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私のせいたかくん  作者: 久郎太
移り行く季節の中で【短編集①】
13/25

晩秋のお茶会

※題名を変更してあります


それは文化祭が近づいたある日の午後。

沙織と希有は、希有の兄であり生徒会長の雄輝ゆうきに頼み込まれ生徒会の臨時雑用係として数週間前からここ生徒会室に通っていた。

今日は土曜日で学校は休校日なのだが、文化祭が差し迫っている為に、生徒会長の雄輝をはじめに生徒会執行部と各科長、それに正午を過ぎた頃に沙織と希有の二人もお手伝いとして呼び出されていた。

「沙織ちゃん、この組の予算の確かめお願い。 希有お前はこれを入力しろ」

雄輝は、自分の手を休めずに2人に指示をだす。

「お兄様、そろそろ休憩にしませんこと? ここに着てからもう3時間ほどたっていましてよ」

希有が、差し出された書類を受け取りながらそう提案する。

「あ? もうそんなにたったのか。 時間がたつのが早すぎだ」

溜息つきながらそう雄輝はぼやいた。

「とりあえず、お兄様、私達休憩を取らせて頂きますわ。 さあ、さおちゃんお茶にしましょう!」

そう言って希有は、入力していたノートパソコンを閉じてその上に今受け取った書類を置くと目の前に座って電卓を打っていた沙織にそう声をかけた。

「え、あ、う、うんんん?!」

いきなり声をかけられた沙織は、危うく電卓のクリアキーを押しそうになって焦った。

膨大な数字の最終尾を打つ直前だったので、ドキドキものだ。

もし、クリアを押してしまっていたらあの神経をすり減らすような膨大な数字を一から計算しなおさなければならないのだから。

ゆっくりと、最後の数字を押して『=』で締めくくる。

表示した数字をメモしてから、ほっと息をつき顔を上げ希有を見てちょっと笑顔を向けてそのまま雄輝を見て、

「えっと、休憩してもいいですか?」

と、とりあえず確認する。

「ああ、行っておいで。 出来れば10~20分ぐらいで戻ってきてほしい所だけれども」

苦笑を浮かべて雄輝は、そう了承の言葉を発した。

「あ、ここで休憩しますよ、すぐに仕事始められますし。 確か電気ポットとマグカップありましたよね? 実は今日、紅茶の茶葉とパンプキンパイ持ってきたんですよ。 今紅茶入れますね」

そう言って、いそいそと沙織は隣のパイプ椅子に置いておいた小型のランチバスケットを持ち上げた。

「まぁ! もしかしてさおちゃんの手作りですの?」

希有は、喜色満面の笑みを浮かべながらそう沙織に聞くと、

「うん、今日呼び出しの連絡もらう前、午前中にね、知り合いの喫茶店で丁度ハロウィンの時期だからって試作のパンプキンパイ作ることになって、私もお手伝いしながら教えてもらって作ったの。 スクエア型じゃなくてホール型で作ったんだけど一人じゃ食べきれないからどうしようかと思って、午後からお呼びがかかったから紅茶と一緒に持ってきたの」

沙織は、ウキウキと小型のバスケットから持参したティーポットと茶葉と砂時計を取り出しお茶の用意をしはじめる。

ティーポットに茶葉とお湯を入れる。

なんともいえない良い香りが部屋に広がる。

蒸らし用のティーキャップをポットにかけて砂時計を逆さにする。

蒸らし時間が終わるまでの間にてきぱきと人数分のマグカップを用意する。

夏ごろから、沙織、希有、雄輝と涼雄の4人で昼食をここで食べている為にこっそりマイマグカップを各自置いてあるのだ。

あらかじめ4等分にしておいた、パンプキンパイをこれまた持参した紙皿に乗せるとちょうど、砂時計が落ちきった。

マグカップに均等になるように紅茶を注ぎパイの乗ったお皿に簡易ホークを添えて、紅茶とともにまずは年長者である雄輝に差し出し、そのあと希有に手渡す。

雄輝は、沙織とちゃんと視線を合わせてお礼を言い、希有はやはりお礼を言いながら差し出された紅茶とパイをそれは幸せそうな笑顔で受けとった。

「私は、なんて幸せ者なのかしら! さおちゃんのお手製のお菓子を口に出来るなんて!!」

感激のあまりそう口走りながらいそいそと席に座りなおす希有。

それにちょっと苦笑を浮かべた沙織も席に座る。

希有は、一口大にパイをホークで切り分け口に入れる。

「!! さおちゃん、このパイ絶品ですわ! 家のシェフよりおいしいですわよ」

興奮したように希有が歓声をあげる。

「口に合ってよかった。 初めて作ったからちょっと心配だったんだ。 でも、きゆちゃん、きゆちゃんちのシェフさんと比べたら失礼だよ」

沙織は、苦笑しながらやんわりと希有の言った言葉の最後の部分を訂正する。

「いや、下手な喫茶店のより美味しいんじゃないか?」

と、雄輝も賛同する。

雄輝は、相変わらず座って作業をしていたがパイの後に何気に口につけた紅茶に動きを止めた。

「この紅茶、変わった香りと味がするね。 これって、どこの紅茶なんだい?」

紅茶好きな雄輝は、口にした紅茶の味と香りに一瞬で魅了されていた。

「えっと、この紅茶は先ほど言った知り合いの喫茶店のオリジナルフレーバーの紅茶なんです」

ニコニコと笑顔で沙織はそう説明する。

「へぇ、いいね、この紅茶。 もし良かったら、今度その喫茶店の場所を教えてくれないかな?」

「はい、いいですよ。 文化祭が終わったら今度行きましょう、雄輝先輩ときゆちゃんと私で」

その沙織の提案に、

「じゃ、文化祭終わったら3人で打ち上げがてら行こうか」

と、雄輝は満面の笑みを浮かべながら紅茶を味わうように飲む。

「3人でどこに行くって?」

突然入り口の方から声がかかった。

部屋にいた3人はそろっていっせいに入り口に視線を送る。

そこには分厚い書類を持った涼雄がたっていた。

「涼くん!」

土曜は仕事が忙しい涼雄が居るとは思っていなかった沙織は、彼の姿を見たとたんに驚きがおから喜色満面の笑顔になる。

涼雄は、沙織にやさしい笑顔を向けると、つかつかと雄輝に近づき書類を机の開いている場所に置く。

「忙しい仕事の合間に登校してこうして大事な書類を仕上げたんだありがたく思え」

雄輝にちょっと棘を含んでそう涼雄が言うと、

「りょ、涼くん。 涼くんもお茶する?」

険悪になることを懸念した沙織が、あわてて涼雄にそう聞きながら二人の会話に割って入った。

「うん、丁度のどが渇いていたんだ。 沙織、俺にも入れてくれる?」

その一生懸命な沙織を見て、微笑しながら涼雄はそう答えた。

沙織は「そこに座ってまっててね」と、笑顔で空いている席を指し示しながら席を立つ。

「で、さっき言ってた3人でどこに行くって?」

座りながら涼雄は先ほどの問いをもう一度雄輝に聞くと、

「ああ、実は、この紅茶を出している喫茶店に文化祭の後に打ち上げで行こうってはなしになってな」

と、雄輝はマグカップを掲げてそう涼雄に説明する。

「涼くん、涼くんも一緒にどうかな?」

涼雄用のマグカップに紅茶を注ぎながらそう沙織が聞くと、

「うん、是非」

即答する涼雄。

「行くのは放課後だろ? 文化祭終わった後頃ってスケジュールの融通がきくからほぼ確定的に行ける」

と更に断言する。

めったにない沙織との放課後のデート(お出かけ)だ(若干2名ほどおまけが居るが)。

このチャンスを逃がす涼雄ではない。

涼雄の答えに沙織は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


このあと沙織のパンプキンパイを食べた涼雄が、希有以上に絶賛したのは言うまでもない。




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