に誘ってくれる涼君のオフの日のデート時。まだ、付き合い始めた頃に一番初めにしたデートは夏祭りだった。

 あの時は気づいていなかったけれど、その時に感じた周りの人の視線。

 涼君はキャップを目深にかぶっていてモデルの「Ryo」と気取られることは皆無だたったけれど、背の高い彼が自分に合った私服を着こなし、モデルである彼が姿勢よく颯爽と歩いていれば、人目に付く。

 様になる彼にくぎ付けになる異性の人は多かったと思う。

 それから、ずっと私服での休日デートの時に感じる視線。

 普通の彼氏彼女の様に頻繁ではないけれど、映画に行ったりショッピングをしたり、そんなときに必ず気づいてしまう視線。

 多分彼は気づいていない。職業柄視線に慣れていて気にもならないと思うし、その種の視線は全て私に向けられているから。


 どうして隣に居るのが貴方なの?


 そう聞こえてきそうな視線。

 嘲笑を現した視線。

 その視線で嬉しいはずの楽しいはずの時間が、『至高』なはずな時間が、暗く出口のない迷路の様な『思考』の時間となってしまうのだ。

 だから、「オフの日のデートしよう?」と聞いて一瞬暗い表情になるのを抑えられなかった。

「沙織は、デートするの嫌い?」

 私の一瞬の表情を見落とさなかった彼がそう、少し首を傾げて戸惑う様に聞いてきた。

「……デートは、嫌いじゃない。 涼くんと一緒にいれて嬉しいし楽しいから」

 ちょっと躊躇いながら、そう前置きして、

「でもね、町中とか人が沢山いるところが苦手なの」

 彼が変わった様に私も変わった。

 前は我儘かもしれないと、内に秘めてしまった数々の言葉。

 けれど、今はちゃんと思っていることを彼に言う様になった。

 言葉にしないことで、誤解を生んだりすれ違ってしまうことがあると気付いたから。

 だけど、そう思っているけれど、本当の、視線のことは言えなかった。

「そっか、……じゃ、町中じゃなくて人があまりいない所だったら平気?」

 それを聞いた涼くんがホッとした表情をしたあと、少し思案してからそう切り出した。その問いに私が頷くと、

「実は、この前撮影で郊外にある森林自然公園にいったんだ。 そこ、ハイキングコースとかピクニックコースとか休憩所とか遊べる芝生広場とかあって、広いから人もいるけどそんなに気にならないから、そんなに遠くないし、たまにはそういう所でデートも新鮮でいいかもって思ってね」

 そう、彼が提案をする。


 郊外の自然森林公園

 うん、いいかも

 丁度、緑が綺麗な季節だし


「じゃ、私、お弁当作るね? 涼くんの好きなものいっぱい」

 ちょっと沈んでいた気持ちが、急上昇する。

 『思考』から『至高』に切り替わる。

「うん、楽しみにしてる」

 そう言って涼君は、本当にうれしそうに満面の笑みを浮かべた。


 久しぶりに次の涼君のオフの日が待ち遠しく思った。




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